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第一章
たくましい令嬢
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「ちっ、森って事は西の方かしら」
マドレーヌはパーティ用の華奢な靴は森をあるくにはとことん向いてない、そんなことを思いながら無心に歩く。どこかに川がないかと探しているのだ。川に出たら川添いを下れば集落が見つかる事が多いからだ。すぐに川が見つかり大きな岩があったのでそこに腰かける。木陰なので陽光も凌げる。マドレーヌはただただ、日が暮れるまでにどこかに着きたいとは思っていた。マドレーヌは幸運だった。がやがやと声がしたと思ったら4~5人の女性が現れたのだ。ここは洗濯場だったようだ。
岩の上のドレス姿の少女を見た女性の一人は叫び声を上げた。あまりに大声だったのでマドレーヌが驚いた顔になったら、その中の一人が近寄ってきた、何かを言っているが言葉が判らない。
すぐに斧や鉈、くわなどで武装した男が現れた。そのままマドレーヌは家一つない森を切り開いた場所に連れてこられた。
なまってはいるがぎりぎり理解できる大陸標準語がそこにいた老婆から出てきた。
「おめぇ、誰だ」
「マドレーヌ・グランジェと申します」
こちらは癖のない大陸標準語だ。
「貴族か」
「はい、グランジェ伯爵の娘です」
「この森は」
とある国の国境近くに位置するらしい。ただしマドレーヌはこの国の名はおぼろげにしか覚えていない。マドレーヌの国とは国交のない、間に大砂漠といくつもの国を挟む。マドレーヌの国とは大陸の端と端くらい離れた位置の国だった。
「グランジェ伯爵はどこだ」
マドレーヌは国の名前を告げた。
「それはどこだ」
お互い、話をしていた埒が明かないとその老婆は悟ったようだった。
「役人、呼ぶ。それまでここにいろ。寝る所用意する」
「動ける服が欲しいの。これは夜会用のドレスだから。服と靴が欲しい。今はこれでお支払いするしかないの」
マドレーヌはアランから贈られたピンキーリングを老婆に渡した。太ももにつけていた小さなマジックバッグの中には少しの金貨と銀貨が入っていたがマドレーヌの国の硬貨をこの国で使えるかどうかは分からなかったので普遍的な価値を持つ宝石で対価を払おうとマドレーヌは考えたのだ。
「わしじゃわからん、少し待て」
老婆が消えてマドレーヌは力の強そうな二人の男に見張られつつぼーっと立っているしかなかった。ややあって中年の男性と少年がやってきた。
「テント、ふく、くつ」
と単語と共にそれらを並べる。中年の男に指輪を渡そうとすると首を横に振って拒絶された。そんなやり取りをしている間に男と少年がテントを立ててくれた。
「ここ獣、来ない。大陸言葉話せる人間来るまで待つ。井戸の水、食べ物、持ってくる」
すぐに子供が水の入ったバケツと皿に盛られた素朴なシチューときめの粗いパンを添えて持ってきた。二人の子供はもじもじしていたがマドレーヌに笑いかけられて中年男の足にしがみついて顔を隠してしまった。中年男は苦笑して左右の太ももにしがみつく子供の頭をそっと撫でている。見張っていた男が二種類の丸太を持ってきたそれをテントの横に置く。
「椅子、机」
と中年男が言うのでマドレーヌは受け取ったシチューとパンを『机』に置く。中年男は
満足そうに頷いた。
「明日、朝食」
「朝食も持ってきてくださるという事ですか?」
中年男は頷いた。そして左右の人差し指でXを作った。
「火、ダメ」
マドレーヌは頷いた。
男たちも居なくなる。簡易テントの中で衣類を変える。簡素なチュニックと紐でウエストを調整できるパンツだった。髪を整える櫛もついていた。マドレーヌは結った髪を降ろし片側に三つ編みをして結うときに使ってあったリボンで一つにまとめた。
そして冷めないうちにと持ってきてくれた夕飯を口にする。少し酸味ととろみのあるシチューと簡素なパンは今のマドレーヌには御馳走だった。
