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377 どよめき
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固唾を飲み込んでルキアスの様子を見ていた野次馬達から悲鳴とどよめきが響いた。「キャーッ!」「爆発だ!」「酷ぇ!」「あいつはどうなんたんだ!?」「そんな事気にしてる場合か!」「逃げろ!」。口々に叫びながら右往左往駆け回る。何かの破片や火の粉がパラパラ降って来るとなればおちおち見物なぞしていられない。我が身大事は野次馬だって一緒だ。むしろ野次馬こそその心が一番強いかも知れない。
そんな彼らの頭上、立ち上る煙の一部が横へと膨らんで千切れる。
「っぶなーっ!」
飛び出したのはルキアスの『傘』だった。ルキアスは『傘』に飛び乗ると同時に自分達を包み込むように『傘』を変形させたのだ。直感的にそうしたのだが、一瞬でも躊躇っていれば間に合わなかっただろう。爆風と爆炎が襲ったのはその直後だった。
煙から逃れたルキアスが上空から慌ただしく動く消防隊の様子を見ていると、既に張られた非常線の内側で手招きする隊員が見えた。ルキアスはその誘導に従い、『傘』を浅い皿状に変形させながら地面まで降ろす。そしてぐったりしたままの女性を抱き上げて押し付けるように消防隊員へと差し出した。
「この人の治療をお願いします!」
「……医療班! こっちだ!」
消防隊員は女性を一瞥しただけで、ルキアスをさておいて後方に手を上げて声を張り上げた。
ルキアスは間もなく担架を抱えてやって来た隊員に女性を渡し、続けて女の子を抱き上げて消防隊員に差し出す。
「この子もお願いします」
消防隊員は頷いて女の子を受け取った。
(それにしてもこの子静かだな……)
ルキアスはふとそう思って女の子の様子を覗うと、目を丸くして呆然としていた。心底驚いて放心しているようだ。
消防隊員は女の子も医療班に任せてルキアスに向き直る。ルキアスも『傘』を消して地面に立った。
「改めて感謝する。君のお陰で犠牲者が出ずに済んだようだ。君は飛行系の天職を持っているのかい?」
「いえ、あれは……」
「おっと、すまない。天職を尋ねるのは道徳に反していたね。ただ道徳ついでに君には注意して貰いたいことがある。今回は上手く行ったが、今後は断りも無く現場に手出しするのは止めて欲しい。消火は我々の仕事だ」
「す、すいません……」
素人が専門仕事に首を突っ込めば殆どの場合は足を引っ張る結果に終わる。今回のルキアスの行為が上手く運んだのはたまたまなのだ。ルキアスだって言われれば判る。
「ああ、判ってくれればいいんだ。君に感謝しているのは本当だからな」
「は、はあ……」
ただルキアスはどうせならもう少し後で言って欲しかったようにも感じた。達成感が湧く前に冷や水を浴びせられたようなものだから、疲労感ばかりが肥大する。帰りたくなった。
「じゃあ、ぼくはこれで失礼します」
「ああ。人命救助に感謝する」
消防隊員が敬礼で見送るのに軽く手を振って応え、ルキアスはとぼとぼとダンジョンタワーへと引き上げる。
(でもまあいっか。見て見ぬ振りしてたら後悔したろうから)
少なくとも後悔は避けられたのだ。
そんな彼らの頭上、立ち上る煙の一部が横へと膨らんで千切れる。
「っぶなーっ!」
飛び出したのはルキアスの『傘』だった。ルキアスは『傘』に飛び乗ると同時に自分達を包み込むように『傘』を変形させたのだ。直感的にそうしたのだが、一瞬でも躊躇っていれば間に合わなかっただろう。爆風と爆炎が襲ったのはその直後だった。
煙から逃れたルキアスが上空から慌ただしく動く消防隊の様子を見ていると、既に張られた非常線の内側で手招きする隊員が見えた。ルキアスはその誘導に従い、『傘』を浅い皿状に変形させながら地面まで降ろす。そしてぐったりしたままの女性を抱き上げて押し付けるように消防隊員へと差し出した。
「この人の治療をお願いします!」
「……医療班! こっちだ!」
消防隊員は女性を一瞥しただけで、ルキアスをさておいて後方に手を上げて声を張り上げた。
ルキアスは間もなく担架を抱えてやって来た隊員に女性を渡し、続けて女の子を抱き上げて消防隊員に差し出す。
「この子もお願いします」
消防隊員は頷いて女の子を受け取った。
(それにしてもこの子静かだな……)
ルキアスはふとそう思って女の子の様子を覗うと、目を丸くして呆然としていた。心底驚いて放心しているようだ。
消防隊員は女の子も医療班に任せてルキアスに向き直る。ルキアスも『傘』を消して地面に立った。
「改めて感謝する。君のお陰で犠牲者が出ずに済んだようだ。君は飛行系の天職を持っているのかい?」
「いえ、あれは……」
「おっと、すまない。天職を尋ねるのは道徳に反していたね。ただ道徳ついでに君には注意して貰いたいことがある。今回は上手く行ったが、今後は断りも無く現場に手出しするのは止めて欲しい。消火は我々の仕事だ」
「す、すいません……」
素人が専門仕事に首を突っ込めば殆どの場合は足を引っ張る結果に終わる。今回のルキアスの行為が上手く運んだのはたまたまなのだ。ルキアスだって言われれば判る。
「ああ、判ってくれればいいんだ。君に感謝しているのは本当だからな」
「は、はあ……」
ただルキアスはどうせならもう少し後で言って欲しかったようにも感じた。達成感が湧く前に冷や水を浴びせられたようなものだから、疲労感ばかりが肥大する。帰りたくなった。
「じゃあ、ぼくはこれで失礼します」
「ああ。人命救助に感謝する」
消防隊員が敬礼で見送るのに軽く手を振って応え、ルキアスはとぼとぼとダンジョンタワーへと引き上げる。
(でもまあいっか。見て見ぬ振りしてたら後悔したろうから)
少なくとも後悔は避けられたのだ。
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