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6.話し合い
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居室でエミリアとオースティンは向かい合ってソファに座っている。
クローネが、お茶を入れた後もその場にとどまり、エミリアを心配そうにチラチラ見ている。
「クローネ、私は大丈夫だから。」
「はい、では失礼します。」
クローネは、オースティンをひと睨みしてから、去っていく。
「僕、嫌われているんだね。」
「そう言う訳ではないんだけど、クローネは心配してくれているのよ、私を。」
「僕が何かするとでも?」
「どちらかと言えば、何もしなかったから、かしら。」
「僕は女性の気持ちにうとくてね。
君に婚約破棄されるほどに。」
「気持ちにうといから、婚約破棄したのではないわ。」
「じゃあ、何故?
婚約破棄された時、君の父上はどんなに望んでも、君に合わせてくれないし、僕は途方に暮れたよ。」
「それはあなたがテレーザ様と幸せになって欲しかったからよ。」
「でも、僕は言ったよね。
テレーザは、ただの友人だと。」
「そうは見えなかったわ。
私にも、他の方にも。」
「どうしてなんだろうね。
僕の気持ちは誰にも伝わらない。」
「昔の話をしてもきりがないわ。
あなたが、今手掛けている領地づくりの話を教えて。」
二人は今、テーブルを囲んで、そばにいる。
でも、実際は以前の婚約時と変わらないほどに、お互いの気持ちの話になるとうまくいかない。
私達は男女として、好き合うことは、永遠にできないのかも知れない。
お互いになんとかしようとしていても。
でも、こうしてほんの僅かでも、私のことを思い出してくれるのは、嬉しい。
どんな話でもいい。
あなたと少しでも、関われたらそれで。
オースティンは思う。
エミリアは昔の話を避ける。
でも、二人の関係は、そこから始めるべきではないのか?
僕はエミリアと結婚を諦めるつもりはないから、高い爵位がほしくて、騎士になり、戦場に立った。
それにはこんな理由がある。
僕は子供の頃、エミリアに出会い、彼女は僕の領地を治めたいと言う夢を、
「素敵ね。
もっと聞かせて。」
と言って、微笑んでくれた、ただ一人の女の子だったからである。
他の子達は、僕の夢をあざ笑った。
僕の家の領地はとても小さく、取るに足らないものだったから。
だからなおさら、僕はその頃から、エミリアを特別に思っていた。
それでも、子供の目から見ても、彼女は高貴な雰囲気を漂わせ、圧倒されるほど可愛いかった。
周りの男の子達は、皆エミリアに少しでもかっこいいところを見せようと、いつも取り囲んでいて、男爵家の僕には、高嶺の花だと言うことはわかっていた。
だから、クリソル侯爵当主から、エミリアとの婚約の打診があった時、天にも昇るほど嬉しかった。
たとえ、逆玉の輿と周りに言われても。
でも、それから、いざ婚約破棄になると、いくら僕が望んでも、エミリアと話し合うことは許されず、一方的に婚約破棄された。
それは、やっぱり僕が男爵家だったから。
もし、僕が高い爵位を持っていたなら、エミリアが何と言おうとも、クリソル侯爵は僕をむげにできなかっただろう。
僕はそのことが一番悔しかったし、腹が立った。
あの頃から、僕はエミリアとどうしても結婚したかったし、どうして婚約破棄をされなければならないのか、きちんと彼女に聞きたかった。
だから今は、こんなに君のことが好きで、でも、同時に一方的に僕を捨てた君を恨んでいる。
でも、結局は遠い戦地で、いつもエミリアのことを思っていた。
僕はこのまま、ここで終わってなるものかという思いだけで、激しい戦局の中、生に執着することで、生き抜いてここまで来た。
婚約中、ぎこちなくはあったが、微笑んでくれた時のエミリアの可愛さや、気になったことはストレートに聞いてくれる強い視線など、いつも思い出しては生きる力に変えて来た。
なのに再び婚約した今、エミリアは、一番聞きたかった婚約破棄についての話になると、僕と向き合うのを避けているように思える。
その原因こそが、二人の乗り越えるべき問題なのだと思うのだけど。
でも、ここまで諦めないで来たのだから、エミリアが、僕に心を開いてくれるように、ありとあらゆることをしてみせる。
たとえどんなに時間が経ったとしても、僕はきっと彼女以外、好きになることはないのだから。
クローネが、お茶を入れた後もその場にとどまり、エミリアを心配そうにチラチラ見ている。
「クローネ、私は大丈夫だから。」
「はい、では失礼します。」
クローネは、オースティンをひと睨みしてから、去っていく。
「僕、嫌われているんだね。」
「そう言う訳ではないんだけど、クローネは心配してくれているのよ、私を。」
「僕が何かするとでも?」
「どちらかと言えば、何もしなかったから、かしら。」
「僕は女性の気持ちにうとくてね。
君に婚約破棄されるほどに。」
「気持ちにうといから、婚約破棄したのではないわ。」
「じゃあ、何故?
