悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第一章

公爵となりたて伯爵 2

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 「なんでそんな話になった?」

ジェラールは正直に話す。今回、ネイサンとアランに雇われた宮廷魔術師は新米で。保管庫の魔術陣保管場所で少々古くて使う人が少なそうな魔術陣の羊皮紙を拝借して使用した、と。5年前には無かった魔法陣の羊皮紙でいつのまにか紛れ込んでいたようだった。
 魔法用の魔法陣は羊皮紙で保管し、その魔法陣に適切な魔法を流し込むことで発動する。移動の魔法はある程度、飛ばす座標が決まっているのでその魔法陣を作っておき利用していた。
 そんな謎な羊皮紙を新米宮廷魔術師は引き当てて利用してしまった。
とジェラールが語ったがウージェーヌは首を横に振った。

「それを引き当てるようにされていたら?そういう暗示は黒魔法じゃなくてもあるだろう」

「あるのか?」

「あるよ。無属性魔法にある」

無属性魔法は魔力があれは特化した属性がなんであれ使える。全属性が使える人間が使えばより強力な魔法となる。

「……セシル妃が前回のかすかな魔術痕と同じものを感じ取ってね、羊皮紙から。どうもセシル妃は誰が使ったか判ってるんじゃないかと思うんだ」

「うちの妻、ジョアナとセシル妃は同級生なんだが……」

公爵の言葉にウージェーヌは考えながら返す。公爵は暫く考えていたが、ニヤリと笑う。

「よし、神官長もまきこもう。あいつは堅物で融通がきかない半面、嘘はないしそこでの会話がバレたとなれば」

公爵の提案をウージェーヌは手で静止する。

「それとも……辺境のまとめ役のグランサニュー公爵家に出張ってもらうか。あのじいさまに貸しが一つあってな。正妃以外の側妃全員、もちろん正妃の息のかかった陛下の愛人は省くぞ、と辺境のご婦人方で御茶会、夕食会を開いてもらう。悪いがお前の妹は完全にヤバイ対象として扱わせてもう。そこで情報交換しよう。……この屋敷で話すのは嫌だ。存外今日にも宿下がりしてくるんじゃないか。誰が買収されてるか判ったもんじゃない」

ウージェーヌの勘は当たりだった。執事が二人きりの部屋に入出の許可を得ると同時に正妃アグネスが入って来た。

「許可を出してないの部屋に入れるな、セドリック、早々に辞めてもらおう、この0時を持ってお前は解雇だ。紹介状も出す気はない」

「だ、旦那様」

執事はくどくどと言い訳をしている。正妃様だから逆らえなかったなどと。アグネスはウージェーヌににじり寄っている。が、ある程度以上側に寄れない。ウージェーヌは結界を自分の周りにはり、正妃を寄せ付けないのだ。この執着心がウージェーヌは大嫌いだった。 結界はかなり強く、遮音機能もつけてある。グランジエ家の魔力は攻撃魔法以外には利用できるのだ。そしてグランジエ家の魔法は基本、無属性なので属性付の攻撃や防御魔法にはとことん向かない。ので殆どのグランジエ家の人員は生活魔法だけを覚えている。ウージェーヌは領地に下がってから冒険者からいくつかの魔法を習い使えるようになっていた。

 ジェリも大変だ、と嵐が過ぎ去るのを待つ。ジェラールが首だと言った執事になにかいいつけたら、公爵家の私兵が駆けつけて、中にいた魔術師が正妃を眠らせて私兵が引きずって行った。
 二人だけになってからウージェーヌは結界を解いた。そしてカーテンの方を向いて声をかけた。

「そこにいるんだろう?気配を殺してる気配が漏れてるよ。どこの影だ?」

ウージェーヌがジェラールを見るとジェラールは首を横に振る。

「正妃の手の者かな?」

そう言ってウージェーヌは足首に仕込んでいた投擲武器を投げた。

「……すみません」

細身の女が出てきた。ウージェーヌは自分が髪を縛っていたリボンで女の手を縛り、その全身を先ほどの結界で覆いつくした。

「……何で分かった?」

ジェラールはウージェーヌの勘に驚いた。

「あのな。辺境で魔獣を倒してると気配には過敏になる。とくに影なんかが使う気配けしは気配を消してる気配がするんだよ。辺境伯達の家に影が入り込めないのはそう言う事。あののほほんとした北の侯爵だってこんなことは朝飯前だよ」

ジェラールは国の守護の一端を担う家の凄みを見せつけられた気分だった。

「辺境の奥方たちは……ジェリの妹と関わりたくなくて年末の王宮のパーティにも出ないんだよ。中には側妃様の妹や姉もいるわけだ。姉妹が逢う機会も少ないからその問題も解消しようとおもってな。手間は一度で、美味しい思いは何度でも」

そう言ってウージェーヌは笑いジェラールも力なく笑う。

「さてと、アルノーん所の次男、ここにいるって?男同士の話し合いでもって思ってるんだけど」

「あー、その……その辺り、な。うちの娘がだな」

ロクサーヌが毎朝ネイサンとアランに手加減なく稽古をつけていて、ネイサンは色々散々言われてるのだが、体力はありすばしっこく、ロクサーヌと5本やって2本取れる程度に体は動く。アランは今の所勝ち星は0。例えばロクサーヌは一切攻撃しないというハンデを貰っても勝てないのだ。

「なのでボコる前に明日の朝の訓練を見ないかな?」


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