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遊井さんと俺と酒
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「ここのパン、美味いよね。朝たまに寄ってるよ。コーヒー飲んでパン食べてからひろこ迎えに行くんだよ」
沢村が買ってきてくれたパンをつまみに俺は遊井さんと床に座ってビールを飲んだ。
「沢村が買ってきてくれるんですよ。」
「店の名前もサワムラじゃない?」
「沢村、サワムラのパン屋の並びに住んでるみたいで」
2人でまだ1本目なのに酔いが早いのか笑っていた。
「ひろこに、サワムラのパン買ってった事あるけど肉入ったパンしか食べなかったよ。」
「あ、そうですよね。いつも肉食べてる。昼はだいたい肉食べてますよね?」
いつも昼は焼き肉弁当だのステーキ弁当だの言っているのを思い出した。
「あれ、肉好きなの、自分で気づいてないの知ってる?」
遊井さんはビールを1缶空けてまた1缶を手にした。
「自分で好きな食べ物肉って理解してないの。お昼はなんでもいいって言うのに。なのにいつも肉に手をだすの。ひろこさ、それと同じで自分がとんでもなく可愛くて、周りに騒がれてるの、それも気づいてないんだよ。」
「・・・」
『とにかく男にモテた。モテモテ。でもそれを武器にする訳じゃなくて当の本人は分かってないんですけどね。』
美咲ちゃんも言っていた。
「俺は、それを気をつけてた。自分が他と次元が違うくらい可愛くてモテまくってて、歩いてるだけで男がくっついてくるようなさ。ひろこがそれに気づくのが不憫に思えた事あったよ。自分が普通じゃないって思ったら生きづらくなるじゃない。だから、春くんもそんなとんでもない女を彼女にしちゃったんだから、苦しむのは当然なんだよ。それは分かってたんだ。」
沖縄の占い師が言った。
罪と失敗。 これだと思った。
「自分は普通の子で普通に恋愛して結婚。まぁ芸能人だからの不都合は分かってるけどある意味ひろこの中では普通に恋愛して結婚したって思っててもらいたいんだよ。」
「遊井さん、親心ですね。」
「そうだね。」
タバコを出そうとしていたから、俺は灰皿を取りに行った。
遊井さんが1本くれて、俺も一緒に吸った。
久々のタバコは酔いも手伝って、クラリクラリとして、それがやたらと気持ち良かった。
「写真、撮られたけど差押えられたからよかったけどさ。よく水面下で2年半も付き合えたと思うよ。それは春くんの努力だと思うんだよ。頑張ったね。」
「はい。いや、もう。うん。必死でしたね。恋人でいるって事に必死でした。あとは不安かな。不安と焦り。それで周りにもたくさん迷惑かけたし。ずいぶん自分も見失ったし。」
遊井さんは俺を見て黙って頷いてくれた。
「ひろこって、恋してるとエライ可愛くなるんだよな。目の奥底からキラキラってなるといえばいいのかな。表情とかも柔らかくなってよく笑って。女の子なんてみんな恋すれば可愛いくなると思うけどさ、ひろこはそれがモロにでて最強可愛くなるの。」
「知ってます。イルカみたいな目になりますよね。」
「イルカ?」
遊井さんはイマイチ分からないようで首を傾げて笑っていた。
「俺がスカウトして事務所に初めて連れて来た時にさ、社長と話してたんだよ。世の男達が全員好きになるタイプだって。だから生意気でも世間知らずでも誰も不満もらさなかった。春くん、秋元さんから聞いたよ。ひろこの写真見て一目惚れしてひろこに会うために1年頑張って売れるために歌い続けてきたんでしょ?」
「はい。」
「その時思ったんだよ。春くんにとっては売れるまでの期間、ひろこが歌う事への源だったんだなって。ひろこもひろこで春くんに愛されすぎて滲み出た雰囲気がより一層色っぽさを醸し出してたんだろうな。それを言ったら春くんそのものがひろこを育てた立役者なのかもしれないって俺は思ってるよ。だから、安藤ひろこが売れたのもSOULが売れたのも、お互いがお互いを支えて売れたんだよ。それはすごい事だって思ってたから結婚を認めない訳にはいかないでしょ。」
「・・・」
「俺はSOULのファンであってひろこの親でもあるからさ、末長くお幸せにって言いたいよ。」
