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一章 ヴォジャノーイ
四
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「んえっ!?」
ノーイは、完全にダンジョンの主の首を取った気でいた。初見殺しの影渡り、相手の視界から一瞬で消えて背後から首を刈るそれを破られたことはなく、故に次の相手もまた同じように殺されていった正しく必殺技。
だから、ノーイは間抜けな声を出してしまった。体を自由に動かすことができない。隠し持っていた小刀は、相手の首の皮一枚で止まっている。それより何より、ノーイにはもう一つ驚く理由があった。
「何で、俺の名前……」
「何故お前の真名を呼べたかって? お前のことは途中から観察していたんだ。異常進化したスライムと迷ったんだが……あの時、沼地の主と呼ばれて否定できなかっただろう? 私はこれでもモンスターの真名について詳しくてな。沼地の主と呼ばれて否定できないモンスターは、お前しかいない」
その言葉を聞いたノーイは、あれかぁ! と顔を歪めた。沼地の主よ、と呼びかけられたノーイは、それを否定しなかった。いや、そうできなかった。それが真名の祝福であり呪詛であるから。
真名は、その存在の根幹を規定する力ある言葉だ。その名は彼等の存在を強くするが、同時にその存在を縛る枷ともなる。だから、ダンジョンの主に真名を呼ばれたノーイは、抵抗一つできなくなった。
なお、余談ではあるが、もしも魔王が勇者と対峙した際にノーイの真名を呼んでいたとすれば、ノーイは逃げることも叶わず勇者との戦いに駆り出されていただろう。勇者が来たのならばノーイは既に殺されていると魔王が勘違いをしたが故に、ノーイは逃げることができたのだ。
「ドッペルゲンガーも候補にはあったが、あれらはお前ほど強くはない」
「いやそれほどでも……」
「誉めてはいない」
「誉められてない!?」
てっきり誉められたと思って照れてみたノーイだが、ばっさりと切り捨てられて悲しくなる。まぁ、ドッペルゲンガーたちも昔はノーイの配下であったから、それよりもノーイの方が強いのは言わずもがなだ。
「さて、ヴォジャノーイ。今のお前には二つの選択肢がある。私の願いを聞いて生き延びるか、断って死ぬかだ」
「うぇえ……それってもうほぼ命令じゃ……」
「あくまでもお願いだ。お前ほどの相手に命令なんぞ、しようとも思えないからな」
「だって聞かなきゃ死ぬんだろ……じゃあ聞くよ……」
悲しい気持ちのまましょぼしょぼと応えたノーイに、ダンジョンの主はこう言った。
「お前、私のダンジョンの雑用係になれ」
ノーイは、完全にダンジョンの主の首を取った気でいた。初見殺しの影渡り、相手の視界から一瞬で消えて背後から首を刈るそれを破られたことはなく、故に次の相手もまた同じように殺されていった正しく必殺技。
だから、ノーイは間抜けな声を出してしまった。体を自由に動かすことができない。隠し持っていた小刀は、相手の首の皮一枚で止まっている。それより何より、ノーイにはもう一つ驚く理由があった。
「何で、俺の名前……」
「何故お前の真名を呼べたかって? お前のことは途中から観察していたんだ。異常進化したスライムと迷ったんだが……あの時、沼地の主と呼ばれて否定できなかっただろう? 私はこれでもモンスターの真名について詳しくてな。沼地の主と呼ばれて否定できないモンスターは、お前しかいない」
その言葉を聞いたノーイは、あれかぁ! と顔を歪めた。沼地の主よ、と呼びかけられたノーイは、それを否定しなかった。いや、そうできなかった。それが真名の祝福であり呪詛であるから。
真名は、その存在の根幹を規定する力ある言葉だ。その名は彼等の存在を強くするが、同時にその存在を縛る枷ともなる。だから、ダンジョンの主に真名を呼ばれたノーイは、抵抗一つできなくなった。
なお、余談ではあるが、もしも魔王が勇者と対峙した際にノーイの真名を呼んでいたとすれば、ノーイは逃げることも叶わず勇者との戦いに駆り出されていただろう。勇者が来たのならばノーイは既に殺されていると魔王が勘違いをしたが故に、ノーイは逃げることができたのだ。
「ドッペルゲンガーも候補にはあったが、あれらはお前ほど強くはない」
「いやそれほどでも……」
「誉めてはいない」
「誉められてない!?」
てっきり誉められたと思って照れてみたノーイだが、ばっさりと切り捨てられて悲しくなる。まぁ、ドッペルゲンガーたちも昔はノーイの配下であったから、それよりもノーイの方が強いのは言わずもがなだ。
「さて、ヴォジャノーイ。今のお前には二つの選択肢がある。私の願いを聞いて生き延びるか、断って死ぬかだ」
「うぇえ……それってもうほぼ命令じゃ……」
「あくまでもお願いだ。お前ほどの相手に命令なんぞ、しようとも思えないからな」
「だって聞かなきゃ死ぬんだろ……じゃあ聞くよ……」
悲しい気持ちのまましょぼしょぼと応えたノーイに、ダンジョンの主はこう言った。
「お前、私のダンジョンの雑用係になれ」
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