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炎の記憶
7-2
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「そんなことが……」
二つ目の記憶を見て、クーは昔のことを振り返った。
幼い頃、スーリヤの父親とは面識がなかったが、母親とは少しだけ顔を合わせたことがある。そういえば、その時父親は医者のようなことをしていると聞いたような気がした。あの時のスーリヤの母親は、どこも悪いようには見えなかった。
それが石化病という呪いにかかり、それを治すためにスーリヤとその父親が奮闘した。そしてこの記憶によれば、それは成功したように見えた。
「でも、それならなんでスーくんは魔人になったんだろ……?」
魔人は力を求めた末に至るとされている。彼が母親を助ける為に力を求めたと言われれば、納得しそうなものだ。
だが、記憶によれば、彼は父親と協力し、その困難を乗り越えている。ならば、これ以上力を求めることは無いように思えた。
「あ」
いつの間にかもう一つ、さらに別のランタンが浮かんでいた。もはやクーはどこか慣れた様子で、それに近づき、手を伸ばした。
それが映し出したものこそ、スーリヤが魔人になるに至ったきっかけの出来事だった。
*
「よっと」
杖を振るい、目の前に現れた魔物に向けて魔法を放つ。風の矢が体を貫くと、魔物は怯んだように足を止める。
「も一つ」
その隙に、今度は土で大きめの刃を作って、魔物に放った。刃は魔物の体に刺さったけど、貫通まではしなかった。
「う~ん……」
やっぱり魔法の威力が落ちている。続けざまに土の刃をもう二つ作って魔物を攻撃すると、それでようやく倒れた。
「前は一撃で倒せたんだけどなぁ」
母さんの呪いを解いてから半年。俺の体に二つの変化が起きていた。一つはさっきの通り、魔法が弱くなったこと。
「もしかしたら、未完成の術式を無理に使ったのが原因かもしれないな」
父さんのその言葉に、俺もそうかもなんて思ったりもした。それなら一時的なものだろうと楽観的に考えていたんだ。
けれど、こうして半年経った今も、魔法は相変わらず弱いままで、さすがに焦りも出てくるものだ。
だからこうして、自然のダークが豊富にある森に入って、魔物の相手もして、無理やりにでも元通りの魔法の力を戻そうとしている。だというのに、今のところ調子が戻る気配は微塵もない。
他に方法はないかと考えていると、また魔物が現れた。さっきはイノシシの魔物だったけど、今度は背中に羽をはやした、妖精のような魔物だ。見た目こそ小さくて弱そうだけど、一定の属性に対して強い耐性と魔法を扱う、魔法生物の一種だ。
俺が構えるより先に、魔物が魔法を放ってきた。風による斬撃だ。
「おっと」
それに応じるように、こちらも防御魔法を展開しようしたが、間に合わなかった。
「くっ」
斬撃を直撃して、腕に傷が入る。だけど血が流れるよりも先に、傷口はすぐにふさがれた。
「やってくれたな。お返しだ!」
俺は杖を振って、岩を固めた拳を作り出すと、魔物に向けて放つ。見事に直撃すると、魔物はボロボロと消え去った。
「質量さえあれば、ある程度威力は誤魔化せるか」
魔法を分析しながら、俺はさっき傷を受けた腕を改めて見る。確かに攻撃は受けたし、痛みもあったけど、そんな事実などなかったかのように、傷は完全に塞がっていた。
これがもう一つの変化。体の治癒力が上がっていて、それに伴って治癒魔法の技術が向上していた。これについては、父さんも検討もつかないと言っていた。
「単にそういう時期ってだけならいいんだけどな」
俺は今、十三歳。このくらいの歳になると、体の成長に合わせるように、ダークの質が変化する。それに伴って、今まで使えなかった魔法が使えるようになることもあるけど、そうなるには時間がかかり、その間は逆に一切魔法が使えなくなるというのが通説だ。
やっぱり術式の後遺症って考える方が自然か。それにしても、いつになったら元通りになるのやら。
振った杖を肩に乗せようとする時、杖に結ばれた黒いバンダナが目に入る。シエロセルのサンスで暮らしていた幼い頃、そこで一緒に遊んでいた女の子からもらったものだ。
「あいつ、どうしてんのかな」
