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8.オースティンの逆襲

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 ある日、クローネが、応接室に女性のお客様がみえており、オースティン様がいつになく怒っていると教えてくれた。

 オースティン様が怒っているようなそぶりを見せたのは、あの夜会の後と今回が二度目だ。

 結局、オースティン様とサネルマさんはお付き合いしているの?
 していないの?
 私には、わからなかった。

 しかも、クローネが、

「エミリア様、オースティン様が応接室でお呼びです。」

 と告げる。

 そんなの嫌。
 オースティン様と女性がいるところになんて、行きたくない。

 二人を直視するのは、最も避けたいことなのに。
 見たらきっと傷つくのは、わかっている。

 こちらに来てから、邸の中では、オースティン様は私をほぼ放置だったのに。

 どうして、よりにもよって、女性と揉めているところに私を呼ぶの?

 それに、私自身、揉め事は避けて生きてきたのに、あえてその中に入って行くなんて、嫌だ。

 でも、オースティン様が呼んでいるなら、行くしかないのね。

 オースティン様は私の婚約者だし、今はこの邸の公爵家当主だし。
 私は断れる立場にない。

 私は、渋々二人の元へ向かうのであった。

「お呼びでしょうか、オースティン様」

「やあ、待っていたよ。
 こっちにおいで。」

 オースティン様は私が応接室に入ると急に笑顔になり、オースティン様が座っているソファの横をポンポンと叩いて、私をそこに座るよう促す。

 えっ、どうしたの、オースティン様?
 今までそんなことしたことないのに。

 サネルマさんが、あんぐりと口を開けて、オースティン様を見ているわ。

 でも、ここで彼に従わない訳にはいかず、そおっとオースティン様の横に座る。

 するとオースティン様は、私の身体の回りに腕を回して、引き寄せる。

 キャーっ、この接触は何?
 恥ずかしい。

 両手で、顔を覆ってしまいたいが、グッと我慢して、まるで何でもないかのように微笑む。

 今まで一度でも、このようなことをしたことはなかったのに。

 いきなりどうしたの?
 オースティン様。

 でも、私は貴族令嬢だ。
 どんな時だって、人前で狼狽えることはせず、身体を硬直させて、オースティン様の接触に耐える。

 するとオースティン様は肩に手を回したまま、満足そうに私の頭にキスする。

 くっ。
 声が、出そう。

 でも、オースティン様は私をよくわかっている。
 人前で、彼を否定することなんて、絶対にしない。

 とは言え、前の婚約時の時から、オースティン様はエスコートの時、腕を組むぐらいで、私と一定の距離を保っていたので、こんなことは初めてだった。

 私は、彼に包まれていることで、胸のドキドキがおさまらず、ついに下を向いて、彼にもたれかかってしまう。

 それを見たサネルマさんは、

「オースティン様。
 エミリア様とは、ほとんど会わないし、会っても二人はよそよそしいと伺っておりましたが?」

「そんな噂は知らないな。
 僕達二人の時はいつもこうだよ。
 僕達のことを勝手に決めつけないでくれ。

 そう言うことだから、お引き取り願おうか。

 くれぐれも、変な噂を立てて、エミリアを侮辱することは僕が許さないから。
 覚えておいてくれ。」

 サネルマさんは悔しそうに、顔を背けながら、逃げるように帰って行った。



「オースティン様、そろそろこれを外していただけます?」

 応接室でやっと二人きりになると、ピッタリと横にくっついていることに、私はいたたまれず、自分に回されたオースティン様の手を離してもらおうと思った。

「こうされるのは、嫌い?」

 オースティン様は私の瞳を見ながら、笑顔で問いかけて来る。

「嫌いと言うわけではないんですが、動揺しています。」

「じゃあ、このままにしよう。
 君を動揺させれるなんて、最高だ。

 最初から遠慮しないで、こうしていれば良かったのかな。

 僕達は婚約者同士だし、許されるよね。」

 オースティン様は、上機嫌で話す。

「まぁ、そうとも言いますけれど。」

 私は、二人のこのゼロ距離が慣れなくて、胸のドキドキはおさまる気配をみせない。

 本当にどうしたのだろうか、オースティン様は?

「僕は以前婚約していた時は、説明をすれば、僕が好きなのは君だとわかってくれる。

 君は僕に間違った噂があったとしても、僕を信じてくれる。
 そう思っていた。

 けれども、それは僕の思い違いだった。

 だから、再び婚約してからは、少しずつ君と話をすることで、これまでの誤解を解こうと思っていた。

 けれど、君は過去の話を望まないし、そうしているうちに、変な女まで湧いてきて、僕と付き合っているなどと嘘の噂を立てようとする。

 だったら、僕はこうする。
 君を抱きしめるんだ。
 人がいても、いなくても。

 そうすれば、君も僕が君を好きだという気持ちを誤解しないだろうし、変な噂もしだいに跳ね除けるだろう。

 本当は君の気持ちを確かめてから、こうしようと思っていた。

 けれども、そんなことを思って、何もしないでいると、また僕達は同じことを繰り返す。

 僕は君を再び失うことが、怖くてたまらないんだ。

 君は、僕に女性が近づいたら、きっと逃げ出すだろう。

 そんなことは許さない。
 僕は今度こそ、君を絶対に離さない。

 だから、君は早く今の僕に慣れて。
 これが、僕達の新しい形だから。」

 そう言って、再びオースティン様は私の頭にキスをする。

 どうしてこんなことに?
 私のせい?
 私がまたも、オースティン様の女性関係の間違った噂を信じたから?

 彼の言うとおり、今までのオースティン様とは全く違う。

 私を離さないとでも言うように、笑顔でピッタリと抱きしめている。

 彼の香りに包まれて、抱きしめられると、幸せすぎて、めまいがする。

 私はいけないものを掘り起こした、そんな気分だった。

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