生活魔法は万能です

浜柔

文字の大きさ
上 下
378 / 627

378 洗濯

しおりを挟む
 ダンジョンタワーの無料宿泊所に戻り、シャワーを浴びて着替えたルキアスは街行きの服を見てがっくりとなった。

「煤けてる……」

 焼け焦げこそ避けられたものの、煙に巻かれて煤けてしまった。買った当日にだから余計に残念な気分になる。

(買ったばかりなのになぁ……。とにかく洗わなきゃ……)

 ルキアスは洗濯場に行った。
 深めの『傘』を下に向けて差し、水を張る。以前はたらいだったが、『傘』が強化された今は『傘』の方が便利で専ら使っている。
 水は洗濯場に通されている水道のものを使う。『湧水』でも無理をすれば洗濯できるものの水量が少なく、あまり現実的ではない。
 これはルキアスに限らない。『湧水』は殆どの人が飲み水や炊事を賄える程度にしか使えず、炊事や入浴のためには別途水が必要とする。そのためベクロテのような大きな都市には水道が通されている。
 『傘』の水を『加熱』する。ぬるま湯の方が汚れ落ちが良い。だから冷たい冬の水をそのまま使うこともない。洗濯物を入れ、石鹸を馴染ませたら『水掻き』で撹拌、汚れが目立つ部分は手揉みする。
 洗い終わったら一旦洗濯物を桶に避け、『傘』を消して差し直す。これに水を張れば石鹸滓が気にならずに濯げる。濯ぎを二度か三度繰り返し、軽く絞る。強く絞ったら生地が傷むのでギュッとはやらない。
 『傘』を小さく目の高さで差し直し、洗濯物を手作りのハンガーに掛けて引っ掛ける。洗濯物の皺をある程度伸ばして『傘』を頭の上まで上げ、また洗濯物の裾を束ねて滴る水を桶で受け止めながら物干しへ移動。
 物干しに着いたら再度洗濯物の皺を伸ばしつつ火傷しない程度に『加熱』。『ふいご』で風を送って乾かす。
 こんな具合に洗濯をしていると、通り掛かった人に「それは何だ?」と『傘』を指差されたりするのは悩みの種だ。嘘を言ってもしょうがなく、正直に答えれば「冗談は止せよ」と言った反応をされてしまい勝ちで返答に困るのだ。
 水が滴る濡れ具合から乾かしたせいで乾くまでには時間が掛かり、ルキアスは二時間ばかり費やすこととなった。

(何かいい絞り方が無いかなぁ……)

 こんな部分で時間をあまり費やしたくないルキアスだった。




 翌日になればルキアスとしてはもうすっかりいつもの日常である。クッションも早速使う。
 クッションをそのまま使っては直ぐに布地が駄目になってしまいそうだと考え、ルキアスはクッションを買えなかった時のためにと買った袋に詰めて使った。これがすこぶる具合が良かった。『傘』を消す時にクッションの回収を忘れて床に落としてしまっても汚さずに済んだのだ。
 そうして何も変わった事も無く探索も終えた。
 ところが夕方、ルキアスは探索を終えてダンジョンを出た所でロマに呼び止められる。

「なあ兄弟。これって兄弟だろ?」

 ロマに幾つも広げて見せられたのは今日の新聞だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

忠犬ポチは、異世界でもお手伝いを頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
私はポチ。前世は豆柴の女の子。 前世でご主人様のりっちゃんを悪い大きな犬から守ったんだけど、その時に犬に噛まれて死んじゃったんだ。 でもとってもいい事をしたって言うから、神様が新しい世界で生まれ変わらせてくれるんだって。 新しい世界では、ポチは犬人間になっちゃって孤児院って所でみんなと一緒に暮らすんだけど、孤児院は将来の為にみんな色々なお手伝いをするんだって。 ポチ、色々な人のお手伝いをするのが大好きだから、頑張ってお手伝いをしてみんなの役に立つんだ。 りっちゃんに会えないのは寂しいけど、頑張って新しい世界でご主人様を見つけるよ。 ……でも、いつかはりっちゃんに会いたいなあ。 ※カクヨム様、アルファポリス様にも投稿しています

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...