マドレーヌはテントで横になりながらここから帰るにはどうすればいいのかと考えながらうつうつと眠りに入った。
マドレーヌはパーティ用の華奢な靴は森をあるくにはとことん向いてない、そんなことを思いながら無心に歩く。どこかに川がないかと探しているのだ。川に出たら川添いを下れば集落が見つかる事が多いからだ。すぐに川が見つかり大きな岩があったのでそこに腰かける。木陰なので陽光も凌げる。マドレーヌはただただ、日が暮れるまでにどこかに着きたいとは思っていた。マドレーヌは幸運だった。がやがやと声がしたと思ったら4~5人の女性が現れたのだ。ここは洗濯場だったようだ。
岩の上のドレス姿の少女を見た女性の一人は叫び声を上げた。あまりに大声だったのでマドレーヌが驚いた顔になったら、その中の一人が近寄ってきた、何かを言っているが言葉が判らない。
すぐに斧や鉈、くわなどで武装した男が現れた。そのままマドレーヌは家一つない森を切り開いた場所に連れてこられた。
なまってはいるがぎりぎり理解できる大陸標準語がそこにいた老婆から出てきた。
「おめぇ、誰だ」
「マドレーヌ・グランジェと申します」
こちらは癖のない大陸標準語だ。
「貴族か」
「はい、グランジェ伯爵の娘です」
「この森は」
とある国の国境近くに位置するらしい。ただしマドレーヌはこの国の名はおぼろげにしか覚えていない。マドレーヌの国とは国交のない、間に大砂漠といくつもの国を挟む。マドレーヌの国とは大陸の端と端くらい離れた位置の国だった。
「グランジェ伯爵はどこだ」
マドレーヌは国の名前を告げた。
「それはどこだ」
お互い、話をしていた埒が明かないとその老婆は悟ったようだった。
「役人、呼ぶ。それまでここにいろ。寝る所用意する」
「動ける服が欲しいの。これは夜会用のドレスだから。服と靴が欲しい。今はこれでお支払いするしかないの」
マドレーヌはアランから贈られたピンキーリングを老婆に渡した。太ももにつけていた小さなマジックバッグの中には少しの金貨と銀貨が入っていたがマドレーヌの国の硬貨をこの国で使えるかどうかは分からなかったので普遍的な価値を持つ宝石で対価を払おうとマドレーヌは考えたのだ。
「わしじゃわからん、少し待て」
老婆が消えてマドレーヌは力の強そうな二人の男に見張られつつぼーっと立っているしかなかった。ややあって中年の男性と少年がやってきた。
「テント、ふく、くつ」
と単語と共にそれらを並べる。中年の男に指輪を渡そうとすると首を横に振って拒絶された。そんなやり取りをしている間に男と少年がテントを立ててくれた。
「ここ獣、来ない。大陸言葉話せる人間来るまで待つ。井戸の水、食べ物、持ってくる」
すぐに子供が水の入ったバケツと皿に盛られた素朴なシチューときめの粗いパンを添えて持ってきた。二人の子供はもじもじしていたがマドレーヌに笑いかけられて中年男の足にしがみついて顔を隠してしまった。中年男は苦笑して左右の太ももにしがみつく子供の頭をそっと撫でている。見張っていた男が二種類の丸太を持ってきたそれをテントの横に置く。
「椅子、机」
と中年男が言うのでマドレーヌは受け取ったシチューとパンを『机』に置く。中年男は
満足そうに頷いた。
「明日、朝食」
「朝食も持ってきてくださるという事ですか?」
中年男は頷いた。そして左右の人差し指でXを作った。
「火、ダメ」
マドレーヌは頷いた。
男たちも居なくなる。簡易テントの中で衣類を変える。簡素なチュニックと紐でウエストを調整できるパンツだった。髪を整える櫛もついていた。マドレーヌは結った髪を降ろし片側に三つ編みをして結うときに使ってあったリボンで一つにまとめた。
そして冷めないうちにと持ってきてくれた夕飯を口にする。少し酸味ととろみのあるシチューと簡素なパンは今のマドレーヌには御馳走だった。
マドレーヌはテントで横になりながらここから帰るにはどうすればいいのかと考えながらうつうつと眠りに入った。
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