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二章 シェムハザ
一
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モンスター廃絶主義者過激派が所属している場所、というのがノーイの教会に対する認識である。魔王の対となる神を信じ、崇め、ダンジョンを悪徳の巣窟と見なし、モンスターを根絶やしにするために活動している人間たち。
その中でも教皇に次ぐ権力者である大神官は、ノーイにとって何としてでも接触を回避しなければならない存在であると同時に、命の恩人でもあった。大神官あるいは大聖女となる者は、勇者パーティーの一員として魔王討伐に同行することとされている。魔王と勇者の最終決戦直前、大神官がノーイの擬態を見破れなかったから、ノーイは逃げ出すことができた。
だから、こんな状況はとても困る。
エロトラップダンジョンの創造主、現在のノーイの主人は割と寛容であった。本来なら奴隷のように扱えるノーイに、七日に二日の休日を与える程には。特に、最近は「惨い目(意味深)には遭うが絶対に死なないダンジョン」として有名になり、人寄せの仕事が減ったからというのもあるが。
そのような理由で、ノーイには七日に二日、全く自由な時間がある。そんな時、ノーイがどのように過ごしているかといえば、冒険者の真似事をしていた。最初は必要に迫られた擬態だったが、今では趣味の一つにもなっている。
何せ人間というものは、不快を嫌い快を好み――千変万化な娯楽の数々を生み出す生物であるので。ノーイは旨い飯を、面白い遊びを、その他様々な楽しいことを冒険者の一人として満喫していた。
だからこの日も、ノーイは楽しむ気満々で賭博場へ来ていた。そこで、とても困った状況に追い込まれている。
「あぁ、今日という日を神に感謝しなければ」
「うぇえ……」
「二度と会えないと思っていた貴方に会えたのだから」
「人違いですぅ……」
所謂、壁ドンとか何とか呼ばれている体勢で、逃げられなくされているのはノーイである。冴えない中年男性の姿に化けているとはいえ、決して小さくはないノーイを上から覆い隠すように囲っているのは、漆黒の神官服を纏った男。
そう、平神官の服を着てはいるが――この男こそが当代の大神官、勇者と共に魔王を討ち果たした英雄の一人。そんな彼がどうしてこんな場所にいるのか、何故ノーイを拘束しているのか(この何故に対しての予想は充分につけられるのだが、それを認めると死一直線なのでノーイはその可能性を意図的に無視していた)。
「人違い? 有り得ません、貴方のことは誰よりも……貴方自身よりも知っています」
「普通に気持ち悪ぃ……」
「あの時だって、私と貴方は思いが通じ合っていたではないですか」
「覚えもないことをさも事実かのように述べてくるぅ……警備員さん助けてぇ……」
「残念ですね、ここの運営と教会はずぶずぶの関係です。ここで私が何をしようと咎められることはありません」
「自分で言っちゃうんだ」
「自分で言っちゃいますね」
思わず素で合いの手を入れてしまったノーイに、にこにこと笑いながら答える大神官。慈愛の笑みと呼ばれていたその顔は、今のノーイにとって胡散臭いしとても怖い。
「ずぶずぶって」
「ここ、教会の資金源の一つなんです」
「知りたくなかった」
「清く正しいだけでは今日の糧も手に入りませんし」
「へぇ……教会についての新しい知識を教えてくれてありがとうございました、今日はもう帰りますね?」
「帰す訳ないでしょう?」
「嫌だー!! 人違いで殺されるー!! 誰か助けてー!!」
必死で叫ぶも、警備の誰もが見て見ぬふり――ずぶずぶの関係が過ぎる。最終的には影を渡って逃げもできるが、それをした瞬間「ヴォジャノーイ」の生存が確定的な事実として認識されてしまう。困った、困った、とても困った。ノーイは、涙目で許しを乞うことしかできない。
「嫌ですね、殺す訳がないじゃないですか」
「嘘だぁ……」
「神官は嘘をつけません」
「それは知ってるけどぉ……」
神に仕える神官は、清く正しくあることが望まれる。が、この清く正しくの定義は曖昧で、教義や規則にも様々な抜け道がある。でなければ、モンスター相手とはいえ血にまみれた人間が神官など名乗れるはずもない。
「私は心の底から、貴方に会いたいと思ってたんですよ……」
「耳元で囁かないでください鳥肌が立って死にそう」
「私は貴方を……」
「やっぱり殺す気なんだ!! モンスターみたいに!! モンスターみたいに!!」
ぐ、と耳元に顔を寄せられ、囁かれ。ノーイは恐慌状態に陥って無意識的に影へと沈んだ。そのまま脇目も降らずに影から影へ、逃げて、逃げて、逃げた先に、
