悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

文字の大きさ
上 下
37 / 212
第一章

ウージェーヌは悩んでいる

しおりを挟む
 「クロード、暫くフロランがいなくても狩りはなんとかなるかな?」

「今すぐ?」

「いや。……いつになるかなぁ」

ウージェーヌは頼りない事を言う。

「とうさん、何をしたいか教えてくれる?」

クロードは少々呆れていたが父親に訊く。魔獣狩りの季節も終わる。そろそろマドレーヌを動かすのだろう、と感づいてはいた。

「あー、マドレーヌの帰国なんだが。」

クロードは父親の前にどかっと座る。

「うん。それで?」

「お客様が着いてくるらしい。黒髪。黒目のこの国出身者で、どうもマドレーヌと同じように魔法で飛ばされた人らしい」

「あの時飛ばされたのはマドレーヌ一人って聞いてますが」

「あの時一緒に飛ばされた訳じゃないらしい。何年か前に飛ばされたお人だそうだ。実の所、俺も知ってる人でな」

「でフロランはどこに絡むんですか?それとその人はマドレーヌの恋人とか?」

ウージェーヌは首を横に振る。

「多分違う」

「多分なんだ?」

「子供の頃はそういうすぐに手を出すタイプでもなかったけど。成人してからは判らないからね」

クロードは笑う。

「ま、ナンパな男ならマドレーヌが黙って手を出されるわけはないでしょう」

ウージェーヌは妹を信頼している兄の様子に感心する。

「とうさんはマドレーヌがどんな男がいいって言ってるか知ってるでしょう?」

「まぁね。信頼できる人間性と尊敬できる『強さ』のある男だって」

マドレーヌは両親にアランとの婚約の状況を聞かれた時にどんな男性がいいのかと聞かれてそう答えたのだ。

「アランもネイサンもそう言うのが欠けてたのでマドレーヌは唯々諾々と従わなかったって事だな」

ウージェーヌはそうつぶやいた。

「とうさん、ネイサンは王子」

「あ、忘れてた。一度話す機会があってな、ネイサン王子と」

ウージェーヌは公爵邸でアランがロクサーヌにいいようにされている時に休憩しているアランと話をしてみたのだ。何故、マドレーヌを側妃に貰いたがったのか、と。
 ネイサンは馬鹿正直に

『母上が王太子は僕だから、ロクサーヌを娶るのだって。僕がロクサーヌに貰われるんじゃないって言うから……。でもロクサーヌは絶対後宮には入らないって言うし。ならロクサーヌの仲良しな女の子に後宮に来てもらおうって。マドレーヌの外見、僕は好きだし』

もだもだと幼い口調で答えたのだ。思ったほど悪辣な少年ではなさそうだな、とウージェーヌは思った。

「僕らがしたことで今、マドレーヌが困ってるんだって聞いて……。本当にごめんなさい」

ネイサンは素直に『マドレーヌの父親』に謝る。こうやってすぐに頭を下げる所は確かに王族に向いてないな、とウージェーヌは思ったが多少の好感は抱いた。



「ネイサン王子は……王子って感じじゃないな」

ウージェーヌは正直に答えた。

「アランが出来ない謝罪をストレートに出来る分、ネイサン王子の方がまともだな」

「アランは曾祖父と祖父に育てらたそうです」

クロードはアレンから聞いた事を伝える。

「あの二人のせこさは酷かったからな。己の要求、それも愚にも着かない、な、そんな要求も無理に通す事が貴族的だと思っていたようだった」

ウージェーヌはあの二人の薫陶ならアランの性格も可笑しなものに育つだろうな、と思った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

処理中です...