22 / 116
三章 ペイン
六
しおりを挟む
シェムハザが丁寧に説明を繰り返して、ようやくノーイの誤解が一部分解けた次第である。シェムハザ曰く、筋肉痛には充分な休養と、可能ならばマッサージによる緊張の緩和や血流の促進が必要となるとのこと。ノーイは渋りに渋ったものの、この後の仕事に思いを馳せ――シェムハザによるマッサージを受けることにした。
なお、筋肉痛とは肉体を持つ者、人間や人型のモンスターに起こりうる現象であり、ノーイに関しては一度変化を解けば大幅に緩和されるものである。ダンジョンの主人はそれを知っていたのでノーイに何も言わなかったし、シェムハザも薄々気づいてはいたが、ノーイのためにできることが減ってしまうため意図的に口をつぐんでいた。神官は嘘をつけないが、黙っていることはできるのだ。
「では失礼します」
「おう」
研究室の隣、生活空間、ノーイの自室。一応程度に人間らしい生活を送るためのあれこれを置いてある場所で、勿論ベッドもある。その寝台の上で俯せになったノーイは、よいしょ、と己の背中に乗ったシェムハザの重みを感じ、
「えっ……嘘、何か体重増やす魔法とか使ってる……?」
「あ、苦しかったですか? ちょっと待ってください」
「や、苦しくはないけど思ってたより重くて驚いた」
「あぁ、長年鍛えていたら見目は細くなるんですけど、全体の重さは変わらない……いえ、むしろ増えるんですよね」
ずし、と、ちょっとやそっとじゃ抜け出せそうにない感覚に目を丸くしていた。あれ体が痛いのを治してくれるっていうから許可したけどこれはかなりやっちまったってヤツなのでは? とノーイは今更ながらに後悔した。いつだって後から悔やむからこそ後悔と呼ぶのだ。ノーイはまたひとつかしこくなった。
「はー……人間の体って不思議……」
しみじみとそう呟き、頭を抱える代わりと枕に頭を沈めた。そんなノーイの上で、シェムハザは腕まくりをする。
「では始めます、痛かったり違和感があったりしたら言ってくださいね」
「はぁい……」
最初は肩の辺り。ぐい、ぐい、と、揉まれるというよりは引き伸ばされているような感触。ノーイは料理人の手によって捏ねられるパン生地の気持ちってこんなのかもしれない、などと思っていた。
時折、ごりごりと固い部分を強めに刺激される。じわりと広がる温かみに、なるほど血流がどうこう……とノーイはついさっき教えられたことを思い返した。何というか、こう、ほっこりした気分になってくる。
「んぁ~……そこ……」
「痛かったですか?」
「や、もっとやっていい……じんわりきもちいい……」
対してシェムハザは、あれだけ拒否していたマッサージを受け入れてくれたことに感動し、次いで――劣情を催していた。今のノーイの姿はいつもの中年冒険者のそれだが、シェムハザにとって見目はあまり関係ない。
寄せられた信頼と、本来ならシェムハザのことなどどうとでもできるのにそうしないことと。それこそ、ノーイから破級死魔法の一つでも向けられればシェムハザは呆気なく死ぬ。だというのに、ノーイは何だかんだシェムハザを友人のように扱ってくれる。
そう、友人だ。シェムハザはノーイに対して重量級の愛情だの執着だのいった感情を抱いているが、ノーイはそうではない。だから、劣情を催したからといって欲のままに動けば、その関係は容易く壊れてしまう。
シェムハザは考える。このまま事に及ぶことはできない、が、我慢もできそうにない。だったらどうすればいいのか、天啓はすぐに降りてきた。
「あの」
「んぁ? なに?」
「劣情を催したので、性行為に至っても良いでしょうか?」
「素直に全部言えば許されると思ったの? 何で?」
なお、筋肉痛とは肉体を持つ者、人間や人型のモンスターに起こりうる現象であり、ノーイに関しては一度変化を解けば大幅に緩和されるものである。ダンジョンの主人はそれを知っていたのでノーイに何も言わなかったし、シェムハザも薄々気づいてはいたが、ノーイのためにできることが減ってしまうため意図的に口をつぐんでいた。神官は嘘をつけないが、黙っていることはできるのだ。
「では失礼します」
「おう」
研究室の隣、生活空間、ノーイの自室。一応程度に人間らしい生活を送るためのあれこれを置いてある場所で、勿論ベッドもある。その寝台の上で俯せになったノーイは、よいしょ、と己の背中に乗ったシェムハザの重みを感じ、
「えっ……嘘、何か体重増やす魔法とか使ってる……?」
「あ、苦しかったですか? ちょっと待ってください」
「や、苦しくはないけど思ってたより重くて驚いた」
「あぁ、長年鍛えていたら見目は細くなるんですけど、全体の重さは変わらない……いえ、むしろ増えるんですよね」
ずし、と、ちょっとやそっとじゃ抜け出せそうにない感覚に目を丸くしていた。あれ体が痛いのを治してくれるっていうから許可したけどこれはかなりやっちまったってヤツなのでは? とノーイは今更ながらに後悔した。いつだって後から悔やむからこそ後悔と呼ぶのだ。ノーイはまたひとつかしこくなった。
「はー……人間の体って不思議……」
しみじみとそう呟き、頭を抱える代わりと枕に頭を沈めた。そんなノーイの上で、シェムハザは腕まくりをする。
「では始めます、痛かったり違和感があったりしたら言ってくださいね」
「はぁい……」
最初は肩の辺り。ぐい、ぐい、と、揉まれるというよりは引き伸ばされているような感触。ノーイは料理人の手によって捏ねられるパン生地の気持ちってこんなのかもしれない、などと思っていた。
時折、ごりごりと固い部分を強めに刺激される。じわりと広がる温かみに、なるほど血流がどうこう……とノーイはついさっき教えられたことを思い返した。何というか、こう、ほっこりした気分になってくる。
「んぁ~……そこ……」
「痛かったですか?」
「や、もっとやっていい……じんわりきもちいい……」
対してシェムハザは、あれだけ拒否していたマッサージを受け入れてくれたことに感動し、次いで――劣情を催していた。今のノーイの姿はいつもの中年冒険者のそれだが、シェムハザにとって見目はあまり関係ない。
寄せられた信頼と、本来ならシェムハザのことなどどうとでもできるのにそうしないことと。それこそ、ノーイから破級死魔法の一つでも向けられればシェムハザは呆気なく死ぬ。だというのに、ノーイは何だかんだシェムハザを友人のように扱ってくれる。
そう、友人だ。シェムハザはノーイに対して重量級の愛情だの執着だのいった感情を抱いているが、ノーイはそうではない。だから、劣情を催したからといって欲のままに動けば、その関係は容易く壊れてしまう。
シェムハザは考える。このまま事に及ぶことはできない、が、我慢もできそうにない。だったらどうすればいいのか、天啓はすぐに降りてきた。
「あの」
「んぁ? なに?」
「劣情を催したので、性行為に至っても良いでしょうか?」
「素直に全部言えば許されると思ったの? 何で?」
0
あなたにおすすめの小説
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる