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5.オースティンの思い
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この地にエミリアと来てから、しばらく経った。
朝から晩まで、思った以上にやるべきことが山積みで、オースティンは気がついたら、いつも夜中だった。
この地で、何があっても、エミリアを守る。
そのための邸の警備、私兵の配置・技師力の増強が、何をおいても一番優先された。
そうこうしているうちに、あっと言う間に時は流れているのに、気づくのが遅れた。
「エミリアはどうしてる?」
「最近は侍女達と、邸中のカーテン作りをしているようです。
侍女達はエミリア様を崇めていますよ。
何せ、公爵夫人となる人が一緒に針仕事をしてくれるんですから。
そして、エミリア様はこの邸の者すべてにお優しくて、その上、針仕事もとてもお上手だそうで、いつも周りに侍女達が群がっていますよ。
オースティン様、領地作りも大切ですが、エミリア様との時間も作られてください。
エミリア様を大切にできるのは、オースティン様だけなのですよ。」
側近のメルビンはずっとエミリアとの関係を何とかするべきだと、オースティンに訴え続けている。
「そうだな。
何より、エミリアに会うことなく、邸造りを優先させた自分が信じられないよ。
でも、どうしてなんだろう?
好きだと伝えているが、彼女は信じてくれていなさそうなんだ。
その上、婚約破棄されたことを恨んでいるって言ってしまったし。」
「そんなことを?
ならばなおさら、話し合うべきです。」
「酷いことだと思うが、エミリアに嘘はつきたくなかったんだ。」
「とにかく、今、行ってください。
せっかくエミリア様を手に入れても、会わずに放置されているだけなら、いないも同然です。
これでは、何のために戦地で功績を上げ、邸と領地を整えているのか、わからないじゃないですか。
二人は、結婚式すらできていないのですから。」
メルビンに押し切られ、オースティンはエミリアの部屋に来た。
ノックをして、返事がないから、覗いてみるが、誰もいないようだ。
このまま、戻ろうかと思い悩むが、彼女はこちらに来てから、不自由な思いをしていないか今更気になりだし、中を覗いてみる。
エミリアの居室はパステルカラーでまとめられており、いつものハキハキとしているエミリアとは印象が違って、かわいいものだなと思っていると、そばにある棚の上の宝石箱の真ん中に水色の宝石のついた髪留めを見つけた。
オースティンは、居室に入り、懐かしいと思いながらも、手にとってみる。
これは、僕達が一度目の婚約時代に僕がプレゼントしたもので、今でもエミリアが持っているのは、不思議な気持ちだった。
エミリアは侯爵家の中でも、裕福な貴族の出だ。
このような髪留めはいくらでも持っているだろうし、当然僕達が別れた時に、捨てたと思っていた。
彼女が僕を捨てたように。
僕はいわゆる貧乏な男爵家だったから、婚約中に、彼女に合うほどのプレゼントを準備するのは、容易ではなかった。
それでも、何とかこの髪留めを買ったのは、彼女の髪に僕の瞳の色のプレゼントをつけてほしいという自己顕示欲の表れだったのだろう。
もし今、再び僕が選んだ髪留めをプレゼントしたら、エミリアはつけてくれるのだろうか?
僕達の間は拗れていて、彼女との結婚は決まっているものの、愛を伝えることさえ、うまくいかない。
僕はエミリアへの思いを伝えているつもりだが、多分、彼女は僕を信用していないだろう。
でも、この髪留めを今でも持っていると言うことは、少しでもエミリアの気持ちが僕にあると期待していいのだろうか?
「誰かいるの?」
そう言って、エミリアが寝室から出て来て、居室に入って来て、オースティンを見つけると固まった。
「何故ここに?」
「話がしたいと思って、探していたんだ。」
「そう。」
「君は僕が昔あげたプレゼントを、今でも持っていてくれていたんだね。」
「それは、あなたがプレゼントしてくれたものだったから。
その真ん中の水色の宝石が好きだったのよ。
お気に入りだったの。」
「それは喜んでいいのかな?