泣き虫で、弱虫な女の子で、ほっとけない存在だった。今にして思えば、相手のことなんてお構いなしに引っ張りまわしていたから、迷惑になってなきゃいいな、なんて思ったりもしてしまった。
昔のことを思い出していると、周囲に咆哮が轟いて、木々がざわめきだした。逃げるように小鳥が飛んでいくのが見えた。
「な、なんだ⁉」
ただごとではない。そう思った矢先、そいつは目の前に下りてきた。
再び大きな咆哮が響き、周囲の木々を暴風と巨大な体でなぎ倒したそれに、俺の体も吹き飛ばされた。
「痛!」
後方の大木に叩きつけられた俺は、痛みに耐えながら目を開く。そして、目の前にいた超常の存在を目の当たりにした。
全身を黒い鱗で覆い、巨大な体に見合った立派な翼と、この森一番の大木程はある四肢を携えたそれを、俺は本でしか見たことがなかった。だがその強さは、おそらく誰もが知っている、圧倒的な存在。
「りゅ、竜……」
竜は地に足をつけることなく、滞空を続けている。翼は一切はためいていないけど、あれは風のダークを集める器官だと本で読んだ気がする。そこに集めたダークを周囲に展開し、宙に浮いていると、その本には書いてあった。
気が付けば、体がわずかに震えていた。怖いなんて思ったつもりはないのに、体が勝手に動いてしまっていた。竜という存在は、生物の本能に圧倒的な恐怖を覚えさせるほどの、驚異的な存在ということか。
戦うという選択肢はない。あれほどの魔物に勝てるのは、よほどの達人のみだ。まして今の俺は、攻撃魔法がろくに使えない。体中を巡る恐怖を気合で押しのけて、脱兎のごとく逃げようとした、その時だった。
「ヴォオオオオオオ‼」
より至近距離から響いた雄たけびに、一瞬体がすくんでしまう。竜はその隙を見逃さず、こちらに向かってくると、その巨大な前足から伸びる爪を繰り出してきた。
「うおっ!」
体を地面と平行にし、伏せるような姿勢となって、それを躱そうとしたけど、少し間に合わなかった。切り裂かれた強い痛みが背中に走る。さっき魔法生物から受けた風の刃とは、比較にならないほどの痛みだった。
「~~!」
痛みに耐えていると、背後に追撃の気配を感じ取った。横へと転がると、すぐ隣を竜が横切るのが見えた。
「くそっ。本気で殺る気かよっ」
なんでこんなこと。理不尽を恨めしく思いながら、どうにか立ち上がって、竜を見据える。宙に佇み、こちらを見下ろしている竜は、すぐに行動する気配はなかった。
その姿を見て、俺の脳裏に一つの場面が浮かび上がる。公園でアリを見つけた子どもが、特に恨みなんてないのに、それを踏み潰す様。俺がアリ。竜が子ども。
「ふざけてやがる……」
憎まれ口を叩きながらも、この絶体絶命の状況から逃げ出す為、俺は脇に広がる木々の中へと姿を隠すことにした。
すると竜も動きだす。滑空し、俺が入った木々の方へ向かうと、翼をはためかせてそれらを薙ぎ払った。
「うおおおお!」
それは俺の体をも吹き飛ばして、奥へ奥へと体が運ばれていく。その間に、同じく吹き飛ばされている木々に何度も体がぶつかった。
やがて風が収まり、地面に叩きつけられる。この時点で、もう体はボロボロになっていた。
(けど、このままでいるわけには……)
どうにか逃げ切ろうと体を起こそうとするが、その時、背中を何かが貫く感触に襲われた。
「あ……?」
もはや悲鳴すら上げられなかった。腹の方から、何か暖かいものが流れているような気がした。そこに手をやってみると、赤いものがべっとりとついていた。
「マジ……かよ……」
出血の程度はわからない。けれど、だんだんと冷えてきた体からして、それはきっと生きていられないほどの量が流れていたのだろう。視界もかすんできて、最後には真っ暗になった。
再び目を開くと、固い地面が視界に入る。
「……ん?」
ゆっくりと体を起こし、自分の体を見る。腹のあたりの布地が破れているが、そこに隠れていた皮膚に傷跡は一切なかった。
「夢、だったのか?」
そう思って辺りを見渡すと、乱雑に倒れた木々が目に入った。
「夢、じゃなさそうだ……」
つまりあれほどの深手にもかかわらず、俺の体はきれいに再生したということになる。いくらなんでも、ここまでの再生力は自分の体ながら、恐ろしいものがあった。
(って、のんびりしてる場合じゃない!)