「かくれんぼと鬼ごっこですか? 欲張りなんですね」
「うぎゃー!?」
エロトラップダンジョンの入口前、にこにこと笑いながら佇んでいた大神官を見て、ノーイは人間のように絶叫した。
その中でも教皇に次ぐ権力者である大神官は、ノーイにとって何としてでも接触を回避しなければならない存在であると同時に、命の恩人でもあった。大神官あるいは大聖女となる者は、勇者パーティーの一員として魔王討伐に同行することとされている。魔王と勇者の最終決戦直前、大神官がノーイの擬態を見破れなかったから、ノーイは逃げ出すことができた。
だから、こんな状況はとても困る。
エロトラップダンジョンの創造主、現在のノーイの主人は割と寛容であった。本来なら奴隷のように扱えるノーイに、七日に二日の休日を与える程には。特に、最近は「惨い目(意味深)には遭うが絶対に死なないダンジョン」として有名になり、人寄せの仕事が減ったからというのもあるが。
そのような理由で、ノーイには七日に二日、全く自由な時間がある。そんな時、ノーイがどのように過ごしているかといえば、冒険者の真似事をしていた。最初は必要に迫られた擬態だったが、今では趣味の一つにもなっている。
何せ人間というものは、不快を嫌い快を好み――千変万化な娯楽の数々を生み出す生物であるので。ノーイは旨い飯を、面白い遊びを、その他様々な楽しいことを冒険者の一人として満喫していた。
だからこの日も、ノーイは楽しむ気満々で賭博場へ来ていた。そこで、とても困った状況に追い込まれている。
「あぁ、今日という日を神に感謝しなければ」
「うぇえ……」
「二度と会えないと思っていた貴方に会えたのだから」
「人違いですぅ……」
所謂、壁ドンとか何とか呼ばれている体勢で、逃げられなくされているのはノーイである。冴えない中年男性の姿に化けているとはいえ、決して小さくはないノーイを上から覆い隠すように囲っているのは、漆黒の神官服を纏った男。
そう、平神官の服を着てはいるが――この男こそが当代の大神官、勇者と共に魔王を討ち果たした英雄の一人。そんな彼がどうしてこんな場所にいるのか、何故ノーイを拘束しているのか(この何故に対しての予想は充分につけられるのだが、それを認めると死一直線なのでノーイはその可能性を意図的に無視していた)。
「人違い? 有り得ません、貴方のことは誰よりも……貴方自身よりも知っています」
「普通に気持ち悪ぃ……」
「あの時だって、私と貴方は思いが通じ合っていたではないですか」
「覚えもないことをさも事実かのように述べてくるぅ……警備員さん助けてぇ……」
「残念ですね、ここの運営と教会はずぶずぶの関係です。ここで私が何をしようと咎められることはありません」
「自分で言っちゃうんだ」
「自分で言っちゃいますね」
思わず素で合いの手を入れてしまったノーイに、にこにこと笑いながら答える大神官。慈愛の笑みと呼ばれていたその顔は、今のノーイにとって胡散臭いしとても怖い。
「ずぶずぶって」
「ここ、教会の資金源の一つなんです」
「知りたくなかった」
「清く正しいだけでは今日の糧も手に入りませんし」
「へぇ……教会についての新しい知識を教えてくれてありがとうございました、今日はもう帰りますね?」
「帰す訳ないでしょう?」
「嫌だー!! 人違いで殺されるー!! 誰か助けてー!!」
必死で叫ぶも、警備の誰もが見て見ぬふり――ずぶずぶの関係が過ぎる。最終的には影を渡って逃げもできるが、それをした瞬間「ヴォジャノーイ」の生存が確定的な事実として認識されてしまう。困った、困った、とても困った。ノーイは、涙目で許しを乞うことしかできない。
「嫌ですね、殺す訳がないじゃないですか」
「嘘だぁ……」
「神官は嘘をつけません」
「それは知ってるけどぉ……」
神に仕える神官は、清く正しくあることが望まれる。が、この清く正しくの定義は曖昧で、教義や規則にも様々な抜け道がある。でなければ、モンスター相手とはいえ血にまみれた人間が神官など名乗れるはずもない。
「私は心の底から、貴方に会いたいと思ってたんですよ……」
「耳元で囁かないでください鳥肌が立って死にそう」
「私は貴方を……」
「やっぱり殺す気なんだ!! モンスターみたいに!! モンスターみたいに!!」
ぐ、と耳元に顔を寄せられ、囁かれ。ノーイは恐慌状態に陥って無意識的に影へと沈んだ。そのまま脇目も降らずに影から影へ、逃げて、逃げて、逃げた先に、
「かくれんぼと鬼ごっこですか? 欲張りなんですね」
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