婚約破棄を、あなたのために

月山 歩

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7.新しい女性

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 こちらに来てから、初めてエミリアとオースティン二人で、夜会に招待された。

 ぎこちないながらも、私は婚約者として、オースティン様に再びエスコートされて歩くのは、嬉しかった。

 色々な雑念を払ってしまえば、結局私は、オースティン様のことが好きなのだ。

 再び関わるようになった今、人の好みは、時が流れても、あまり変わらないものだなぁとつくづく思う。

 このまま、時々は、彼のそばにいられたら、どんなに幸せだろうか。

 タキシードを着たオースティン様の微笑みは、誰よりも素敵だと思う。

 騎士としての鍛練を続けている彼は、細身なのは変わらないが、以前よりガッチリしており、背が高く、スタイルが良かっただけのあの頃より、この地を守る頼り甲斐がある男性と言う雰囲気がある。

 夜会用のドレスなどはまだ、こちらに来てから仕立てておらず、とりあえず、以前婚約していた当時のものを仕立て直して、二人は着ている。

 それでも、二人で揃えば、衣装はついになっているので、私は嬉しくなり、自然と顔は綻ぶ。

 彼と共に、次々とこちらの領地の方達と挨拶しているうちに疲れが溜まり、仕事の話になったため、オースティン様と離れ、ベンチで一人少し休憩することにした。

 すると、

「エミリア様、初めまして。
 私、以前からのこちらの貴族でサネルマと申しますのよ。」

「初めまして、サネルマさん。」

 とてもグラマーで、お胸が半分見えたようなドレスを着た肉感的な女性が、声をかけて来た。

「早速だけど、エミリア様にお伝えしておきたいことがあるの。
 
 オースティン様と私は、彼がこちらにいらしてから親密な仲になったの。 

 わかるでしょう?」

「えっ、どう言う意味ですか?」

「もう、察しの悪い方ねぇ。
 私達は秘密のお付き合いしてますの。

 だから、エミリア様とは、表面上の付き合いなはずですけど。

 私には夫がおりまして、あまり大っぴらにできませんの。

 ですから、あなたにはこのまま、私達の関係を隠す役割を続けていただきたいわ。

 だけど、間違っても私からオースティン様を奪おうとしないでね。」

 サネルマの言葉に、エミリアは頭が真っ白になって、足が震えるほどだった。

 そんなはずないわ。

 今、私とオースティン様は婚約者同士で、それは王命でもある。
 でも、それは表向きだけ?

 サネルマさんは、私達が表面上だけの関係だと知っていた。

 それは、二人がお付き合いしているから?
 それとも、私達のことは誰もが知っている情報なの?

 今の私とオースティン様の関係において、確かなことなど何一つない。

 だとしても、彼は、再び私との婚約を望んだのだ。
 私のことを好きだと言ってくれていたのだし。

 それとも、これはオースティン様の復讐の一つなの?

 彼女の話に動揺して、その後の夜会での記憶は曖昧だった。

 私は、こちらに来てから、オースティン様が望むのであれば、彼の復讐を受け入れるつもりでいた。

 会話はぎこちないし、私をいない者として扱ったり、蔑ろにされても、彼の存在を何となく感じながら、時々はこうして会える。

 復讐だって何だって、私に向けらる思いはゼロではないと言うことだから。

 とても歪だけれども、そんな風に生きていくことに、それなりに満足していた。

 でも、オースティン様にお付き合いしている女性がいるのならば、もしかしたらという私の微かな希望の終わりを意味する。

 だから、私は他の女性を愛するオースティン様だけは、どうしても受け入れることができない。

 もし本当ならば、また、以前のように、彼から逃げ出したい。

 そばで、見守るなんて、絶対にできない。

 でも、今は、王命のある婚約だ。
 だったら、どうすればいいのだろう。

 あの婚約当時から、考えることは、何も変わっていない。
 私こそ何も。




 帰りの馬車でオースティン様に、平静を装って尋ねてみる。

「サネルマさんって言う方が、あなたとお付き合いしているって言うんだけど?
 本当かしら?」

「そんなわけがない。
 僕は君しか見ていないよ。

 でも、君はいつだって、僕を信用できないんだな。
 僕の言うことより、他人の言うことを信じる。」

「私はただ不安なだけで。」

「僕はいつだって、君を一番に考えている。だけど、僕は君を納得させる方法が思いつかないよ。

 どうしたら、君は僕の気持ちをわかってくれるんだ?」

 オースティン様は苛立たしそうに顔を背ける。

 すぐに疑惑の目を向ける私のことが許せないのね。

 ごめんなさい。

 でも、私はオースティン様に言葉で違うと言われても、本当はどうなのか、見極めることができない。

 だから、嫌な気持ちになるのはわかっているけど、聞くしかないのに。
 それとも、他に方法などあるの?
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