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二章 シェムハザ
二
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一瞬の隙を掻い潜り、エロトラップダンジョンに駆け込んだノーイだったが、大神官は散歩のような気軽さで続いてきた。
死者は出していないとはいえ、元々がデストラップダンジョン、悪名高き絶対死をもたらすダンジョンの流用だ。そこらの冒険者は万が一にも踏破できない難易度のダンジョン。しかして、大神官は勿論そこらの冒険者ではなかった。
職業固有の技能――モンスターが生来使える能力に似たそれの、神官固有の技能は聖域展開。フィールドエフェクトの無効化、自身よりも格の低い存在に対する強烈な忌避効果など、エロトラップダンジョンと相性が悪すぎる技能をもってのごり押し。
そうして、最上階まで逃げ込んだノーイと、その後を悠々と追ってきた大神官を視ていた主人は、肺腑の空気を全て押し出したような溜め息を吐いた。取り敢えずノーイを己の影に隠し、いざとなれば戦闘も辞さないと杖を構えたまま大神官を迎え入れる。
「このダンジョンの主人で、貴様が追ってきたものの主人でもある……貴様に名乗るべき名はない」
「そうですか、しかし彼の御主人様であると言うのならば……はじめまして、教会の大神官、家名は元よりありませんので、ただのシェムハザと申します」
対して、大神官は自然体で佇んでいた。しかしノーイは知っている。彼の技能、神魔法、聖魔法、光魔法の威力を。無詠唱で繰り出される数々の致命的な攻撃魔法を。故に、最悪の場合は主人を犠牲にしてでも生き延びようと覚悟を決めていた。
「……お前、もしかして塔にいたのか?」
「やはり判りますか。えぇ、魂魔法を学んでいましたが、神魔法の適性が見つかってしまってこうなりました」
「魂魔法! あの若造はまだ教師をやっているのか?」
「若造……ではないですが、もしやネビロス先生のことですか?」
「これは傑作だ! よもやこんな場所で雛と邂逅するとは!」
「放逐された身としては、雛と呼ばれると面映ゆいですね」
そこでノーイは察した。影の中にいると、その影の持ち主の感情その他がわかるのだが――主人が、新たな理論を証明する時のように、高揚していた。多分これは、ノーイにとってあまり良いことではない。多分というか、確実に。
「しかし、神魔法か……それはさぞ悔しかったろうに」
「えぇ、えぇ……とても」
「研究主題は何だったんだ? あぁ、先にこちらが明かすのが筋だな。今は人間が死に瀕した際に生じる不可視の干渉帯について研究している」
「あぁ、今日は何て幸福で幸運な日なのでしょう! 心から神に感謝するなんていつぶりか!」
そこから始まった怒濤の論理戦。ノーイから見れば戦としか思えないくらいの激論が交わされ、何やかんや、ノーイには理解できない何かしらの何かがあり、いつの間にか大神官と彼の主人は大層仲良くなっていた。
「それにしたって、何故これを追っていたんだ?」
「彼の死魔法に心底惚れ込みまして……神魔法の恩恵で色々と視られるのですが、彼のような魔法を使う者は見たことがありません」
「あぁ……確かに塔の使い手では絶対にこの域には辿り着けんだろうな……」
「なので、是非彼と仲良くしたくて。勇者たちと共にいた時からそう思っていたんですが、彼は逃げ足が早いし逃げ方も巧妙で……魔王の城での隠れ方は、慌てていたのか随分雑でしたけどね」
「そうか、こちらとしても神魔法の使い手が協力してくれるのは魅力的だからな……」
ぺいっ、と影の中から追い出されたノーイは、ほぼ素の姿――人型の真っ黒な塊として、大神官の目の前に投げ出される。ぷるぷると震えているノーイの手を握った大神官、否、シェムハザは、恍惚とした表情でノーイに告げる。
「友達から始めて、ゆくゆくはお付き合いしましょう」
「嫌ですが!?」
死者は出していないとはいえ、元々がデストラップダンジョン、悪名高き絶対死をもたらすダンジョンの流用だ。そこらの冒険者は万が一にも踏破できない難易度のダンジョン。しかして、大神官は勿論そこらの冒険者ではなかった。
職業固有の技能――モンスターが生来使える能力に似たそれの、神官固有の技能は聖域展開。フィールドエフェクトの無効化、自身よりも格の低い存在に対する強烈な忌避効果など、エロトラップダンジョンと相性が悪すぎる技能をもってのごり押し。
そうして、最上階まで逃げ込んだノーイと、その後を悠々と追ってきた大神官を視ていた主人は、肺腑の空気を全て押し出したような溜め息を吐いた。取り敢えずノーイを己の影に隠し、いざとなれば戦闘も辞さないと杖を構えたまま大神官を迎え入れる。
「このダンジョンの主人で、貴様が追ってきたものの主人でもある……貴様に名乗るべき名はない」
「そうですか、しかし彼の御主人様であると言うのならば……はじめまして、教会の大神官、家名は元よりありませんので、ただのシェムハザと申します」
対して、大神官は自然体で佇んでいた。しかしノーイは知っている。彼の技能、神魔法、聖魔法、光魔法の威力を。無詠唱で繰り出される数々の致命的な攻撃魔法を。故に、最悪の場合は主人を犠牲にしてでも生き延びようと覚悟を決めていた。
「……お前、もしかして塔にいたのか?」
「やはり判りますか。えぇ、魂魔法を学んでいましたが、神魔法の適性が見つかってしまってこうなりました」
「魂魔法! あの若造はまだ教師をやっているのか?」
「若造……ではないですが、もしやネビロス先生のことですか?」
「これは傑作だ! よもやこんな場所で雛と邂逅するとは!」
「放逐された身としては、雛と呼ばれると面映ゆいですね」
そこでノーイは察した。影の中にいると、その影の持ち主の感情その他がわかるのだが――主人が、新たな理論を証明する時のように、高揚していた。多分これは、ノーイにとってあまり良いことではない。多分というか、確実に。
「しかし、神魔法か……それはさぞ悔しかったろうに」
「えぇ、えぇ……とても」
「研究主題は何だったんだ? あぁ、先にこちらが明かすのが筋だな。今は人間が死に瀕した際に生じる不可視の干渉帯について研究している」
「あぁ、今日は何て幸福で幸運な日なのでしょう! 心から神に感謝するなんていつぶりか!」
そこから始まった怒濤の論理戦。ノーイから見れば戦としか思えないくらいの激論が交わされ、何やかんや、ノーイには理解できない何かしらの何かがあり、いつの間にか大神官と彼の主人は大層仲良くなっていた。
「それにしたって、何故これを追っていたんだ?」
「彼の死魔法に心底惚れ込みまして……神魔法の恩恵で色々と視られるのですが、彼のような魔法を使う者は見たことがありません」
「あぁ……確かに塔の使い手では絶対にこの域には辿り着けんだろうな……」
「なので、是非彼と仲良くしたくて。勇者たちと共にいた時からそう思っていたんですが、彼は逃げ足が早いし逃げ方も巧妙で……魔王の城での隠れ方は、慌てていたのか随分雑でしたけどね」
「そうか、こちらとしても神魔法の使い手が協力してくれるのは魅力的だからな……」
ぺいっ、と影の中から追い出されたノーイは、ほぼ素の姿――人型の真っ黒な塊として、大神官の目の前に投げ出される。ぷるぷると震えているノーイの手を握った大神官、否、シェムハザは、恍惚とした表情でノーイに告げる。
「友達から始めて、ゆくゆくはお付き合いしましょう」
「嫌ですが!?」
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