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250 へたれども
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男二人は相談の上、『鏡』などに頼らなくて済むように「勘」を鍛えることにした。当面の目標は魔物をシャルウィに先んじて「勘」で発見することだ。
しかしできる事は限られている。ザネクは見通しの利かない場所の手前で神経を研ぎ澄まして気配を探り、ルキアスは時々『鏡』を見ずに後方の気配を探るだけだ。
その後で今まで通りの手順で状況を確認する。
「もう! まどろっこいわね! 『鏡』で見なくたって魔物なんて居ないわよ!」
シャルウィがぶち切れた。ザネクがやり方を変えても見通しの利かない場所で毎度毎度立ち止まるのは変わらない。何かを感じ取ろうとする努力の分だけ遅くなったくらいのものだ。だからなかなか先に進めず、このことがいたく気に入らないらしい。肩を怒らせて怒鳴りつけるものだからザネクもたじたじだ。
「それは、ほら。目でしっかり確認しなけりゃだろ?」
「だから、居ないものを探したってしょうがないでしょ! こんな階層にあたしの勘が外れるような魔物は居ないわよ!」
「お、おう……。判った。シャルウィに任せる」
「……任されるわ。はあ……」
シャルウィは疲れた息を吐いた。ザネクが不承不承で譲歩したのが丸分かりだったからだ。
「一度休憩しましょ」
「お、おう。そうだな。休憩しよう」
ザネクが同意すると、シャルウィはそのばにドカッと座った。その隙にザネクがこそこそとその場から離れる。そしてまたその姿を見たシャルウィは「あんの、へたれめ~」と唸り声を上げた後で、盛大に溜め息を吐いた。
かなり態度が悪くなっているシャルウィの傍にはエリリースがちょこんと座る。
「シャルウィさん、今更ながらに驚きましたわ! 見えない場所に魔物か居るか居ないか判るだなんて、なかなかできることではありませんわ!」
「そうでしょう。そうでしょう。あんなへたれどもとは違うのよ!」
シャルウィは褒められて鼻高々だ。割と軽い女である。
その視線の先では男二人が膝を突き合わせてひそひそ話をしている。
「あんな事、言ってるけど?」
「ルキアスだって含まれてんぞ」
「え!?」
「『ども』って言ったろ」
「あ……」
二人は互いに反対側を向いて溜め息を吐く。そして再度顔を寄せる。
「で、どうするの?」
「どうもこうも今はシャルウィの言う通りにしておくしかねぇな」
「だよね……」
男二人の背中に哀愁が漂った。そんなものが似合う歳でもないので残念なばかりだが。
しかしできる事は限られている。ザネクは見通しの利かない場所の手前で神経を研ぎ澄まして気配を探り、ルキアスは時々『鏡』を見ずに後方の気配を探るだけだ。
その後で今まで通りの手順で状況を確認する。
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シャルウィがぶち切れた。ザネクがやり方を変えても見通しの利かない場所で毎度毎度立ち止まるのは変わらない。何かを感じ取ろうとする努力の分だけ遅くなったくらいのものだ。だからなかなか先に進めず、このことがいたく気に入らないらしい。肩を怒らせて怒鳴りつけるものだからザネクもたじたじだ。
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「で、どうするの?」
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「だよね……」
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