僕達こちらに来てから、ゆっくり話すこともなかったね。
今時間ある?」
「ええ。」
「二人でお茶を飲もうか。」
「では、おかけになって、お茶を準備するわ。」
オースティンは、エミリアとの距離を縮めるべく話ができることを嬉しく思っていた。
朝から晩まで、思った以上にやるべきことが山積みで、オースティンは気がついたら、いつも夜中だった。
この地で、何があっても、エミリアを守る。
そのための邸の警備、私兵の配置・技師力の増強が、何をおいても一番優先された。
そうこうしているうちに、あっと言う間に時は流れているのに、気づくのが遅れた。
「エミリアはどうしてる?」
「最近は侍女達と、邸中のカーテン作りをしているようです。
侍女達はエミリア様を崇めていますよ。
何せ、公爵夫人となる人が一緒に針仕事をしてくれるんですから。
そして、エミリア様はこの邸の者すべてにお優しくて、その上、針仕事もとてもお上手だそうで、いつも周りに侍女達が群がっていますよ。
オースティン様、領地作りも大切ですが、エミリア様との時間も作られてください。
エミリア様を大切にできるのは、オースティン様だけなのですよ。」
側近のメルビンはずっとエミリアとの関係を何とかするべきだと、オースティンに訴え続けている。
「そうだな。
何より、エミリアに会うことなく、邸造りを優先させた自分が信じられないよ。
でも、どうしてなんだろう?
好きだと伝えているが、彼女は信じてくれていなさそうなんだ。
その上、婚約破棄されたことを恨んでいるって言ってしまったし。」
「そんなことを?
ならばなおさら、話し合うべきです。」
「酷いことだと思うが、エミリアに嘘はつきたくなかったんだ。」
「とにかく、今、行ってください。
せっかくエミリア様を手に入れても、会わずに放置されているだけなら、いないも同然です。
これでは、何のために戦地で功績を上げ、邸と領地を整えているのか、わからないじゃないですか。
二人は、結婚式すらできていないのですから。」
メルビンに押し切られ、オースティンはエミリアの部屋に来た。
ノックをして、返事がないから、覗いてみるが、誰もいないようだ。
このまま、戻ろうかと思い悩むが、彼女はこちらに来てから、不自由な思いをしていないか今更気になりだし、中を覗いてみる。
エミリアの居室はパステルカラーでまとめられており、いつものハキハキとしているエミリアとは印象が違って、かわいいものだなと思っていると、そばにある棚の上の宝石箱の真ん中に水色の宝石のついた髪留めを見つけた。
オースティンは、居室に入り、懐かしいと思いながらも、手にとってみる。
これは、僕達が一度目の婚約時代に僕がプレゼントしたもので、今でもエミリアが持っているのは、不思議な気持ちだった。
エミリアは侯爵家の中でも、裕福な貴族の出だ。
このような髪留めはいくらでも持っているだろうし、当然僕達が別れた時に、捨てたと思っていた。
彼女が僕を捨てたように。
僕はいわゆる貧乏な男爵家だったから、婚約中に、彼女に合うほどのプレゼントを準備するのは、容易ではなかった。
それでも、何とかこの髪留めを買ったのは、彼女の髪に僕の瞳の色のプレゼントをつけてほしいという自己顕示欲の表れだったのだろう。
もし今、再び僕が選んだ髪留めをプレゼントしたら、エミリアはつけてくれるのだろうか?
僕達の間は拗れていて、彼女との結婚は決まっているものの、愛を伝えることさえ、うまくいかない。
僕はエミリアへの思いを伝えているつもりだが、多分、彼女は僕を信用していないだろう。
でも、この髪留めを今でも持っていると言うことは、少しでもエミリアの気持ちが僕にあると期待していいのだろうか?
「誰かいるの?」
そう言って、エミリアが寝室から出て来て、居室に入って来て、オースティンを見つけると固まった。
「何故ここに?」
「話がしたいと思って、探していたんだ。」
「そう。」
「君は僕が昔あげたプレゼントを、今でも持っていてくれていたんだね。」
「それは、あなたがプレゼントしてくれたものだったから。
その真ん中の水色の宝石が好きだったのよ。
お気に入りだったの。」
「それは喜んでいいのかな?
僕達こちらに来てから、ゆっくり話すこともなかったね。
今時間ある?」
「ええ。」
「二人でお茶を飲もうか。」
「では、おかけになって、お茶を準備するわ。」
オースティンは、エミリアとの距離を縮めるべく話ができることを嬉しく思っていた。
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