悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

文字の大きさ
上 下
64 / 212
第二章

前神官長の小屋は……

しおりを挟む
 「おう。今日はこっちにきてもらってすまんな」

グランサニュー公爵邸の銀の樹の下に公爵と前神官長はいる。二人ともゆったりとハンモッ
クに寝たままだ。

「これは気持ちいいな。俺には守護者はみえないが存在は感じる。……というか俺の顔を覗きこんでる?」

公爵はかかかと笑う。

「大当たりだ」

守護者は公爵の方を向きにやりと笑う。

「しかし、これは……いい……」

ハンモックの中で前神官長は意識を手放し揺れれるに任せている。

『ま、この間の魔石の礼だよ。体もあちこち疲れてるようだしな』

「仕方ない。お互い年だもの」

公爵はゴブレットにいれたワインをテーブルにおいた。守護者に捧げたのだ。

『今年のワインは出来が良いな』

「そうだな。……ん?」

執事が側に寄ってきた。

「どうした?」

公爵が声をかけると、執事は眉間に皺を寄せて低い小さな声で後者に伝える。

「前神官長様の住居が襲われました。……前神官長様が仕掛けていた罠が発動して襲撃者が自白の魔法のかかって証言したとたん、その、……崩れてしまったそうです」

「崩れた?」

執事は公爵の返しに困惑したまま頷いた。

『多分術だな。元は死体じゃないか?』

公爵は思わずつぶやいた。

「なんで……」

『死体は墓場にたんとあるからな、執事に骨になったのか訊いてみろ。肉が残ってるなら新しめの死体だが骨なら古めの死体だろ。……死んでまで働かされて』

公爵は守護者の死体に対する同情を感じ取った。前神官長も既に目を覚まして怖い顔になっている。

「黒魔術、かな」

公爵の声かけに神官長は答えを返す。

「ネクロマンサーがいるな。……儀式で死んだ魔力の高い人間の死体が使役するには最適だとか。聖女認定を出した神官の死体は個人的に神官用の墓に入れたんだがな。……すぐ神官用の墓があばかれてないか調べて欲しい」

「わかった。それとドニ、暫くうちの客間な。釣れたものが物騒すぎる」

前神官長は溜息をつきつつも同意した。





 「まず、妹の祖父の事です」

グランサニュー公爵邸の庭でベルティエ公爵ジェラールが話始める。

「ああ」

グランサニュー公爵と前神官長は重い報告が来るかと身構える。

「もう数年前から神国デアードで信仰している悪魔、いや悪神の神官になるために国から出てます」

「は?」

予想外の答えに公爵は間の抜けた声を出す。守護者の樹を見て回っていたウージェーヌが報告を追加する。

「確認取るのに時間がかかってね。冒険者ギルドから手を回して確認したんだ。こちらでは悪魔信仰扱いの彼の信仰する神も神の国には小さいながら神殿があるんだ。そこで真摯に修行してる。曰く『信仰を認められる、その幸せ』だと。だから今回の騒動っていうか聖女とは関係ないとしておいて良いと思います。ま、監視は怠りませんが。デアードにも冒険者ギルドあるんだねぇ、そこからその神殿に監視を送ってくれるってさ」

「資金は足りるのか?」

ジェラールが答える。

「うちから出してます。うちの領地の話ですから。……私の父ですが」

公爵はしっかりとジェラールを見た。

「ほぼ死体に近い状態で見つかりました。命はありました、一応。妹の母親はその横で……蝋化した死体でみつかりました」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

処理中です...