23 / 116
四章 ショク
一
しおりを挟む
「おや……誰もいない」
シェムハザはそう呟いて首を傾げた。エロトラップダンジョンの主人と、その雑用係であるノーイが同時に最上階を空けることは、なくはないが珍しい。
とはいえ、そう長い時間ではないだろう。シェムハザは研究室の片隅に追いやられていた長机と椅子を適当に並べ直し、浄化の魔法をかけてから土産を取り出した。
突如発生したダンジョンから出てきたモンスターに困り果てていた領主を助けた際に、礼としてもらった葡萄酒とチーズ、そして特産品の芋。ごろりと丸いその芋は、蒸かして割ったものに炙って溶かしたチーズをかけると絶品らしい。
それは是非とも師であり友であるノーイと共に食べたいと思い、教会への報告もそこそこにやって来た。無論、師の主人であるダンジョンの主人の分もあるし、ノーイがおかわりを所望した時に出す分もある。重量及び質量無視のインベントリは本当に便利であった。
「コンニチハ……アレ? キミは……」
「こんにちは、主の客人ですか?」
そうしてがちゃがちゃと準備をしていたシェムハザに、独特の音韻でもってかけられた声。長い黒髪、濃茶の色眼鏡で隠されている目線、豪奢な刺繍が施された袖や裾が大きく開いている服は、確か東方に棲む森の番人ことエルフの民族衣装ではなかったか。
そんな相手に対して、主とシェムハザが口にしたのは、二つの狙いがある。一つは、この人物がダンジョンの主の客人だった場合、こう言っておけば無体なことはしないだろうという目論見。もう一つは、もし客人ではなく冒険者だった場合、こう言えば警戒なり何なり、顕著な反応があるだろうと考えてのこと。あくまでもダンジョンの主人、という認識のため嘘とは判断されない。
「アー……キミはアレダネ、ペインちゃんが言ってた魔道師クン」
「おや、ペインちゃんを御存知で?」
「そりゃ知ってるヨ、貴重な仕入先だからネ」
だがしかし、相手から返ってきたのは第三の反応(なお、元魔王軍のペインは仲良くなったと思っている相手にペインちゃんと呼ぶことを強要する。拒否すると惨い目に遭うし本人がいないからと気を抜くと後で漏れなく惨い目に遭う)。色眼鏡越しにシェムハザを見詰めていた人物は、ひらひらと大きな袖を振り、両手を組んで一礼した。
「コレなるは龍頭の森より来たる、名をショクと申すモノ。今は商い人として、アチラコチラをふらふらと。このダンジョンの主人はとびきりの御得意様で、今日は以前頼まれていた品を持ってきたってワケ」
「これは御丁寧にありがとうございます。我が名はシェムハザ、死魔法の真髄を求めて足掻く哀れな雛鳥。かつてはネビロス師に御高教を賜り、今はヴォジャノーイ師に教えを乞うております」
礼を尽くされたからには、こちらも礼を尽くさねばならない。シェムハザは、神官としてではなく塔で学んだ魔道師としての名乗りを上げた。それは正解だったようで、ショクと名乗ったエルフ――人間では到底敵わない魔力と技術を誇る、モンスターと人間の混血種は笑った。
シェムハザはそう呟いて首を傾げた。エロトラップダンジョンの主人と、その雑用係であるノーイが同時に最上階を空けることは、なくはないが珍しい。
とはいえ、そう長い時間ではないだろう。シェムハザは研究室の片隅に追いやられていた長机と椅子を適当に並べ直し、浄化の魔法をかけてから土産を取り出した。
突如発生したダンジョンから出てきたモンスターに困り果てていた領主を助けた際に、礼としてもらった葡萄酒とチーズ、そして特産品の芋。ごろりと丸いその芋は、蒸かして割ったものに炙って溶かしたチーズをかけると絶品らしい。
それは是非とも師であり友であるノーイと共に食べたいと思い、教会への報告もそこそこにやって来た。無論、師の主人であるダンジョンの主人の分もあるし、ノーイがおかわりを所望した時に出す分もある。重量及び質量無視のインベントリは本当に便利であった。
「コンニチハ……アレ? キミは……」
「こんにちは、主の客人ですか?」
そうしてがちゃがちゃと準備をしていたシェムハザに、独特の音韻でもってかけられた声。長い黒髪、濃茶の色眼鏡で隠されている目線、豪奢な刺繍が施された袖や裾が大きく開いている服は、確か東方に棲む森の番人ことエルフの民族衣装ではなかったか。
そんな相手に対して、主とシェムハザが口にしたのは、二つの狙いがある。一つは、この人物がダンジョンの主の客人だった場合、こう言っておけば無体なことはしないだろうという目論見。もう一つは、もし客人ではなく冒険者だった場合、こう言えば警戒なり何なり、顕著な反応があるだろうと考えてのこと。あくまでもダンジョンの主人、という認識のため嘘とは判断されない。
「アー……キミはアレダネ、ペインちゃんが言ってた魔道師クン」
「おや、ペインちゃんを御存知で?」
「そりゃ知ってるヨ、貴重な仕入先だからネ」
だがしかし、相手から返ってきたのは第三の反応(なお、元魔王軍のペインは仲良くなったと思っている相手にペインちゃんと呼ぶことを強要する。拒否すると惨い目に遭うし本人がいないからと気を抜くと後で漏れなく惨い目に遭う)。色眼鏡越しにシェムハザを見詰めていた人物は、ひらひらと大きな袖を振り、両手を組んで一礼した。
「コレなるは龍頭の森より来たる、名をショクと申すモノ。今は商い人として、アチラコチラをふらふらと。このダンジョンの主人はとびきりの御得意様で、今日は以前頼まれていた品を持ってきたってワケ」
「これは御丁寧にありがとうございます。我が名はシェムハザ、死魔法の真髄を求めて足掻く哀れな雛鳥。かつてはネビロス師に御高教を賜り、今はヴォジャノーイ師に教えを乞うております」
礼を尽くされたからには、こちらも礼を尽くさねばならない。シェムハザは、神官としてではなく塔で学んだ魔道師としての名乗りを上げた。それは正解だったようで、ショクと名乗ったエルフ――人間では到底敵わない魔力と技術を誇る、モンスターと人間の混血種は笑った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる