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帰国の準備

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さて、そんなこんなで長くなった獣人国での暮らしも残すところあと僅かとなった。
というのも、つい先日届いたエルヴィンからの手紙によると、漸く龍之介を迎え入れる準備が整ったとのことだった。迎え入れる?準備とは??と、思わないではなかったけれど、実際のところ拒否権なんて自分にはこれっぽっちもないのだということを龍之介はよくわかっていた。自分の立場というものを、よく理解していた。

(俺の意志なんて、何処にもない)

最初から最後までそうだ。自分で選んでいるようで、実のところそうではない。
でもだからと言って、抵抗しようとは思わないのが龍之介の龍之介たる所以であった。その時その時が楽しく充実していればそれでいい。そう思わなければ、こんなよくわからない世界で生きてなんかいけやしないのである。


「図太く、なんねーとな」
「………それ以上神経太くする気か?」

冗談だろ、と言われて龍之介は憤慨する。これでも繊細なところだってあるんだぞ!と言えば例えば?と返される。瞬時に何にも出てこなかったのは、あまりに突然だったせいであって具体例が思いつかなかった訳では決してないのだ!

「今、かつてないほど嫁たちの仲がいいんだって?」
「子供らに聞いたか?そうだな…同一の敵を作ることで群が団結するのと同じ原理かな」
「敵って!!……って、まあそうだよな。俺、彼女たちからすりゃあ立派な敵だったよな」
「夫の愛を独占する、ポッと出の若い女扱いだな」
「若くもないし、女でもないけどな…」

でも愛を独占してるのは否定しないんだな?と肩を抱かれる。恋人のような距離感。いつの間にかこんなに近くにいてもそれが自然になっていた。
戯れるようなキスも、えっちなキスも、どっちも気持ちが良くなっていた。無理矢理されているわけでも、一方的な行為でもない。するのもされるのもそれが当然で当たり前で自然な愛情表現になっていた。いつの間にか。

(いつの間にか、スピネルに愛されるのが普通になっちまってたな…)

あれだけ抱かれたら、情が移るに決まってる。ビッチにだって感情はあるのだ。

「俺が帰ったら、どうやって仲直りするわけ?」
「別に、なるようになるさ。俺は今だって嫁たちのことは嫌いじゃないし、可愛いと思ってる。ただそれ以上にお前のことを気に入っちまったってだけの話だ」
「ふ、ふうん」
「今ちょっと嬉しいとか思ったろ」
「ちがう!そりゃちょっとは…思ったけど、やっぱり申し訳ないって思ってるよ、俺は」
「本妻の余裕か?嫌味だぞ、それ」
「しょうがねえだろ!?俺だって…その、罪悪感とかは感じるんだよ…」

そんなつもりじゃなかった、なんて言い訳にもならない。
自分は彼女たちから、夫を寝取ったのだ。期間限定の嫁にも関わらず、その寵愛を一身に受けてしまった。
その結果、わりと嫌がらせは継続してされていた。というかされまくった。毒入りクッキーの後も大から小まで細々とした悪意は向けられ続けていた。

加護ってなんだ?と言いたくなったけれど、それがなければ普通に殺されたり犯されたりしていてもおかしくはなかったんだろうと思う。
一度、ニールネルの母親を名乗る女性とすれ違ったことがある。
視線で人が殺せたならば、龍之介はあの一瞬で間違いなく死んでいただろう。それぐらい、龍之介を睨みつけるその目つきには並々ならぬ憎悪が込められていた。美人の目力半端ないのなんのって…
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