生活魔法は万能です

５９１ 人だわ

　第一〇階層には魔物がひしめいていた。第一〇階層にしては大柄の体躯は下の階層から上がって来たと思われる。

「迂闊だったね。この可能性をもっとしっかり考えておくんだったよ」
「これって大発生？　でもどうして？」
「きっとあの隠し部屋の魔物が外に出たのに押しやられて他の魔物が階層を上がったんだよ。その後は玉突きさ」
「今思えばあの魔物を足止めしてる間は他の魔物が殆ど来ませんでした！」
「あいつを上の階行かせないようにばかり考えてたから他の魔物のことが疎かになってしまっていたね」
「反省はそのくらいにして、これを何とかしましょう」
「とにかく地上に出てみようか。そこまではメイナーダに頼むよ」
「了解よ」

　メイナーダが進行方向に向けて火炎の絨毯を敷き、これを目印にルキアスが『傘』で飛ぶ。経路上の魔物も殲滅できて一石二鳥だ。

「人だわ」

　第九階層から第八階層へ上る階段の近くでメイナーダが呟き、火炎の絨毯に僅かな穴を空けた。そこには人の姿があった。いや、人だったと言うべきか。誰が見ても生きてはいない姿だ。

「うげっ……」

　シャルウィは呻くような声を漏らしてそっぽを向いた。
　だが目を背けてばかりもいられない。

「また人だわ」

　メイナーダは淡々と事実を告げるが、次第にその頻度が上がり、第三階層まで来ると「何人」と纏めて告げることもあった。パーティーが全滅しているらしい。
　第一階層からの出口を目の前にしてまたも複数の犠牲者があった。

「おいおい、これじゃあ探索者が居なくなるんじゃないか？」

　ここまで通り過ぎた犠牲者は二〇人余り。通って来たのは最短ルートだから犠牲者を多めに目撃した可能性がある。だがこのルートに比べれば少なかろうが、他にも犠牲者は居る筈だ。場合によっては全部で一〇〇人近くを数えるかも知れない。もしそうなら現住している探索者の一割に達する。
　まだ九割の探索者が残っていると思う無かれ。一度の魔物の大発生で一割もの犠牲者が出るようなら、リスクが高過ぎて落ち着いた探索ができないと多くの探索者が考える。
　実のところ魔物の大発生での犠牲者は絶対数ではベクロテでも二桁、時に三桁に達する。絶対数では今回の犠牲者と大差は無い。それでもベクロテが安全に見えるのは探索者が極めて多く、犠牲者を割合で見れば僅かだからに他ならない。

「元々リスクの高いダンジョンではあるけれど、犠牲者が多過ぎたね。もっとダンジョンを安定させられればいいのだけどね」
「ダンジョンに主が居れば少しは違うと思いますけど……」

　ルキアスは第一階層の直前で『傘』を止めつつベクロテのダンジョンの主ヨーコを思い出した。