生活魔法は万能です

浜柔

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189 傘

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「ル、ルキアス!? 平気なのか!?」

 ザネクは暢気そうにしているルキアスを見て喫驚した。ルキアスの落ちた場所へ急ぐのを優先したため、落ちる途中は見ていなかったのだ。

「うん。ちょっと擦り剥いたりはしてるけど」
「どう、やって助かったんだ?」

 ザネクの目は奇異なものを見るそれだ。ルキアスは少し傷付くが、逆の立場だったら似たような表情をしただろうと思い直した。

「『傘』だよ。『傘』に乗ったんだ」
「はあっ!?」

 ザネクはいよいよ奇声を上げる。

「ルキアスの『傘』がとんでもない強度なのは知ってたが、そこまでか!」
「そうみたいだね」
「しかしよくあの状況で『傘』なんて出せたな?」
「条件反射?」
「ははっ!」

 ザネクは「それもルキアスらしいな」と声を出して笑うが、ルキアスは別に冗談は言っていない。自身でそうとしか思えないのだ。考えていたら恐らく間に合わなかった。

「前から何かと使ってたから」
「そうだったな。しかし『傘』にそんな使い方があるとはな。俺も練習してみるかな……」
「え? てっきり興味ないのかと思ってたよ」
「興味ならあるぜ? っつーか、ルキアス見てて興味が湧いてた」
「そうなの?」
「だってよ? 頼りなくても盾代わりになるだけで戦術の幅が広がるんだからな。その上崖から落ちた時の命綱になるなら練習しない手はないだろ」
「そう言われるとそうだね……。でもどうやって練習するつもり?」

 ルキアス自身は改めての練習は一切していない。だから練習方法が想像できなかった。

「そりゃあ、ルキアスが日頃やってる事だな」
「いや、でもね……」

 日頃にやっているのは盾代わりにすることだ。しかしルキアスの実感としては命の危機を『傘』で乗り越えた時に強度がぐんと伸びた。人為的にそれはできないし、そんな危険な場所にばかりも行けないだろうとも考える。
 そこをザネクに言えば、ザネクも難しい顔になった。

「ルキアスにはそんなに命の危機があったのか……。いや、あったな……」

 ザネクが知っているだけでも今回で三度目。ダンジョンタワーの地下が水没した時、ダンジョンの壁まで往復した時、そして今日。オークの大群に出口を塞がれた時も含めれば四度だ。その内水没を除けばザネクも同じ場に居た。更にその内の二度はザネク自身の失策が原因と言えるため、少々心苦しい部分でもある。
 ルキアスは練習の難易度に言及したつもりだったが、ザネクの感想はルキアスの予想から大きく外れて迷子になった。
 ともあれ、今日は二人して肝を冷やしたことで探索を早々に切り上げた。
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