悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第一章

グリモー侯爵

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 その日。ウージェーヌは妻のジョアンと仲良く連れ立って朝一で狩場に出てから昼ご飯に戻り、そのままジョアンはマリアンヌと一緒に獲物をさばくという事になった。
 ウージェーヌはギルドに行き、マドレーヌからの手紙を引き取ってきた。1通は家族全員、誰が読んでも良いように日々の出来事をつづった手紙だった。カレーという南の料理を知った事や、あちらの国の言葉で覚えた言葉の話など、主にマリアンヌを安心させるような手紙であった。
 もう一通はウージェーヌだけが読めるように個人認証の魔法がかけられていた。どこかで開けようとした人間がいるのか手紙の端に小さな血がついていた。この辺境4家で使う個人認証の術には途中で誰かが開けようとしたら本人は紙で手を切っただけと思うような傷が着くようになっている。もちろん手紙の縁にも微細な血が付く。この血から犯人をたどれるのは北の侯爵だけであった。

「あー、北の侯爵んところいかねばならんな」

ウージェーヌは一人執務室で呟いた。そのままギルドに再度向かい、移動システムを使い北の侯爵の領地、北の領都の冒険者ギルドに着いた。
 
「すまないがこれを届けてくれないか」

それはウージェーヌからの面会依頼だ。ウージェーヌはギルドに泊る宿を手配してもらう。

「しかし寒いな」

ウージェーヌはギルドの売店で売っている、ギルド標準の上着を購入し、普段着のチュニッ
クの上に着こんだ。そのままギルドの食堂に入った・

「とりあえず。素面でいないとな」

そう言いながら熱々のスープをすすっていた。ばん、と音がして執事服が著しく似合わな
い、筋骨たくましい男が入って来た。その男はまっすぐウージェーヌの元に来た。

「侯爵様がお呼びです」

「わかった」

ウージェーヌはスープを飲み干し、執事についていった。




 執事が操る馬車は通常の倍の速さで走る。どうも風魔法で馬の支援をしているようだった。この執事無口で厳ついのだが、侯爵を出し抜いて笑わせる事に命をかけている。
 今回も帰宅してゆっくり風呂に入っている侯爵が風呂から上がる前にウージェーヌを館に連れて行きたいようだった。

 「ふふふ、今日は早めに風呂を上がったぞ」

執事がウージェーヌを案内した客間に侯爵はすでに座っていた。執事は一瞬舌打ちをしたが平然とウージェーヌを案内し椅子に座らせた。

「早速用事を聞こうか。ウジェはご機嫌伺いに来るような性格じゃないしな」

グリモー侯爵はウージェーヌに言う。

「ええ。個人認証手紙を勝手に開けようとしたやつがいまして。一応誰か見て欲しくて。
あと手紙になにか仕掛けてないかと」

「判った」

侯爵は優れた魔法使いでもあった。自分に魔法防御と防御壁をはる。

「ウジェも防御壁はっとけ」

ウージェーヌは言われた通り結界を強化してはる。

「ふむ……。よし、もういい」

侯爵が説明をする。血からたどると王宮の聖女が開けようとしてること。その上で個人認
証を開けたらアグネスに対する魅了魔法が発動するようにしてあった、と。

「正妃さまもこまった女だ」

髭だるま、いや侯爵は深く溜息をついた。

「先日、ジェリの家であの女に会いましてね」

「また執着心に火が付いた、か」

「氷魔法の達人に永久にそんな気持ちを凍らせて欲しいもんです」

「色男もだいへんじゃな」

侯爵は全く同情していない口調で言う。

「……」

ウージェーヌが黙っていると侯爵は真剣な顔でウージェーヌに告げる。

「アルノーの家の事は済まなかった。ドロテアの子というだけで信用し過ぎた」

「ああ、いいです。……アランは今、ロクサーヌ嬢に躾けられてる最中のようで」

「ほう」

「朝の訓練で毎日ぼこぼこになってるみたいですよ。……マドレーヌはどこにいるかも判
りましたし、あとは我が家で対処しますよ」

「マドレーヌちゃんが男だったら良かったのにな」

侯爵の言葉にウージェーヌはふふっと笑う。

「うちはクロードもマリアンヌもしっかりしてますからね。フロランとマドレーヌが自由
に育ちすぎてるだけですね」

 ウージェーヌは侯爵に引き留められたが首を横に振った。

「今はうちは魔獣退治の時期なんで」

「……ウジェよ。力が必要な時はいつでも言ってこい」

ウージェーヌは頷き笑った。
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