74 / 212
第二章
解呪 1
しおりを挟む
「よし、左終わり」
聖水を飲んだ前神官長は先ほどより元気そうに最期の彫りこまれた陣を描き写す。
「良い資料が出来た」
「また禁書、増やすおつもりですね」
「資料じゃよ、資料」
エリクと前神官長は分けのわからないやり取りをしている。前神官長がうねる紙束を持って部屋を出た。
「ジェラール君も聖水を飲んで」
ジェラールは恐る恐るアイスペールから聖水を飲んだ。
「俺が聖水を飲むタイミングでジェラールも飲んで」
エリクに言われ、ジェラールは頷くしかなかった。ジェラールが恐る恐る口にした聖水はまさに無味無臭でジェラールには不思議であった。
エリクが力を使うたび、金の光が前公爵の周りにまとわりつき消える。
「魔草の影響が酷いな」
エリクは溜息をひとつつき聖水を飲む。あわててジェラールも飲む。
「なぁ、この聖水飲む理由は」
ジェラールがエリクに訊ねる。
「ああ、いわゆるところの呪い除け。解呪で外に出てくる呪に影響されない為だな」
エリクはジェラールの方に視線をずらさずに答える。
「健康ならほぼ影響ないけど、万が一、自覚もなく体が壊れてたらそこから蝕まれる可能性はゼロとは言い難いからね」
夜半までかかったが前公爵の体の修復は終わった。
「心はまだわからん。魔草の影響を抜くのが先だ。ゆっくり口から物を食べられるようになってもらうのが先決だな」
エリクは持ってこられた夜食を元気よく平らげている。時折、厨房で作らせたポタージュを前公爵の唇に塗っている。唇に塗っているスープを舐める様になるまではかなり時間がかかった。長い間食べてない前公爵の体は食べる事を忘れている様にも見える。
「今日は俺は伯父上の横で寝るよ。……あっちはこれからが本番だな」
「あっち?」
ジェラールの問いにエリクは答える。
「伯父上の愛人の死体がおいてある家」
昼間は人気がなかった家にぽぅと青白い光がともる。グランサニュー公爵、ドニ前神官長、ルカ、ウージェーヌは騎士団が隠密行動をするときに使う姿隠しのケープを身に着けている。と言っても現代で言うところの森で使う迷彩の生地のフード付きマントであった。騎士団が用意してkれていたようだった。
「これ、魔獣退治の時に使ったら間違って事故増えそうだな」
ウージェーヌがぞっとした、という顔になる。
「事故で死なれると賠償がなー」
ウージェーヌはあくまで現実的な事に恐怖している。
「ウジェらしい」
ルカが少しだけ呆れ気味で笑う。ここにいる騎士団は神殿付きでこういう案件に慣れているというものの薄気味悪さは感じているようだが、ウージェーヌはそういうことは感じないようだった。
「ウジェは怖くないのか?」
グランサニュー公爵に訊ねられてウージェーヌは頷いた、
「こういうのは怖くないな」
「何なら怖い?」
前神官長が部屋の中の青い灯りを見つめたままウージェーヌに訊ねる。
「そうだな、……人の執着心、かな」
ウージェーヌは少しぼかしたが前神官長にもグランサニュー公爵にもなんの事を言っている
のは理解できた。
聖水を飲んだ前神官長は先ほどより元気そうに最期の彫りこまれた陣を描き写す。
「良い資料が出来た」
「また禁書、増やすおつもりですね」
「資料じゃよ、資料」
エリクと前神官長は分けのわからないやり取りをしている。前神官長がうねる紙束を持って部屋を出た。
「ジェラール君も聖水を飲んで」
ジェラールは恐る恐るアイスペールから聖水を飲んだ。
「俺が聖水を飲むタイミングでジェラールも飲んで」
エリクに言われ、ジェラールは頷くしかなかった。ジェラールが恐る恐る口にした聖水はまさに無味無臭でジェラールには不思議であった。
エリクが力を使うたび、金の光が前公爵の周りにまとわりつき消える。
「魔草の影響が酷いな」
エリクは溜息をひとつつき聖水を飲む。あわててジェラールも飲む。
「なぁ、この聖水飲む理由は」
ジェラールがエリクに訊ねる。
「ああ、いわゆるところの呪い除け。解呪で外に出てくる呪に影響されない為だな」
エリクはジェラールの方に視線をずらさずに答える。
「健康ならほぼ影響ないけど、万が一、自覚もなく体が壊れてたらそこから蝕まれる可能性はゼロとは言い難いからね」
夜半までかかったが前公爵の体の修復は終わった。
「心はまだわからん。魔草の影響を抜くのが先だ。ゆっくり口から物を食べられるようになってもらうのが先決だな」
エリクは持ってこられた夜食を元気よく平らげている。時折、厨房で作らせたポタージュを前公爵の唇に塗っている。唇に塗っているスープを舐める様になるまではかなり時間がかかった。長い間食べてない前公爵の体は食べる事を忘れている様にも見える。
「今日は俺は伯父上の横で寝るよ。……あっちはこれからが本番だな」
「あっち?」
ジェラールの問いにエリクは答える。
「伯父上の愛人の死体がおいてある家」
昼間は人気がなかった家にぽぅと青白い光がともる。グランサニュー公爵、ドニ前神官長、ルカ、ウージェーヌは騎士団が隠密行動をするときに使う姿隠しのケープを身に着けている。と言っても現代で言うところの森で使う迷彩の生地のフード付きマントであった。騎士団が用意してkれていたようだった。
「これ、魔獣退治の時に使ったら間違って事故増えそうだな」
ウージェーヌがぞっとした、という顔になる。
「事故で死なれると賠償がなー」
ウージェーヌはあくまで現実的な事に恐怖している。
「ウジェらしい」
ルカが少しだけ呆れ気味で笑う。ここにいる騎士団は神殿付きでこういう案件に慣れているというものの薄気味悪さは感じているようだが、ウージェーヌはそういうことは感じないようだった。
「ウジェは怖くないのか?」
グランサニュー公爵に訊ねられてウージェーヌは頷いた、
「こういうのは怖くないな」
「何なら怖い?」
前神官長が部屋の中の青い灯りを見つめたままウージェーヌに訊ねる。
「そうだな、……人の執着心、かな」
ウージェーヌは少しぼかしたが前神官長にもグランサニュー公爵にもなんの事を言っている
のは理解できた。
32
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
妹の嘘を信じて婚約破棄するのなら、私は家から出ていきます
天宮有
恋愛
平民のシャイナは妹ザロアのために働き、ザロアは家族から溺愛されていた。
ザロアの学費をシャイナが稼ぎ、その時に伯爵令息のランドから告白される。
それから数ヶ月が経ち、ザロアの嘘を信じたランドからシャイナは婚約破棄を言い渡されてしまう。
ランドはザロアと結婚するようで、そのショックによりシャイナは前世の記憶を思い出す。
今まで家族に利用されていたシャイナは、家から出ていくことを決意した。
聖女を怒らせたら・・・
朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる