生活魔法は万能です

浜柔

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「おーっ! こりゃ痺れるねぇ!」

 タイラクは今し方魔物の首を斬り落とした剣先を見詰め、奇声にも似た感嘆の声を上げた。

「タイラク、お疲れさん。それにしてもよく一撃で決められたね」
「そりゃもうこの剣のお陰だな」

 タイラクはフヨヨンに剣を掲げてみせる。

「前の剣じゃ二度や三度斬らなきゃならなかったろうな」
「備えあれば憂い無しだね」
「まったくだ」
「それにしても凍らせても殆ど動きを止められなかったのは誤算だったね」
「そこは俺も焦った。ルキアスの弾丸が飛んで来て魔物をノックバックさせてくれたから上手く行ったがな」
「それだよ。ルキアス君も随分思い切ったね? タイラクに中ったらなんて思わなかったのかい?」
「思ったからザネクの『傘』と『大盾』の力を借りて……」

 あの時ルキアスはザネクが小さく差した『傘』に銃を載せて安定させ、横倒しに展開して貰った『大盾』で魔物の頭部から右上のみが射線に入るようにしてから射撃した。極めてタイトなタイミングでありながら、二人、特にザネクが間に合わせた。

「なるほどだね。それなら納得だよ」
「あー、でも、一回弾丸が掠って『大盾』が揺らいだ時には焦ったな」
「うん。あれで引き金を直ぐ放したし」
「まだ俺の『大盾』が弱いのか? それとも一〇〇弾ってのが強過ぎるのか?」
「ボク特製の一〇〇弾が強すぎると考えてくれたまえよ。弾頭は単なる鉄鋼弾じゃなく、弱いながらも魔法を付与しているからね」
「鋼鉄に付与できたんですか?」
「そこは『捏ね』たんだよ。形なんてまだ殆ど変えられないけど、魔法を付与するだけなら魔力を籠めて『捏ね』れば行けたのさ」

 『捏ね』がまだ甘いので強い魔法は付与できていないが、追々可能になれば一〇〇弾の威力は更に上がると言う。

「……次からはぶっつけ本番は止めようか」
「だな……」

 ルキアスとザネクはちょっと怖くなった。

「さて、ちょっくらこいつの魔石を抜いて、皮を少しひっぺがすとするか」

 タイラクは謎だった部分が判ったところで採集を始めた。石の槍を斬り飛ばして退け、魔物を切り刻んで魔石取り出し、牙、皮の一部、そして肉の一部を切り出した。
 タイラクの邪魔にならない場所ではシャルウィがナイフで魔物をツンツン突いてみているが、まるで刃が通る様子が無かった。
 作業も終わり、既に日が落ちる頃合いになっているので急いで地上への道を進む。
 途中、フヨヨンが奇妙なことを指摘した。

「魔物が極端に少なくないかい?」

 その原因は第一〇階層まで来たところで判明した。
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