婚約破棄された時、君の父上はどんなに望んでも、君に合わせてくれないし、僕は途方に暮れたよ。」
「それはあなたがテレーザ様と幸せになって欲しかったからよ。」
「でも、僕は言ったよね。
テレーザは、ただの友人だと。」
「そうは見えなかったわ。
私にも、他の方にも。」
「どうしてなんだろうね。
僕の気持ちは誰にも伝わらない。」
「昔の話をしてもきりがないわ。
あなたが、今手掛けている領地づくりの話を教えて。」
二人は今、テーブルを囲んで、そばにいる。
でも、実際は以前の婚約時と変わらないほどに、お互いの気持ちの話になるとうまくいかない。
私達は男女として、好き合うことは、永遠にできないのかも知れない。
お互いになんとかしようとしていても。
でも、こうしてほんの僅かでも、私のことを思い出してくれるのは、嬉しい。
どんな話でもいい。
あなたと少しでも、関われたらそれで。
オースティンは思う。
エミリアは昔の話を避ける。
でも、二人の関係は、そこから始めるべきではないのか?
僕はエミリアと結婚を諦めるつもりはないから、高い爵位がほしくて、騎士になり、戦場に立った。
それにはこんな理由がある。
僕は子供の頃、エミリアに出会い、彼女は僕の領地を治めたいと言う夢を、
「素敵ね。
もっと聞かせて。」
と言って、微笑んでくれた、ただ一人の女の子だったからである。
他の子達は、僕の夢をあざ笑った。
僕の家の領地はとても小さく、取るに足らないものだったから。
だからなおさら、僕はその頃から、エミリアを特別に思っていた。
それでも、子供の目から見ても、彼女は高貴な雰囲気を漂わせ、圧倒されるほど可愛いかった。
周りの男の子達は、皆エミリアに少しでもかっこいいところを見せようと、いつも取り囲んでいて、男爵家の僕には、高嶺の花だと言うことはわかっていた。
だから、クリソル侯爵当主から、エミリアとの婚約の打診があった時、天にも昇るほど嬉しかった。
たとえ、逆玉の輿と周りに言われても。
でも、それから、いざ婚約破棄になると、いくら僕が望んでも、エミリアと話し合うことは許されず、一方的に婚約破棄された。
それは、やっぱり僕が男爵家だったから。
もし、僕が高い爵位を持っていたなら、エミリアが何と言おうとも、クリソル侯爵は僕をむげにできなかっただろう。
僕はそのことが一番悔しかったし、腹が立った。
あの頃から、僕はエミリアとどうしても結婚したかったし、どうして婚約破棄をされなければならないのか、きちんと彼女に聞きたかった。
だから今は、こんなに君のことが好きで、でも、同時に一方的に僕を捨てた君を恨んでいる。
でも、結局は遠い戦地で、いつもエミリアのことを思っていた。
僕はこのまま、ここで終わってなるものかという思いだけで、激しい戦局の中、生に執着することで、生き抜いてここまで来た。
婚約中、ぎこちなくはあったが、微笑んでくれた時のエミリアの可愛さや、気になったことはストレートに聞いてくれる強い視線など、いつも思い出しては生きる力に変えて来た。
なのに再び婚約した今、エミリアは、一番聞きたかった婚約破棄についての話になると、僕と向き合うのを避けているように思える。
その原因こそが、二人の乗り越えるべき問題なのだと思うのだけど。
でも、ここまで諦めないで来たのだから、エミリアが、僕に心を開いてくれるように、ありとあらゆることをしてみせる。
たとえどんなに時間が経ったとしても、僕はきっと彼女以外、好きになることはないのだから。
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