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188 落下
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ザネクは崖にしがみつきながら右手を伸ばす。ルキアスもその手に手を伸ばすが、指先が擦って擦れ違った。
「うわわわわわーっ!」
「ルキアース!」
ザネクの叫びが一瞬で遠くなる。だがその声を切っ掛けに、『傘』に乗った時の光景が頭を過ぎった。
「『傘』!」
直感に従って身体の下で上を向け、特大の『傘』を差す。だが風除けになっただけだった。自身からの相対位置で展開される『傘』は落下に合わせて下へと移動する。風除けになる分、却って落下が加速する。
ルキアスは慌てた。
(もっとこっちに!)
慌てたから理論的に考えたものではない。逃げて行く『傘』にどうにか手を届かせたい一心で手前に移動させただけだ。しかしこれによって『傘』の落下速度が落ちる
「ぶべっ!」
動かすのが速ぎたせいでべちゃっと『傘』に張り付き、顔も強かに打ち付けた。が、ルキアス自身の落下速度も遅くなる。
本能的にこれしかないと感じたルキアスは身体の重みを二倍にも三倍にも感じながらも『傘』を更に手前に引く。だが『傘』は元来強度の無いものなのだ。ルキアスのそれが非常識な強度を持っていても、重力の倍以上で加重を掛け続けられて無事で済むのを期待はできない。案の定、ミシッと悲鳴を上げ始めた。
身体が重いせいで横を向いたまま『傘』に張り付いて顔を上げられないルキアスに今どの辺りを落ちているのかは判らない。景色の動きから、まだ落ちているのが判るだけだ。
(保って!)
その願いも空しくミシミシと『傘』が軋む音は激しくなるばかり。そして遂には崩壊した。ルキアスはまた自由落下する。
「わわっ! 『か……、ぐえぇっ!」
慌てて次の『傘』を差そうとしたルキアスだったが、直後に身体に軽い衝撃を受けた。続けて襲って来るのは口の中のジャリジャリ感と、チクチクする目の痛み。何かが口や目に入ったのだ。
「うわっ! なん……! 水、水っ!」
言葉にならない言葉を発しながらも、急いで『湧水』で水を出して目を洗い、口を濯ぐ。ペッペッと濯いだ水を吐き出して、漸く人心地を得る。
ルキアスはここで漸く気付いた。今はもう落ちてないことに。周囲を見回して自分の位置を確かめると、切り立った崖の下だった。『傘』が破れたのは地面に達する直前だったのだ。
「た、助かったぁ……」
ルキアスは改めて脱力した。
「ルキアース!」
「あ、ザネク! こっち!」
ルキアスは息せき切って走って来るザネクに手を振った。
「うわわわわわーっ!」
「ルキアース!」
ザネクの叫びが一瞬で遠くなる。だがその声を切っ掛けに、『傘』に乗った時の光景が頭を過ぎった。
「『傘』!」
直感に従って身体の下で上を向け、特大の『傘』を差す。だが風除けになっただけだった。自身からの相対位置で展開される『傘』は落下に合わせて下へと移動する。風除けになる分、却って落下が加速する。
ルキアスは慌てた。
(もっとこっちに!)
慌てたから理論的に考えたものではない。逃げて行く『傘』にどうにか手を届かせたい一心で手前に移動させただけだ。しかしこれによって『傘』の落下速度が落ちる
「ぶべっ!」
動かすのが速ぎたせいでべちゃっと『傘』に張り付き、顔も強かに打ち付けた。が、ルキアス自身の落下速度も遅くなる。
本能的にこれしかないと感じたルキアスは身体の重みを二倍にも三倍にも感じながらも『傘』を更に手前に引く。だが『傘』は元来強度の無いものなのだ。ルキアスのそれが非常識な強度を持っていても、重力の倍以上で加重を掛け続けられて無事で済むのを期待はできない。案の定、ミシッと悲鳴を上げ始めた。
身体が重いせいで横を向いたまま『傘』に張り付いて顔を上げられないルキアスに今どの辺りを落ちているのかは判らない。景色の動きから、まだ落ちているのが判るだけだ。
(保って!)
その願いも空しくミシミシと『傘』が軋む音は激しくなるばかり。そして遂には崩壊した。ルキアスはまた自由落下する。
「わわっ! 『か……、ぐえぇっ!」
慌てて次の『傘』を差そうとしたルキアスだったが、直後に身体に軽い衝撃を受けた。続けて襲って来るのは口の中のジャリジャリ感と、チクチクする目の痛み。何かが口や目に入ったのだ。
「うわっ! なん……! 水、水っ!」
言葉にならない言葉を発しながらも、急いで『湧水』で水を出して目を洗い、口を濯ぐ。ペッペッと濯いだ水を吐き出して、漸く人心地を得る。
ルキアスはここで漸く気付いた。今はもう落ちてないことに。周囲を見回して自分の位置を確かめると、切り立った崖の下だった。『傘』が破れたのは地面に達する直前だったのだ。
「た、助かったぁ……」
ルキアスは改めて脱力した。
「ルキアース!」
「あ、ザネク! こっち!」
ルキアスは息せき切って走って来るザネクに手を振った。
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