空は夕陽が照らしている。けっこうな時間、気を失っていたようだ。
俺は森を引き返し、急いで町へと戻った。竜がここにいたという事は、町まで向かった可能性だってある。もしもそうなら、ただで済むはずがない。
竜はどこか遠くへ行ってしまい、町は無事。俺が竜に出会って殺されかけたと言っても、誰もがホラ話だと思う。そうであったらどれだけいいか。
けど、現実はそうならなかった。俺が町へ戻ると、そこには灼熱の海が広がっていた。
「……うそ、だろ」
ここには確かに、俺が暮らす町、ルメーストルがあったはずだ。この炎に包まれているのは、一体なんだ?
フラフラと中に入り歩き回ると、構図はルメーストルとよく似ていた。商店街があるはずの路地には炎の道。学校帰り、友達と遊んでいた公園には爆炎の庭。町の統治者が暮らす豪邸があった場所には、業火の宮殿が出来ていた。
人の姿はどこにもなかった。あるのは人の形をした黒い塊だけだった。
ここはどこだ? 俺の暮らしていた町はどこにいった?
歩き続けて、やがて着いた場所は、一つの民家があったであろう場所だった。俺が暮らしていた町であれば、ここには家族と過ごしていた家がある。だけど、そこはボロボロの残骸しかなかった。
不意に、残骸の一部が崩れた。その奥から伸びた黒い何かが見えた。
「あ……」
違う。あれは多分、柱だ。屋根に組み込まれた、細い柱だ。先にある、細く小さな五つの棒は、組み込む為に削られた突起だろう。そうに決まっている。
「ヴォオオオオ!」
聞き覚えのある雄たけびが、空から響く。見上げると、森で出くわした竜が、あざ笑うように旋回していた。
「うわあああああああああああああああ‼」
風の槍! 土の弾丸! 炎の矢! もてる限りのダークを駆使して、竜に向けて放っていく。
殺す。殺す! 殺す‼ 何度も何度も魔法を放つが、全ては竜にまで届かない。
もっと、もっと。もっともっともっともっともっともっと‼ あいつを殺す力を‼ 全てを壊すほどの、圧倒的な力を‼
「ぜッタいに殺シてやル!」
二つ目の記憶を見て、クーは昔のことを振り返った。
幼い頃、スーリヤの父親とは面識がなかったが、母親とは少しだけ顔を合わせたことがある。そういえば、その時父親は医者のようなことをしていると聞いたような気がした。あの時のスーリヤの母親は、どこも悪いようには見えなかった。
それが石化病という呪いにかかり、それを治すためにスーリヤとその父親が奮闘した。そしてこの記憶によれば、それは成功したように見えた。
「でも、それならなんでスーくんは魔人になったんだろ……?」
魔人は力を求めた末に至るとされている。彼が母親を助ける為に力を求めたと言われれば、納得しそうなものだ。
だが、記憶によれば、彼は父親と協力し、その困難を乗り越えている。ならば、これ以上力を求めることは無いように思えた。
「あ」
いつの間にかもう一つ、さらに別のランタンが浮かんでいた。もはやクーはどこか慣れた様子で、それに近づき、手を伸ばした。
それが映し出したものこそ、スーリヤが魔人になるに至ったきっかけの出来事だった。
*
「よっと」
杖を振るい、目の前に現れた魔物に向けて魔法を放つ。風の矢が体を貫くと、魔物は怯んだように足を止める。
「も一つ」
その隙に、今度は土で大きめの刃を作って、魔物に放った。刃は魔物の体に刺さったけど、貫通まではしなかった。
「う~ん……」
やっぱり魔法の威力が落ちている。続けざまに土の刃をもう二つ作って魔物を攻撃すると、それでようやく倒れた。
「前は一撃で倒せたんだけどなぁ」
母さんの呪いを解いてから半年。俺の体に二つの変化が起きていた。一つはさっきの通り、魔法が弱くなったこと。
「もしかしたら、未完成の術式を無理に使ったのが原因かもしれないな」
