3 / 12
3.旅立ち
しおりを挟む
新しい領地へ向かうセリノ家の紋章のついた広い馬車の中、エミリアとオースティンはお互いに言葉を探した。
「元気だったかい?」
オースティンは探るように声をかける。
彼の美しい碧眼は変わらずだか、以前より目つきは鋭くなり、同じ人とは思えないぐらいだ。
戦況は怖くて、あえて聞かないようにしていたが、オースティン様の顔つきを変えるぐらいには、激しいものだったのだろう。
「ええ、まあ。」
「オースティン様は?」
「戦う日々だったから、元気だったわけじゃないな。」
その返答に私は、何と返すべきなのか、わからない。
戦いに追いやったのは、私なの?
多分そうだから、怖くて聞く勇気がない。
オースティン様と別れた後、私は元気ではあったけれど、幸せにはなれなかった。
誰かと婚約しようとして、相手から嫌がられた日々を思えば、結局、オースティン様と婚約していた時が一番幸せだった。
オースティン様は口数は少ないものの、月に一回は会おうとしてくれたし、私を相手に微笑む時だって、あった。
プレゼントだってくれていた。
オースティン様は婚約していた時、決して私を蔑ろにしていたわけではない。
ただ、テレーザ様と好き合っていただけ。
それが、つらくて逃げ出したんだわ、私。
好きになってくれない人と一緒にいるのが。
なのに、オースティン様はどうして、再び私と結婚しようとするのだろう。
やっぱりこの結婚は復讐なの?
愛し合う二人の仲を引き裂いた私への。
でも、オースティン様こそ、テレーザさんとのことを認めなかったのだから、私に復讐っておかしな話だと思うのだけど。
私はオースティン様に幸せになって欲しかっただけなのに。
好きだったから。
決して、騎士になって、命をかけて戦ってほしいなんて、思っていなかった。
彼が、戦地で命を失わなくて、本当に良かった。
彼の気持ちは、私にはいつだってわからない。
婚約破棄をした相手のことなんて、嫌いで当然なのに、何故彼は、私に再び関わろうとするのだろう?
「本当に、オースティン様が私との結婚を望んだの?」
「そうだよ。
僕は君とやり直したいと思っている。
今も君が好きだよ。」
「そんな風には見えないのだけれど。」
「いや、本当のことだ。」
「帰ってから、テレーザさんと会った?」
「いや、会ってないよ。」
「私のこと恨んでいるの?」
オースティン様の目を見て、聞く勇気はないので、馬車から流れる景色を見ながら、ぼんやりと聞いた。
「ああ。」
オースティン様の言葉は、心に刺さった。
彼は私を好きだと言っているけれど、やっぱりこれは、結婚と言う名の復讐なのね。
望んだ訳じゃないけど、オースティン様を傷つけた私を恨んでいるなら、どうぞ、思う存分に復讐してくれて構わない。
今の私にはそもそもすべてにおいて、選択権などないのだから。
それに、私がオースティン様を好きになってしまったことが、輝けるあなたの唯一の汚点なのは、残念ながら確かね。
それを、あなたはどうしても許せないのね。
だから、私を妻にと選んだ。
それでも、私は一生一人で生きていくより、好きと言うあなたの言葉は、本当かどうかはわからないとしても、やっぱりあなたのそばにいたい。
微かな希望が消えることはないみたい。
「元気だったかい?」
オースティンは探るように声をかける。
彼の美しい碧眼は変わらずだか、以前より目つきは鋭くなり、同じ人とは思えないぐらいだ。
戦況は怖くて、あえて聞かないようにしていたが、オースティン様の顔つきを変えるぐらいには、激しいものだったのだろう。
「ええ、まあ。」
「オースティン様は?」
「戦う日々だったから、元気だったわけじゃないな。」
その返答に私は、何と返すべきなのか、わからない。
戦いに追いやったのは、私なの?
多分そうだから、怖くて聞く勇気がない。
オースティン様と別れた後、私は元気ではあったけれど、幸せにはなれなかった。
誰かと婚約しようとして、相手から嫌がられた日々を思えば、結局、オースティン様と婚約していた時が一番幸せだった。
オースティン様は口数は少ないものの、月に一回は会おうとしてくれたし、私を相手に微笑む時だって、あった。
プレゼントだってくれていた。
オースティン様は婚約していた時、決して私を蔑ろにしていたわけではない。
ただ、テレーザ様と好き合っていただけ。
それが、つらくて逃げ出したんだわ、私。
好きになってくれない人と一緒にいるのが。
なのに、オースティン様はどうして、再び私と結婚しようとするのだろう。
やっぱりこの結婚は復讐なの?
愛し合う二人の仲を引き裂いた私への。
でも、オースティン様こそ、テレーザさんとのことを認めなかったのだから、私に復讐っておかしな話だと思うのだけど。
私はオースティン様に幸せになって欲しかっただけなのに。
好きだったから。
決して、騎士になって、命をかけて戦ってほしいなんて、思っていなかった。
彼が、戦地で命を失わなくて、本当に良かった。
彼の気持ちは、私にはいつだってわからない。
婚約破棄をした相手のことなんて、嫌いで当然なのに、何故彼は、私に再び関わろうとするのだろう?
「本当に、オースティン様が私との結婚を望んだの?」
「そうだよ。
僕は君とやり直したいと思っている。
今も君が好きだよ。」
「そんな風には見えないのだけれど。」
「いや、本当のことだ。」
「帰ってから、テレーザさんと会った?」
「いや、会ってないよ。」
「私のこと恨んでいるの?」
オースティン様の目を見て、聞く勇気はないので、馬車から流れる景色を見ながら、ぼんやりと聞いた。
「ああ。」
オースティン様の言葉は、心に刺さった。
彼は私を好きだと言っているけれど、やっぱりこれは、結婚と言う名の復讐なのね。
望んだ訳じゃないけど、オースティン様を傷つけた私を恨んでいるなら、どうぞ、思う存分に復讐してくれて構わない。
今の私にはそもそもすべてにおいて、選択権などないのだから。
それに、私がオースティン様を好きになってしまったことが、輝けるあなたの唯一の汚点なのは、残念ながら確かね。
それを、あなたはどうしても許せないのね。
だから、私を妻にと選んだ。
それでも、私は一生一人で生きていくより、好きと言うあなたの言葉は、本当かどうかはわからないとしても、やっぱりあなたのそばにいたい。
微かな希望が消えることはないみたい。
923
お気に入りに追加
1,189
あなたにおすすめの小説

