悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第一章

マドレーヌとアル、雑談

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 「ギルドを抜けるのに」

アルとマドレーヌは冒険者がまず来ないような少し高給な店の個室で逢っていた。普段は冒険者らしい副を着ているが、マドレーヌは眺めのワンピースに長い銀髪は片側に寄せて三つ編みにして流している。アルはマドレーヌのそんな姿を見て、やはりこの娘は貴族の令嬢で、飛び切りの美人だなと思った。

「辞めるだけじゃ済まないの?」

「……ここに来た時、俺は何も知らない、寝間着のはだしのガキだったんだ」

「寝てる時にとばされた?」

アル、アルマン第一王子は頷く。

「急に現れた俺をギルドは保護してくれてな。色々この国で暮らしていけるように配慮してくれたんだ」

「それを恩に感じてる?」

アルはゆっくり頷いた。

「なんとかドのつく新人の時から剣が使えたのが幸いした。そう言う部分では比較的早めに役に立てたからな」

「王子様は訓練しないの?ネイサン王子はロクサーヌ先輩に鍛えられてるから多少は使える
みたい」

「……俺は基礎訓練だけだったな。木剣までは持ってた」

アルはロクサーヌ先輩とは?ネイサンとかかわってるという事はベルティエ公爵令嬢か?と考える。

「15才男子でも毎日木剣振ってれば体力的にはましじゃない?」

「運よく助かったものの生き延びるのが主目的になってたからな。……国に戻れるとか思わなかったしギルドがどういう組織かも今一つわかってなかった」

「……ここを出るまでにあなたを含めた天使の一撃の運営陣にギルドを利用する方法をレクチャーした方がいいかも。読み書きが出来る人、いるよね」

「ああ、幹部陣は全員できる」

マドレーヌは少し考えてからアルマンに訊ねる。

「出来ない人もいるのよね?」

「いる」

「ならその人たちにギルドは無料で文字を教えているわ。最低ライン、依頼書が読めるように。そして算術も教えている。そう言うことに冒険者ギルドは力を入れてるの」

アルは不思議そうだった。

「何故?」

「そりゃ、自分で依頼書を読んでくれたらギルドの職員の手間は減るし、算術が出来れば依頼先で騙される事も減るわ」

「へぇ……。で、読み書き教えるのは」

「もちろん大陸共通語、よ。国の言葉は、そのギルドの支部の方針によるわ」

「マドレーヌ嬢は詳しいな」

「辺境のハンターは大抵1年間、10歳になる前に馴染みのギルドに預けられて色んな所、他国で暮らすの。私はフロラン兄様と一緒に一年、冒険者集団で暮らしたのよ。ギルドの子供としてね。他のギルドの子供に大陸共通語の読み書きを教えるのはそうやって預けられる貴族の子供の役目だったわ」

「ほぅ」

マドレーヌはくすっと笑う。

「預けられる、無力な子供が出来る数少ない仕事よ。そうやって四季を過ごして……大抵冬は北の侯爵様のところに集まるの」

「グリモー侯爵?」

アルは北の領地の講義にきた髭面の男を思い出している。

「そう。春に預けられて、最期は北の侯爵様の所で魔獣狩りに加わるの。その頃には角ウサギくらいは狩ってさばけるようになってるの。北は冬の厳しい時期にしかでない雪角ウサギがいるからね。この毛皮がよく売れるのよ。……あなたも見た事あるかもね」

アルはこの令嬢は自分が知っている令嬢とは違うと思ってから、考えを改める。ネイサンの従妹のロクサーヌと多少似ているかな、と思ったのだ。

「冬に、幼い令嬢がつかうマフ、大抵グリモー侯爵領の雪角ウサギの毛皮だから」

そう言われるとなんとなく記憶が刺激される。4、5才の頃の冬の雪遊びに参加してきていたご令嬢は一様にマフと毛皮の縁取りの外套を着こんでいたな、と。何故かいつも正妃様はいなくて、側妃達とその実家の面々で遊んだ記憶があった。

「とりあえずは天使の一撃ギルドに正直に話す?」

マドレーヌの言葉にアルははっとなった。

「出来れば身分は……」

「それもそうか」

マドレーヌは食後の珈琲の小菓子を一つ口にいれ、飲み下す。

「ああ、私を送ってついでに実家に顔を出す事にしたら」

「悪くないな。国の知り合いの娘さん、ってことでいいかな。マドレーヌ嬢の事は」

「それは事実でしょ」

生真面目に考えるアルにマドレーヌは笑った。
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