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240 壁の仕掛け
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何らかの仕掛けは動いた。だが何も起きない。
それはそうだ。同じものがもう一箇所在るのだから、片方動かすだけで何かが起きると考える方が楽観的だ。
「そんじゃ、こっちも押してみるぞ」
ザネクが左下隅の音の違った石を押す。するとこの石もガコッと奥へと引っ込んだ。
だが何も起きない。ザネクは思案顔だ。
「何か足りないんだろうな」
「何か……」
ルキアスは壁を一望できる場所まで壁から離れ、全体を見回してみる。
仕掛けが在ったのは右下と左下だ。シンメトリーのようでありながらどこかバランスが悪く感じられる。
「もしかして」
「何か閃いたか?」
「うん。もしかしたらだけど確かめてみるよ。『傘』」
ルキアスは小さめに『傘』を差して乗り込み、壁の右上隅へと上がる。そして右上隅から少し――右下隅から仕掛けの石までの距離と同じくらい――離れた石を押してみる。
ガコッと奥へと引っ込んだ。
「おおー」
ザネクが感嘆の声を漏らした。
ルキアスはザネクに軽くどや顔を返すと、左上隅に移動する。四隅の三つまでに仕掛けが在ったなら残る一つに在る筈だ。それが証拠に仕掛け全体はまだ動いていない。その左上隅、やはり同じくらいの距離の石を押す。
ガコッと奥へと引っ込んだ。
ところが次の瞬間、壁がゆっくりと手前に傾き出した。目前で壁がずれていくのだからルキアスにははっきりと見える。
「逃げて! 倒れる!」
「うおっ!?」
ルキアス自身も壁から離れつつザネクに警告を発すると、ザネクは一目散に壁から遠くへ駆け出した。十分離れて振り返ると、ちょうど壁が地響きを起てて床に激突するところであった。
もうもうと土埃が舞う光景を前にしてザネクがぼやく。
「危ねぇなー」
上の二つの仕掛けは空を飛ぶか梯子を使わなければ動かせない。普通には梯子だ。しかし梯子に昇っで仕掛けを動かしたとしたら、果たして倒れる壁から逃げおおせるか。この階層が適正な探索者なら運が良くてギリギリ逃げられるくらいだろう。
埃が鎮まるのに合わせるようにルキアスも床に降り、二人で壁の向こうだった場所を見定める。
そこは隠し部屋で、宝箱らしき箱がポツンと置かれているだけだ。
「何の捻りもねぇな」
「あったら困るよ」
「まあな。開けてみようぜ」
「うん。でも罠とか無いよね?」
「箱には無いんじゃないか? 壁が罠みたいなものだったからな」
「それもそうだね」
そうして開けた宝箱の中身は何の変哲も無い鉄の剣であった。
二人して微妙な顔になったのは言うまでもない。
それはそうだ。同じものがもう一箇所在るのだから、片方動かすだけで何かが起きると考える方が楽観的だ。
「そんじゃ、こっちも押してみるぞ」
ザネクが左下隅の音の違った石を押す。するとこの石もガコッと奥へと引っ込んだ。
だが何も起きない。ザネクは思案顔だ。
「何か足りないんだろうな」
「何か……」
ルキアスは壁を一望できる場所まで壁から離れ、全体を見回してみる。
仕掛けが在ったのは右下と左下だ。シンメトリーのようでありながらどこかバランスが悪く感じられる。
「もしかして」
「何か閃いたか?」
「うん。もしかしたらだけど確かめてみるよ。『傘』」
ルキアスは小さめに『傘』を差して乗り込み、壁の右上隅へと上がる。そして右上隅から少し――右下隅から仕掛けの石までの距離と同じくらい――離れた石を押してみる。
ガコッと奥へと引っ込んだ。
「おおー」
ザネクが感嘆の声を漏らした。
ルキアスはザネクに軽くどや顔を返すと、左上隅に移動する。四隅の三つまでに仕掛けが在ったなら残る一つに在る筈だ。それが証拠に仕掛け全体はまだ動いていない。その左上隅、やはり同じくらいの距離の石を押す。
ガコッと奥へと引っ込んだ。
ところが次の瞬間、壁がゆっくりと手前に傾き出した。目前で壁がずれていくのだからルキアスにははっきりと見える。
「逃げて! 倒れる!」
「うおっ!?」
ルキアス自身も壁から離れつつザネクに警告を発すると、ザネクは一目散に壁から遠くへ駆け出した。十分離れて振り返ると、ちょうど壁が地響きを起てて床に激突するところであった。
もうもうと土埃が舞う光景を前にしてザネクがぼやく。
「危ねぇなー」
上の二つの仕掛けは空を飛ぶか梯子を使わなければ動かせない。普通には梯子だ。しかし梯子に昇っで仕掛けを動かしたとしたら、果たして倒れる壁から逃げおおせるか。この階層が適正な探索者なら運が良くてギリギリ逃げられるくらいだろう。
埃が鎮まるのに合わせるようにルキアスも床に降り、二人で壁の向こうだった場所を見定める。
そこは隠し部屋で、宝箱らしき箱がポツンと置かれているだけだ。
「何の捻りもねぇな」
「あったら困るよ」
「まあな。開けてみようぜ」
「うん。でも罠とか無いよね?」
「箱には無いんじゃないか? 壁が罠みたいなものだったからな」
「それもそうだね」
そうして開けた宝箱の中身は何の変哲も無い鉄の剣であった。
二人して微妙な顔になったのは言うまでもない。
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