5 / 212
第一章
アルノー家の内情
しおりを挟む
アルノー家に入ったグランジエの嫡男と次男は下男として働き始めた。王族をバックにつけたアルノーの次男、アランはやりたい放題でそれまで普通の男だと思っていたのだが下劣な品性を周りに見せつけ始めた。
「あなた……、次男を家から出しましょう」
奥方に詰め寄られたアルノー家の家長は煮え切らない。それはネイサンを足がかりに正妃に近づいてアルノー家の地位を高めたいという野望があるからだ。
「……後で、グランジエ家には保障を」
「他所のお嬢さんを自分のおもちゃにしようとするなんて、アランのやり方は下種すぎます。長男はうちで育てたんでそういう事が弱みになる事を理解してますがアランは貴方のおじい様が教育した結果あれです。あなたのお父様とそっくりの思考回路を持ってしまった」
アルノー家の家長は言葉に詰まっている。妻は新婚当時『アルノーの家に嫁いだのだから家長の言う事を聞け』と現家長の父親に手籠めにされかけた過去がある。
この妻はグリモー家の一族から嫁してきた妻で、この時はグリモー家も巻き込んで大騒ぎになり、前家長とその父親が領地に蟄居することになったのだ。
アランが生まれた時、妻は産後の肥立ちが良くなく寝付いていた。そして領地の前家長たちに買収された乳母は前家長たちの所へアランを抱いたまま向かった。結果、10歳までアランは前家長たちと乳母に育てられた。
妻は何度もアランを取り返そうと領地に行ったりしたが前家長達は忽然と領地から姿を消していた。そう、領地にいないという事自体が問題だった。それがバレればいくら由緒ある伯爵家といえども懲罰は免れない。現家長はそれを嫌い前家長を大がかりな探索をしなかった。妻は現家長の『探した』という言葉を信じていなかったし、伯爵自身信じられているとは思ってなかった。
「アランがあの人たちの手元にいたおかげでアレンはちょっかいかけられずに済んだんだよ、ドロテア」
「詭弁です。アルフレッド、あなたがお義父様に逆らえないのは知ってました。けれど子供を生贄にした責任は取らねばいけないと思いますわ。……それに、あの王子はだめ。王太子に近いとかおもってません?」
ドロテアは夫である家長アルフレッドをじっと見る。
「それにアランは……他家のお嬢さんをどこかにやってしまったうえにバスチエ家の庶子に手をだした。……あのお嬢さんが現バスチエ男爵の一人娘だからそのまま爵位を継げると言ってるようですけど、ネイサン王子もアランも、バスチエ家の爵位は奥方が持ってるの理解してないのですよ。そんなことも理解できないって……。アランの知識は前の世代のままのようですね。女性は爵位を継げない、おじいさまの時代の知識のまま」
ドロテアはじっと夫を見つめている。
「初等部レベルの知識からおかしい。……アランはどこで育てられたの?どの国で。その上でおじいさまとお義父様は領地からどこに行っていたの?」
アルフレッドは項垂れた。
「すまん、いえない。……お前までまきこめない」
「綺麗な言葉でごまかさないで」
ドロテアはごまかされなかった。
「……すまんがどこにいたかは正確にはわからん。が、初期教育は……おじいさまが持っていた教科書で済ませたらしい」
「学校には通わせなかった、ってことですね?」
「……余計な知識を入れたくなかったのだと思う」
「余計な知識?」
アルフレッドは溜息をつきながら告白した。
「真に貴族的な人間を作るための教育を施す、と……」
「あなたもそれに賛同した、と」
ドロテアの背中にアルフレッドは青い炎を見た。
「真に貴族的な人間?真のクズを作ってしまったのだと思うのですが?」
「あなた……、次男を家から出しましょう」
奥方に詰め寄られたアルノー家の家長は煮え切らない。それはネイサンを足がかりに正妃に近づいてアルノー家の地位を高めたいという野望があるからだ。
「……後で、グランジエ家には保障を」
「他所のお嬢さんを自分のおもちゃにしようとするなんて、アランのやり方は下種すぎます。長男はうちで育てたんでそういう事が弱みになる事を理解してますがアランは貴方のおじい様が教育した結果あれです。あなたのお父様とそっくりの思考回路を持ってしまった」
アルノー家の家長は言葉に詰まっている。妻は新婚当時『アルノーの家に嫁いだのだから家長の言う事を聞け』と現家長の父親に手籠めにされかけた過去がある。
この妻はグリモー家の一族から嫁してきた妻で、この時はグリモー家も巻き込んで大騒ぎになり、前家長とその父親が領地に蟄居することになったのだ。
アランが生まれた時、妻は産後の肥立ちが良くなく寝付いていた。そして領地の前家長たちに買収された乳母は前家長たちの所へアランを抱いたまま向かった。結果、10歳までアランは前家長たちと乳母に育てられた。
妻は何度もアランを取り返そうと領地に行ったりしたが前家長達は忽然と領地から姿を消していた。そう、領地にいないという事自体が問題だった。それがバレればいくら由緒ある伯爵家といえども懲罰は免れない。現家長はそれを嫌い前家長を大がかりな探索をしなかった。妻は現家長の『探した』という言葉を信じていなかったし、伯爵自身信じられているとは思ってなかった。
「アランがあの人たちの手元にいたおかげでアレンはちょっかいかけられずに済んだんだよ、ドロテア」
「詭弁です。アルフレッド、あなたがお義父様に逆らえないのは知ってました。けれど子供を生贄にした責任は取らねばいけないと思いますわ。……それに、あの王子はだめ。王太子に近いとかおもってません?」
ドロテアは夫である家長アルフレッドをじっと見る。
「それにアランは……他家のお嬢さんをどこかにやってしまったうえにバスチエ家の庶子に手をだした。……あのお嬢さんが現バスチエ男爵の一人娘だからそのまま爵位を継げると言ってるようですけど、ネイサン王子もアランも、バスチエ家の爵位は奥方が持ってるの理解してないのですよ。そんなことも理解できないって……。アランの知識は前の世代のままのようですね。女性は爵位を継げない、おじいさまの時代の知識のまま」
ドロテアはじっと夫を見つめている。
「初等部レベルの知識からおかしい。……アランはどこで育てられたの?どの国で。その上でおじいさまとお義父様は領地からどこに行っていたの?」
アルフレッドは項垂れた。
「すまん、いえない。……お前までまきこめない」
「綺麗な言葉でごまかさないで」
ドロテアはごまかされなかった。
「……すまんがどこにいたかは正確にはわからん。が、初期教育は……おじいさまが持っていた教科書で済ませたらしい」
「学校には通わせなかった、ってことですね?」
「……余計な知識を入れたくなかったのだと思う」
「余計な知識?」
アルフレッドは溜息をつきながら告白した。
「真に貴族的な人間を作るための教育を施す、と……」
「あなたもそれに賛同した、と」
ドロテアの背中にアルフレッドは青い炎を見た。
「真に貴族的な人間?真のクズを作ってしまったのだと思うのですが?」
6
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。
音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日……
*体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる