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「あれ? なんか様子が……」
ルキアスはベクロテから帰り、ダブラ上空に差し掛かったところで湿地の異変に気付いた。ダンジョン付近から煙が立っている。
現場へ真っ直ぐ向かって確かめたいルキアスだったが、『傘』に職人を乗せているので一旦宿舎付近に降りる。
するとちょうどシャルウィが居た。
「シャルウィ、何か起きたの?」
「ダンジョンからまた魔物が出て来たみたいなのよ。今ザネクの『傘』でタイラクさん達が行ってるわ」
着いたばかりで『傘』に乗ったままの職人達がざわめく。
「ダンジョンから魔物が出ただと!?」
「そんなに危ないなんて聞いてないぞ!」
「喧しい! ダンジョンから魔物が溢れてもいいようにする工事をしに来てるのを忘れたのか。工事前に魔物が溢れてなんの不思議がある? ぐだぐだ言うなら帰っちまえ!」
文句を言い出す職人も居たが、初老の職人が叱りつけると皆口を噤んだ。
「やたら威勢のいい声がすると思ったらポルクスのオヤジじゃねぇか。あんたも来たんだな。頼もしいぜ」
「おう、ドーズ。お前さんの手際を見せて貰うぞ」
「こりゃおっかねぇや。ところでさっきは何を怒鳴ってたんだ?」
「なぁに、こいつらが魔物が出たって聞いたくらいで怖じ気づきやがったんでな。帰っちまえって言ったところだ」
「おいおい勝手に追い返さねぇでくれよ。それに魔物のちょっとやそっとは心配いらねぇぞ。聞いたことあるんじゃねぇか? タイラク、フヨヨン、それにメイナーダがここに来てる」
「聞いた名前だな。特にそのメイ……」
聞いた名前と言いながら今聞いたばかりの名前を思い出そうとする仕草にドーズが苦笑する。
「メイナーダだ。炎滅の魔女って呼んだ方が判りやすいか?」
職人達がざわめいた。今日着いた職人も、ドーズ同様ポルクスの声を聞いて様子を見に来た職人もだ。名前は知られてなくても二つ名は知れ渡っていた。
「引退したって聞いてたが?」
「復帰してたんだよ。子連れでな」
「子連れで復帰?」
「まあ、事情を知りたければ本人に聞いてくれ」
他人にペラペラ話すことではないからと言いつつ、ドーズも聞いてなくて知らないから話しようも無い。
「そうだな。で、お前らはまだ怖いか?」
ポルクスは同乗していた職人達に訊いた。
「い、いや、だ、大丈夫だ。それだけの深層組が居るならあ、安心だ」
あまり大丈夫じゃなさそうに職人の一人は答えた。臆病者に見られたくないと思ったのかも知れないし、ここでクビにされては堪らないと考えているのかも知れない。
不意にバチャッと水音が響く。振り返ったルキアスは見た。
「魔物!?」
水の中から魔物が腹這いで這い上がって来ていた。
ルキアスは喫驚しながらも『収納』から銃を取り出して、狙いを定め、引き金を引いた。ベクロテのダンジョン、特に第二階層での乱獲によって半ば無意識で銃を撃てるようになっていた。
弾丸は魔物の頭部に命中する。
(あれ?)
ところが手応えが感じられなかった。
確かめてみれば魔物に下半身が無い。瀕死でここまで来て、ちょうどルキアスが銃を撃つ直前に死んだらしい。
何かに食われたようにも見えるが傷口が大きすぎる。
ルキアスが魔物の死因に思いを馳せていると、遠くにドドンと水音が響いた。
「何!? あれ!」
シャルウィが鋭い声を発して指を差す。
反射的にそっちを向いた皆の目に、クラーケンをも飲み込む程の巨大な魚が跳ねているのが見えた。
ルキアスはベクロテから帰り、ダブラ上空に差し掛かったところで湿地の異変に気付いた。ダンジョン付近から煙が立っている。
現場へ真っ直ぐ向かって確かめたいルキアスだったが、『傘』に職人を乗せているので一旦宿舎付近に降りる。
するとちょうどシャルウィが居た。
「シャルウィ、何か起きたの?」
「ダンジョンからまた魔物が出て来たみたいなのよ。今ザネクの『傘』でタイラクさん達が行ってるわ」
着いたばかりで『傘』に乗ったままの職人達がざわめく。
「ダンジョンから魔物が出ただと!?」
「そんなに危ないなんて聞いてないぞ!」
「喧しい! ダンジョンから魔物が溢れてもいいようにする工事をしに来てるのを忘れたのか。工事前に魔物が溢れてなんの不思議がある? ぐだぐだ言うなら帰っちまえ!」
文句を言い出す職人も居たが、初老の職人が叱りつけると皆口を噤んだ。
「やたら威勢のいい声がすると思ったらポルクスのオヤジじゃねぇか。あんたも来たんだな。頼もしいぜ」
「おう、ドーズ。お前さんの手際を見せて貰うぞ」
「こりゃおっかねぇや。ところでさっきは何を怒鳴ってたんだ?」
「なぁに、こいつらが魔物が出たって聞いたくらいで怖じ気づきやがったんでな。帰っちまえって言ったところだ」
「おいおい勝手に追い返さねぇでくれよ。それに魔物のちょっとやそっとは心配いらねぇぞ。聞いたことあるんじゃねぇか? タイラク、フヨヨン、それにメイナーダがここに来てる」
「聞いた名前だな。特にそのメイ……」
聞いた名前と言いながら今聞いたばかりの名前を思い出そうとする仕草にドーズが苦笑する。
「メイナーダだ。炎滅の魔女って呼んだ方が判りやすいか?」
職人達がざわめいた。今日着いた職人も、ドーズ同様ポルクスの声を聞いて様子を見に来た職人もだ。名前は知られてなくても二つ名は知れ渡っていた。
「引退したって聞いてたが?」
「復帰してたんだよ。子連れでな」
「子連れで復帰?」
「まあ、事情を知りたければ本人に聞いてくれ」
他人にペラペラ話すことではないからと言いつつ、ドーズも聞いてなくて知らないから話しようも無い。
「そうだな。で、お前らはまだ怖いか?」
ポルクスは同乗していた職人達に訊いた。
「い、いや、だ、大丈夫だ。それだけの深層組が居るならあ、安心だ」
あまり大丈夫じゃなさそうに職人の一人は答えた。臆病者に見られたくないと思ったのかも知れないし、ここでクビにされては堪らないと考えているのかも知れない。
不意にバチャッと水音が響く。振り返ったルキアスは見た。
「魔物!?」
水の中から魔物が腹這いで這い上がって来ていた。
ルキアスは喫驚しながらも『収納』から銃を取り出して、狙いを定め、引き金を引いた。ベクロテのダンジョン、特に第二階層での乱獲によって半ば無意識で銃を撃てるようになっていた。
弾丸は魔物の頭部に命中する。
(あれ?)
ところが手応えが感じられなかった。
確かめてみれば魔物に下半身が無い。瀕死でここまで来て、ちょうどルキアスが銃を撃つ直前に死んだらしい。
何かに食われたようにも見えるが傷口が大きすぎる。
ルキアスが魔物の死因に思いを馳せていると、遠くにドドンと水音が響いた。
「何!? あれ!」
シャルウィが鋭い声を発して指を差す。
反射的にそっちを向いた皆の目に、クラーケンをも飲み込む程の巨大な魚が跳ねているのが見えた。
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