「遊井さん・・本当、ありがとうございます。」
遊井さんが、こんなに考えてくれてたなんて全然知らなかった。
ひろこにとって俺が必要だったなんて思ってもみなかったからだ。
心に響いて、とにかく響いて。どこか沁みた。
「俺、去年SOULのファンクラブ入ったよ」
「えー!嬉しいな。ありがとうございます。」
「会報見たりしてさ、SOULってなんかいいよね。メンバーもほのぼのしててさ。隅から隅まで読んでるよ」
「ええーじゃああのキザな聖司のコラムとか読んでるんですか!ケンのマニアックなコレクションコラムとか。」
遊井さんと同じタイミングでビールを飲み空けて、またもう1本手にして缶を開けた。ケラケラと笑いながら、なんだかこの時間が嬉しくてしょうがなかった。
「春くん、本当よく飲むよね」
「遊井さんのが俺より飲んでますよ」
気がついたら空き缶が周りにゴロゴロ転がっててそれもなんだか気分がよくて。
「遊井さん、ひろこのファンクラブのあのパズルくださいよ。」
「ひろこのパズル、いいでしょ?俺が提案して商品化したんだよ。ファンクラブ入らなきゃもらえないよ。年間1万」
俺は金額を聞いてビールを吹き出しそうになった。
「うちのファンクラブは5000円しませんよ。ぼったくってません?」
「けっこう手が込んでるんだよ!ひろこテレフォンにかけるとひろこが『おかえり』とか言うんだよ!テープだけどさ。」
「え?何それ?そんなのあるんですか?ひろこ電話?俺も入ろうかな。今1万渡しますよ。」
深夜まで飲み明かして遊井さんも俺もベロベロで代行を呼んだ。
家も遊井さんに聞けば十番で近いね、って話して俺も乗る事になった。
「SOULのHARUと安藤ひろこが結婚。世間は度肝を抜くだろうな。」
「本当、お騒がせしてすいません。」
外で代行を待ってたらすごく寒くてさっきの酔いが一気に吹っ飛ぶようだった。
「社長には、俺から話しておくから。多分その後に春くんの社長と話し合うと思うんだよね。春くんがうちの社長に会って話すのはその後だね。最後だよ。」
「はい。」
次はひろこの社長だ。
こんな遊井さんのように円満に収まるハズがないのは分かってる。
「俺も、社長に話すの今から緊張するよ。」
「・・そうですよね。」
「春くん、しっかりね。」
沢村が買ってきてくれたパンをつまみに俺は遊井さんと床に座ってビールを飲んだ。
「沢村が買ってきてくれるんですよ。」
「店の名前もサワムラじゃない?」
「沢村、サワムラのパン屋の並びに住んでるみたいで」
2人でまだ1本目なのに酔いが早いのか笑っていた。
「ひろこに、サワムラのパン買ってった事あるけど肉入ったパンしか食べなかったよ。」
「あ、そうですよね。いつも肉食べてる。昼はだいたい肉食べてますよね?」
いつも昼は焼き肉弁当だのステーキ弁当だの言っているのを思い出した。
「あれ、肉好きなの、自分で気づいてないの知ってる?」
遊井さんはビールを1缶空けてまた1缶を手にした。
「自分で好きな食べ物肉って理解してないの。お昼はなんでもいいって言うのに。なのにいつも肉に手をだすの。ひろこさ、それと同じで自分がとんでもなく可愛くて、周りに騒がれてるの、それも気づいてないんだよ。」
「・・・」
『とにかく男にモテた。モテモテ。でもそれを武器にする訳じゃなくて当の本人は分かってないんですけどね。』
美咲ちゃんも言っていた。
「俺は、それを気をつけてた。自分が他と次元が違うくらい可愛くてモテまくってて、歩いてるだけで男がくっついてくるようなさ。ひろこがそれに気づくのが不憫に思えた事あったよ。自分が普通じゃないって思ったら生きづらくなるじゃない。だから、春くんもそんなとんでもない女を彼女にしちゃったんだから、苦しむのは当然なんだよ。それは分かってたんだ。」
沖縄の占い師が言った。
罪と失敗。 これだと思った。
「自分は普通の子で普通に恋愛して結婚。まぁ芸能人だからの不都合は分かってるけどある意味ひろこの中では普通に恋愛して結婚したって思っててもらいたいんだよ。」
「遊井さん、親心ですね。」
「そうだね。」
タバコを出そうとしていたから、俺は灰皿を取りに行った。
遊井さんが1本くれて、俺も一緒に吸った。