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し

あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

姉が私の婚約者と仲良くしていて、婚約者の方にまでお邪魔虫のようにされていましたが、全員が勘違いしていたようです
珠宮さくら
恋愛
オーガスタ・プレストンは、婚約者している子息が自分の姉とばかり仲良くしているのにイライラしていた。
だが、それはお互い様となっていて、婚約者も、姉も、それぞれがイライラしていたり、邪魔だと思っていた。
そこにとんでもない勘違いが起こっているとは思いもしなかった。

従姉が私の元婚約者と結婚するそうですが、その日に私も結婚します。既に招待状の返事も届いているのですが、どうなっているのでしょう?
珠宮さくら
恋愛
シーグリッド・オングストレームは人生の一大イベントを目前にして、その準備におわれて忙しくしていた。
そんな時に従姉から、結婚式の招待状が届いたのだが疲れきったシーグリッドは、それを一度に理解するのが難しかった。
そんな中で、元婚約者が従姉と結婚することになったことを知って、シーグリッドだけが従姉のことを心から心配していた。
一方の従姉は、年下のシーグリッドが先に結婚するのに焦っていたようで……。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

【完結】あなたから、言われるくらいなら。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢アマンダの婚約者ジェレミーは、三か月前編入してきた平民出身のクララとばかり逢瀬を重ねている。アマンダはいつ婚約破棄を言い渡されるのか、恐々していたが、ジェレミーから言われた言葉とは……。
2023.4.25
HOTランキング36位/24hランキング30位
ありがとうございました!

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

【完結】私の婚約者はもう死んだので
miniko
恋愛
「私の事は死んだものと思ってくれ」
結婚式が約一ヵ月後に迫った、ある日の事。
そう書き置きを残して、幼い頃からの婚約者は私の前から姿を消した。
彼の弟の婚約者を連れて・・・・・・。
これは、身勝手な駆け落ちに振り回されて婚姻を結ばざるを得なかった男女が、すれ違いながらも心を繋いでいく物語。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしていません。本編より先に読む場合はご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる