婚約破棄を、あなたのために

月山 歩

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2.彼の帰還

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 オースティン様が騎士となり砦に旅立つと、私の社交会での評判はさらに悪化した。

 愛する二人を引き裂いて、自分が結婚できないならと、オースティン様を騎士として、激戦地へ送った超悪役令嬢とのことだ。

 さらに、テレーザ様は悲恋に破れ、その反動で、20歳も年上の男性と結婚して、湯水にように、好きなだけお金を使う悪女になったらしい。

 どうやら、それも私のせいになっていた。

 私は二人の幸せのために、身を引いただけなのに、何故こうなるのかわからない。

 けれども、私に関わると不幸になる噂の力は凄かった。

 それこそ、侯爵家の権力を使って、婚約しようとしてみても、相手は仕返しが怖くて心を病んだとか、婚約者にと指名されそうになると王都から逃亡したりして、私から男性達はことごとく逃げて行った。

 そして、ついに私は結婚を諦めた。

 私と結婚してくれる人は王都中もうどこにもおらず、無理して結婚しようとすると、相手を不幸にすると認めざるを得なかった。

 そんなある日、オースティン様が激戦地の砦から凱旋して来たとの噂が立ち、王都はまた、騒がしくなった。

 生きて帰れたのは、彼を好きだった者として、心から嬉しいと思うが、この先彼と関わるつもりはまるで無かった。

 私の方が二人に振り回されて、新たな婚約者も見つけられず、もうこりごりだったから。

 だか、何故か侯爵家に王からの書状が届き、私は王宮に駆り出される。

 煌びやかな王宮の王の間で待つと、王がオースティン様を従えて、やって来る。

 そして、王は私を見つけると上機嫌で、

「エミリア嬢、待たせたな。
 オースティンは、このたび、砦近くの面倒な隣国を制圧し、我が領土にすることで、国土を広げてくれた。
 大変喜ばしいことだ。

 それで、その領地を引き続き、オースティンに守ってもらう代わりに、余はその地をオースティンに授けることにした。

 今日から、オースティンはその土地の領主となる。
 なので、余は、オースティンの爵位を公爵にしてやったぞ。

 そして、褒章として、オースティンが、そなたを妻にと望んでくれた。

 エミリア嬢は王都では、評判がすこぶる悪い。
 彼方の地で、結婚して、オースティンと共に暮らすのは、いい案じゃろ。

 早速、オースティンと行くが良い。」

 驚いて、オースティン様を見ると、久しぶりに彼と目が合った。
 碧眼は強い眼差しで、私を捉え、違を認めないと感じた。

 数年ぶりに会った彼は、美しく、逞しい騎士のいで立ちで、私は彼の存在感に圧倒された。

 だとしても、何てことを言ってくれるの?
 オースティン様。

 私達はうまくいかないってもう実証済みなのに、また、繰り返すと言うの?
 
 もしかして、今度こそ彼から、婚約破棄をするための大掛かりな何かなの?

 だって、今の彼なら、公爵と言う地位も、領地もあって、元々美しい顔立ちなのだから、好みの令嬢をいくらでも選べるはず。
 
 なのに、どうして再びの私?

 でも、今私達二人は爵位が逆転した上、王の命まである。

 オースティン様は王命にしてしまえば、下位の私が拒否できないと、わかっているからこそ、この場に私を呼び出したのね。


「謹んでお受けいたします。」

 これ以外の返答は私には、用意されていなかった。
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