久々のタバコは酔いも手伝って、クラリクラリとして、それがやたらと気持ち良かった。
「写真、撮られたけど差押えられたからよかったけどさ。よく水面下で2年半も付き合えたと思うよ。それは春くんの努力だと思うんだよ。頑張ったね。」
「はい。いや、もう。うん。必死でしたね。恋人でいるって事に必死でした。あとは不安かな。不安と焦り。それで周りにもたくさん迷惑かけたし。ずいぶん自分も見失ったし。」
遊井さんは俺を見て黙って頷いてくれた。
「ひろこって、恋してるとエライ可愛くなるんだよな。目の奥底からキラキラってなるといえばいいのかな。表情とかも柔らかくなってよく笑って。女の子なんてみんな恋すれば可愛いくなると思うけどさ、ひろこはそれがモロにでて最強可愛くなるの。」
「知ってます。イルカみたいな目になりますよね。」
「イルカ?」
遊井さんはイマイチ分からないようで首を傾げて笑っていた。
「俺がスカウトして事務所に初めて連れて来た時にさ、社長と話してたんだよ。世の男達が全員好きになるタイプだって。だから生意気でも世間知らずでも誰も不満もらさなかった。春くん、秋元さんから聞いたよ。ひろこの写真見て一目惚れしてひろこに会うために1年頑張って売れるために歌い続けてきたんでしょ?」
「はい。」
「その時思ったんだよ。春くんにとっては売れるまでの期間、ひろこが歌う事への源だったんだなって。ひろこもひろこで春くんに愛されすぎて滲み出た雰囲気がより一層色っぽさを醸し出してたんだろうな。それを言ったら春くんそのものがひろこを育てた立役者なのかもしれないって俺は思ってるよ。だから、安藤ひろこが売れたのもSOULが売れたのも、お互いがお互いを支えて売れたんだよ。それはすごい事だって思ってたから結婚を認めない訳にはいかないでしょ。」
「・・・」
「俺はSOULのファンであってひろこの親でもあるからさ、末長くお幸せにって言いたいよ。」
「遊井さん・・本当、ありがとうございます。」
遊井さんが、こんなに考えてくれてたなんて全然知らなかった。
ひろこにとって俺が必要だったなんて思ってもみなかったからだ。
心に響いて、とにかく響いて。どこか沁みた。
「俺、去年SOULのファンクラブ入ったよ」
「えー!嬉しいな。ありがとうございます。」
「会報見たりしてさ、SOULってなんかいいよね。メンバーもほのぼのしててさ。隅から隅まで読んでるよ」
「ええーじゃああのキザな聖司のコラムとか読んでるんですか!ケンのマニアックなコレクションコラムとか。」
遊井さんと同じタイミングでビールを飲み空けて、またもう1本手にして缶を開けた。ケラケラと笑いながら、なんだかこの時間が嬉しくてしょうがなかった。
「春くん、本当よく飲むよね」
「遊井さんのが俺より飲んでますよ」
気がついたら空き缶が周りにゴロゴロ転がっててそれもなんだか気分がよくて。
「遊井さん、ひろこのファンクラブのあのパズルくださいよ。」
「ひろこのパズル、いいでしょ?俺が提案して商品化したんだよ。ファンクラブ入らなきゃもらえないよ。年間1万」
俺は金額を聞いてビールを吹き出しそうになった。
「うちのファンクラブは5000円しませんよ。ぼったくってません?」
「けっこう手が込んでるんだよ!ひろこテレフォンにかけるとひろこが『おかえり』とか言うんだよ!テープだけどさ。」
「え?何それ?そんなのあるんですか?ひろこ電話?俺も入ろうかな。今1万渡しますよ。」
深夜まで飲み明かして遊井さんも俺もベロベロで代行を呼んだ。
家も遊井さんに聞けば十番で近いね、って話して俺も乗る事になった。
「SOULのHARUと安藤ひろこが結婚。世間は度肝を抜くだろうな。」
「本当、お騒がせしてすいません。」
外で代行を待ってたらすごく寒くてさっきの酔いが一気に吹っ飛ぶようだった。
「社長には、俺から話しておくから。多分その後に春くんの社長と話し合うと思うんだよね。春くんがうちの社長に会って話すのはその後だね。最後だよ。」
「はい。」
次はひろこの社長だ。
こんな遊井さんのように円満に収まるハズがないのは分かってる。
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