悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

第一章

短編 バスチエ男爵令嬢リディ

　リディがバスチエ男爵家に引き取られたのは９際の頃だった。父親はたまにしか帰ってこず。母親はいつもリディを酒場に連れて行き男に酌をさせていた。リディは茶色の髪と目の平凡な色合いの子供だったが顔立ちが良く年齢にそぐわない色気があった。リディが少し膝に座るだけで酒を飲みに来た男はでれでれになった。


　そんな生活だったが母親が酒場に居た若い男と駆け落ちし、リディは一人残された。父親はリディをお屋敷に連れて行った。下町の暮らししか知らないリディにはそこは夢のような『お屋敷』だった、父親の『奥さん』という人に紹介された。リディはこんな立派なお屋敷に住めるなんて父親はすごい！と誇らしくなった。父親はこの『奥さん』と再婚したのだとリディは思ったのだ。
　最初はリディはよくわからなかったが奥方は根気よくリディに読み書き算術を教えた。

「あなたは将来はちゃんと自分で生活しないといけないからね」

と奥方によく言われたがリディは自分は父親の一人娘なんだからこの家にずっといていいのだと奥方に主張した。奥方は眉を下げとても哀しそうな顔になる。だがリディもこの家にいる権利はあると思っていた。「父親の家」だから。そして、自分が男爵令嬢だとおもいこんだのだ。

　バスチエ男爵夫人、が男爵位を持っている事を理解しないまま、リディは国立学園の高等部家政科、通称淑女科に入学し、今回の騒動の引き金を引いたのであった。