父さんのその言葉に、俺もそうかもなんて思ったりもした。それなら一時的なものだろうと楽観的に考えていたんだ。
けれど、こうして半年経った今も、魔法は相変わらず弱いままで、さすがに焦りも出てくるものだ。
だからこうして、自然のダークが豊富にある森に入って、魔物の相手もして、無理やりにでも元通りの魔法の力を戻そうとしている。だというのに、今のところ調子が戻る気配は微塵もない。
他に方法はないかと考えていると、また魔物が現れた。さっきはイノシシの魔物だったけど、今度は背中に羽をはやした、妖精のような魔物だ。見た目こそ小さくて弱そうだけど、一定の属性に対して強い耐性と魔法を扱う、魔法生物の一種だ。
俺が構えるより先に、魔物が魔法を放ってきた。風による斬撃だ。
「おっと」
それに応じるように、こちらも防御魔法を展開しようしたが、間に合わなかった。
「くっ」
斬撃を直撃して、腕に傷が入る。だけど血が流れるよりも先に、傷口はすぐにふさがれた。
「やってくれたな。お返しだ!」
俺は杖を振って、岩を固めた拳を作り出すと、魔物に向けて放つ。見事に直撃すると、魔物はボロボロと消え去った。
「質量さえあれば、ある程度威力は誤魔化せるか」
魔法を分析しながら、俺はさっき傷を受けた腕を改めて見る。確かに攻撃は受けたし、痛みもあったけど、そんな事実などなかったかのように、傷は完全に塞がっていた。
これがもう一つの変化。体の治癒力が上がっていて、それに伴って治癒魔法の技術が向上していた。これについては、父さんも検討もつかないと言っていた。
「単にそういう時期ってだけならいいんだけどな」
俺は今、十三歳。このくらいの歳になると、体の成長に合わせるように、ダークの質が変化する。それに伴って、今まで使えなかった魔法が使えるようになることもあるけど、そうなるには時間がかかり、その間は逆に一切魔法が使えなくなるというのが通説だ。
やっぱり術式の後遺症って考える方が自然か。それにしても、いつになったら元通りになるのやら。
振った杖を肩に乗せようとする時、杖に結ばれた黒いバンダナが目に入る。シエロセルのサンスで暮らしていた幼い頃、そこで一緒に遊んでいた女の子からもらったものだ。
「あいつ、どうしてんのかな」
泣き虫で、弱虫な女の子で、ほっとけない存在だった。今にして思えば、相手のことなんてお構いなしに引っ張りまわしていたから、迷惑になってなきゃいいな、なんて思ったりもしてしまった。
昔のことを思い出していると、周囲に咆哮が轟いて、木々がざわめきだした。逃げるように小鳥が飛んでいくのが見えた。
「な、なんだ⁉」
ただごとではない。そう思った矢先、そいつは目の前に下りてきた。
再び大きな咆哮が響き、周囲の木々を暴風と巨大な体でなぎ倒したそれに、俺の体も吹き飛ばされた。
「痛!」
後方の大木に叩きつけられた俺は、痛みに耐えながら目を開く。そして、目の前にいた超常の存在を目の当たりにした。
全身を黒い鱗で覆い、巨大な体に見合った立派な翼と、この森一番の大木程はある四肢を携えたそれを、俺は本でしか見たことがなかった。だがその強さは、おそらく誰もが知っている、圧倒的な存在。
「りゅ、竜……」
竜は地に足をつけることなく、滞空を続けている。翼は一切はためいていないけど、あれは風のダークを集める器官だと本で読んだ気がする。そこに集めたダークを周囲に展開し、宙に浮いていると、その本には書いてあった。
気が付けば、体がわずかに震えていた。怖いなんて思ったつもりはないのに、体が勝手に動いてしまっていた。竜という存在は、生物の本能に圧倒的な恐怖を覚えさせるほどの、驚異的な存在ということか。
戦うという選択肢はない。あれほどの魔物に勝てるのは、よほどの達人のみだ。まして今の俺は、攻撃魔法がろくに使えない。体中を巡る恐怖を気合で押しのけて、脱兎のごとく逃げようとした、その時だった。
