ETDの雑用係

とりい とうか

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二章 シェムハザ

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 魔王討伐の旅は佳境を迎え、幾度も救いの手が届かない場面があった。その度に勇者は、大魔女は、戦士長は、それぞれに悔やみ魔王討伐への思いを新たにしている。
 その中で、大神官たるシェムハザは、ますます死へとのめり込んでいた。彼等の生死を分けたのは何だったのか、死んだばかりの人間ならば破級聖魔法で蘇生できるが、死んだばかりとはどれくらいならばそうなのか、それならば死とはどうなれば死と確定されるのか。
 無論、勇者や大魔女にばれるような素振りは見せていない。大神官とは教会の切り札、慈愛と慈悲に満ちた存在なのだから。


 そんな時だった、「彼」に出逢ったのは。


 旅の途中で立ち寄ったその街は、ゴブリンたちによって蹂躙され、悲惨な状態になっていた。モンスターの中でも愚鈍で弱いゴブリンたちが持つ唯一は数の暴力。群れ集い、ただ破壊と凌辱を繰り返す。
 このような状況の街を見捨てるという選択肢はなく、勇者はゴブリンたちの襲撃を待ち伏せして根絶すると決めた。だがしかし、街の外、小鬼たちが棲んでいると思われた森から出てきたのは想定外の敵だった。

「なんだぁ、ゆぅしゃじゃねぇかぁあ……」

 魔王軍の上位にあるモンスターだ、とすぐに判った。その胸元には魔王軍幹部であることを示す禍々しい紋様があったからだ。巨大な棍棒と鉄板を持った大鬼は、勇者たちに気づいて嗤っていた。

「ここでぇ、おまえをこぉろせばぁ……おれがまおうさまのぉ、いちばんだぁあ!!」
「『防げ盾』!!」
「『守れ盾』!!」

 シェムハザの防御魔法と大魔女の他者強化、殺意に満ちた咆哮を受けて一瞬硬直した勇者を庇うために前に出た戦士長の自己強化――三人分の守護が、ただの突進で崩された。それでも戦士長は折れなかった左腕を伸ばして勇者を突き飛ばし、被害を最小限に食い止める。

「『貫け光』!!」
「『燃えよ炎』!!」
「『切り裂け聖剣』!!」

 速度を重視して繰り出された初級魔法は大鬼の持つ鉄板によって弾き飛ばされ、魔を祓う光を宿した勇者の剣も棍棒によって阻まれる。

「詠唱の時間を頂戴!!」
「『防げ光盾』『癒せ神の息吹』『貫け光矢』!!」
「『我が名は勇者、魔を討つ者なり』!!」

 大魔女が後退し、上級魔法の詠唱を始める。シェムハザは立て続けに魔法を行使し、勇者の自己強化を補助する。間一髪、大鬼が振り下ろした棍棒は勇者の掲げた剣によって防がれる――が、それはぎりぎり拮抗しているに過ぎない。
 そこで、シェムハザの魔法によって復帰した戦士長が加勢する。勇者を押し潰そうとしている大鬼の背後に回り、その足首を切りつける。しかし、大鬼にとっては羽虫がぶつかったようなもの。

「あぁ……? うっとぉしぃなぁ、おまぇえ!!」

 まるで竜巻の如く。咄嗟にシェムハザが防御魔法を飛ばしていなければ、それこそ肉片と化していただろう威力の殴打。戦士長は激しく地面に叩きつけられ、意識を失う。

「『降り注げ星々、汝が名は終焉の火狐』!!」
「ぁ?」

 刹那、大魔女の上級星魔法が降り注ぐ。炎を纏った隕石が、大鬼の鉄板を歪ませ、赤熱させる。が、それだけだ。本体には届いていない。それに気づいた大魔女は、悔しげに呻いてうずくまる。一度に大量の魔力を消耗した反動だ。
 シェムハザは思考する。大魔女の上級星魔法は、今の自分たちの最大限だ。それが通らないとあらば、撤退するしかない。しかし、撤退するだけの隙を作ることができるかが問題だ。

「……なぁんだぁ? ぁあ!? せっかくのたてが!!」

 大鬼は、鉄板が歪んだことが気に入らなかったらしく、地団太を踏んでいる。それだけで森の木々が揺れ、地面がひび割れる。と、その時だった。

「おまぇらあ!! ゆるさね、ぇ、えぁ?」

 音もなく、大鬼の首から漆黒の刃が生えた。ごぼごぼと口から血を吐き、痙攣し始める大鬼。何が、と勇者たちが呆然と見詰めている中、その刃がくるりと回転して――大鬼の首が、地に落ちる。
 噴き出した血を浴びないよう、シェムハザが発動させた防御魔法。そこに降り注いだ血飛沫は、大鬼が倒れ伏すまで湯気を立てていた。

「な、にが……」
「『起きろ屍、汝が名は我が奴隷』」

 聞こえたのは、落ち着いた男の声。だが、その詠唱を聞いたシェムハザと大魔女はそれぞれ違う理由で顔色を変える。大魔女は、それが禁忌の魔法だと気づいて。シェムハザは――己が知りたかった、学びたかった、渇望していた魔法だと思って。
 ず、ずず、と、大鬼の亡骸が立ち上がる。落ちていた首の断面からは、闇色の靄が流れ出し、それが体と首を繋ぐ。

「上級死魔法……!!」

 大魔女の、悲鳴のような声。シェムハザも、叫べるなら叫びたかった。是非それを教えてほしい、死魔法についての話が聞きたい。だがしかし、今のシェムハザは塔の学徒ではなく大神官であるため、唇を噛んでその衝動を圧し殺した。
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