生活魔法は万能です

浜柔

文字の大きさ
上 下
590 / 627

590 力を借りて

しおりを挟む
「おーっ! こりゃ痺れるねぇ!」

 タイラクは今し方魔物の首を斬り落とした剣先を見詰め、奇声にも似た感嘆の声を上げた。

「タイラク、お疲れさん。それにしてもよく一撃で決められたね」
「そりゃもうこの剣のお陰だな」

 タイラクはフヨヨンに剣を掲げてみせる。

「前の剣じゃ二度や三度斬らなきゃならなかったろうな」
「備えあれば憂い無しだね」
「まったくだ」
「それにしても凍らせても殆ど動きを止められなかったのは誤算だったね」
「そこは俺も焦った。ルキアスの弾丸が飛んで来て魔物をノックバックさせてくれたから上手く行ったがな」
「それだよ。ルキアス君も随分思い切ったね? タイラクに中ったらなんて思わなかったのかい?」
「思ったからザネクの『傘』と『大盾』の力を借りて……」

 あの時ルキアスはザネクが小さく差した『傘』に銃を載せて安定させ、横倒しに展開して貰った『大盾』で魔物の頭部から右上のみが射線に入るようにしてから射撃した。極めてタイトなタイミングでありながら、二人、特にザネクが間に合わせた。

「なるほどだね。それなら納得だよ」
「あー、でも、一回弾丸が掠って『大盾』が揺らいだ時には焦ったな」
「うん。あれで引き金を直ぐ放したし」
「まだ俺の『大盾』が弱いのか? それとも一〇〇弾ってのが強過ぎるのか?」
「ボク特製の一〇〇弾が強すぎると考えてくれたまえよ。弾頭は単なる鉄鋼弾じゃなく、弱いながらも魔法を付与しているからね」
「鋼鉄に付与できたんですか?」
「そこは『捏ね』たんだよ。形なんてまだ殆ど変えられないけど、魔法を付与するだけなら魔力を籠めて『捏ね』れば行けたのさ」

 『捏ね』がまだ甘いので強い魔法は付与できていないが、追々可能になれば一〇〇弾の威力は更に上がると言う。

「……次からはぶっつけ本番は止めようか」
「だな……」

 ルキアスとザネクはちょっと怖くなった。

「さて、ちょっくらこいつの魔石を抜いて、皮を少しひっぺがすとするか」

 タイラクは謎だった部分が判ったところで採集を始めた。石の槍を斬り飛ばして退け、魔物を切り刻んで魔石取り出し、牙、皮の一部、そして肉の一部を切り出した。
 タイラクの邪魔にならない場所ではシャルウィがナイフで魔物をツンツン突いてみているが、まるで刃が通る様子が無かった。
 作業も終わり、既に日が落ちる頃合いになっているので急いで地上への道を進む。
 途中、フヨヨンが奇妙なことを指摘した。

「魔物が極端に少なくないかい?」

 その原因は第一〇階層まで来たところで判明した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...