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251 何か来ますわ
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昼の休憩の後から、ザネクは丁字路などの見通しの利かない場所でもシャルウィが警告を発しない限り手前に立ち止まるのを止めた。『鏡』で見えない向こうを確かめることまでは止めていないが、念入りに確かめるのを止めたのだ。
ザネクが『鏡』に拘っているように見えるのはルキアスの行動に引き摺られている面もあるが、ザネク自身が『鏡』に可能性を感じているからでもある。『傘』は使えば使うほどに使い勝手が増し、今はもう出会って直ぐのルキアスの『傘』より頑丈だ。『鏡』にも期待してしまうのも致し方ないだろう。
一方、ルキアスは『鏡』は出したまま『鏡』を見ずに後方を感じ取る努力を変わらず続けるだけ。変えようが無いとも言う。
そんなこんなで変化があったのはそれから五日目のこと。エリリースは週末には同行しないので、実質三日目だ。
「右から何か来ますわ」
「え?」
十字路でシャルウィに先んじてエリリースが発した警告に間の抜けた反応を示したのはザネクであったろうか、それともルキアスであったろうか。
「確かに来るわね」
シャルウィが警告を重ねたことで戦闘態勢が優先され、誰の声かはうやむやになった。
そして現れたコボルトの群に苦戦する要素は無かった。男二人が釈然としない顔をしていただけのことである。
その後も常にではなかったが、エリリースは見えない魔物を幾度となく察知した。その度毎に男二人が酸っぱい物を食べたような表情になったのは致し方ないのかも知れない。本人達は表情を隠しているつもりだ。
探索を終えた後、男二人は地下街の食堂で膝を突き合わせるかのように食事をしていた。
「エリリースってぼくらより経験浅い筈だよね?」
「おう。全部を見ちゃいないが、初めてが俺たちと一緒だったし、ダンジョンに入れる日も限られてるんだからかなり少ない筈だ」
「それがどうしてぼくたちより先にシャルウィと同じ事ができるようになっちゃうの?」
「それは俺が聞きたい」
「天職に魔法を持ってると感じやすくなるの……ね」
「「えっ!?」」
突然割り込んで来たリュミアの声に男二人は光の速さで振り向いた。その頓狂な表情にリュミアが「ふふっ」と笑いを零す。
「姉ちゃん、帰ったんじゃ?」
「あなた達の様子がおかしかったからまた見に戻って来たの……ね」
「そんなに変でした?」
「ええ。エリリースも気が付く程……ね。気にしてたわ……よ?」
「ぐはっ……」
ルキアスは胸を押さえて苦悶した。気付かれないように振る舞ったつもりだった。
ザネクが『鏡』に拘っているように見えるのはルキアスの行動に引き摺られている面もあるが、ザネク自身が『鏡』に可能性を感じているからでもある。『傘』は使えば使うほどに使い勝手が増し、今はもう出会って直ぐのルキアスの『傘』より頑丈だ。『鏡』にも期待してしまうのも致し方ないだろう。
一方、ルキアスは『鏡』は出したまま『鏡』を見ずに後方を感じ取る努力を変わらず続けるだけ。変えようが無いとも言う。
そんなこんなで変化があったのはそれから五日目のこと。エリリースは週末には同行しないので、実質三日目だ。
「右から何か来ますわ」
「え?」
十字路でシャルウィに先んじてエリリースが発した警告に間の抜けた反応を示したのはザネクであったろうか、それともルキアスであったろうか。
「確かに来るわね」
シャルウィが警告を重ねたことで戦闘態勢が優先され、誰の声かはうやむやになった。
そして現れたコボルトの群に苦戦する要素は無かった。男二人が釈然としない顔をしていただけのことである。
その後も常にではなかったが、エリリースは見えない魔物を幾度となく察知した。その度毎に男二人が酸っぱい物を食べたような表情になったのは致し方ないのかも知れない。本人達は表情を隠しているつもりだ。
探索を終えた後、男二人は地下街の食堂で膝を突き合わせるかのように食事をしていた。
「エリリースってぼくらより経験浅い筈だよね?」
「おう。全部を見ちゃいないが、初めてが俺たちと一緒だったし、ダンジョンに入れる日も限られてるんだからかなり少ない筈だ」
「それがどうしてぼくたちより先にシャルウィと同じ事ができるようになっちゃうの?」
「それは俺が聞きたい」
「天職に魔法を持ってると感じやすくなるの……ね」
「「えっ!?」」
突然割り込んで来たリュミアの声に男二人は光の速さで振り向いた。その頓狂な表情にリュミアが「ふふっ」と笑いを零す。
「姉ちゃん、帰ったんじゃ?」
「あなた達の様子がおかしかったからまた見に戻って来たの……ね」
「そんなに変でした?」
「ええ。エリリースも気が付く程……ね。気にしてたわ……よ?」
「ぐはっ……」
ルキアスは胸を押さえて苦悶した。気付かれないように振る舞ったつもりだった。
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