「ヴォオオオオオオ‼」
より至近距離から響いた雄たけびに、一瞬体がすくんでしまう。竜はその隙を見逃さず、こちらに向かってくると、その巨大な前足から伸びる爪を繰り出してきた。
「うおっ!」
体を地面と平行にし、伏せるような姿勢となって、それを躱そうとしたけど、少し間に合わなかった。切り裂かれた強い痛みが背中に走る。さっき魔法生物から受けた風の刃とは、比較にならないほどの痛みだった。
「~~!」
痛みに耐えていると、背後に追撃の気配を感じ取った。横へと転がると、すぐ隣を竜が横切るのが見えた。
「くそっ。本気で殺る気かよっ」
なんでこんなこと。理不尽を恨めしく思いながら、どうにか立ち上がって、竜を見据える。宙に佇み、こちらを見下ろしている竜は、すぐに行動する気配はなかった。
その姿を見て、俺の脳裏に一つの場面が浮かび上がる。公園でアリを見つけた子どもが、特に恨みなんてないのに、それを踏み潰す様。俺がアリ。竜が子ども。
「ふざけてやがる……」
憎まれ口を叩きながらも、この絶体絶命の状況から逃げ出す為、俺は脇に広がる木々の中へと姿を隠すことにした。
すると竜も動きだす。滑空し、俺が入った木々の方へ向かうと、翼をはためかせてそれらを薙ぎ払った。
「うおおおお!」
それは俺の体をも吹き飛ばして、奥へ奥へと体が運ばれていく。その間に、同じく吹き飛ばされている木々に何度も体がぶつかった。
やがて風が収まり、地面に叩きつけられる。この時点で、もう体はボロボロになっていた。
(けど、このままでいるわけには……)
どうにか逃げ切ろうと体を起こそうとするが、その時、背中を何かが貫く感触に襲われた。
「あ……?」
もはや悲鳴すら上げられなかった。腹の方から、何か暖かいものが流れているような気がした。そこに手をやってみると、赤いものがべっとりとついていた。
「マジ……かよ……」
出血の程度はわからない。けれど、だんだんと冷えてきた体からして、それはきっと生きていられないほどの量が流れていたのだろう。視界もかすんできて、最後には真っ暗になった。
再び目を開くと、固い地面が視界に入る。
「……ん?」
ゆっくりと体を起こし、自分の体を見る。腹のあたりの布地が破れているが、そこに隠れていた皮膚に傷跡は一切なかった。
「夢、だったのか?」
そう思って辺りを見渡すと、乱雑に倒れた木々が目に入った。
「夢、じゃなさそうだ……」
つまりあれほどの深手にもかかわらず、俺の体はきれいに再生したということになる。いくらなんでも、ここまでの再生力は自分の体ながら、恐ろしいものがあった。
(って、のんびりしてる場合じゃない!)
空は夕陽が照らしている。けっこうな時間、気を失っていたようだ。
俺は森を引き返し、急いで町へと戻った。竜がここにいたという事は、町まで向かった可能性だってある。もしもそうなら、ただで済むはずがない。
竜はどこか遠くへ行ってしまい、町は無事。俺が竜に出会って殺されかけたと言っても、誰もがホラ話だと思う。そうであったらどれだけいいか。
けど、現実はそうならなかった。俺が町へ戻ると、そこには灼熱の海が広がっていた。
「……うそ、だろ」
ここには確かに、俺が暮らす町、ルメーストルがあったはずだ。この炎に包まれているのは、一体なんだ?
フラフラと中に入り歩き回ると、構図はルメーストルとよく似ていた。商店街があるはずの路地には炎の道。学校帰り、友達と遊んでいた公園には爆炎の庭。町の統治者が暮らす豪邸があった場所には、業火の宮殿が出来ていた。
人の姿はどこにもなかった。あるのは人の形をした黒い塊だけだった。
ここはどこだ? 俺の暮らしていた町はどこにいった?
歩き続けて、やがて着いた場所は、一つの民家があったであろう場所だった。俺が暮らしていた町であれば、ここには家族と過ごしていた家がある。だけど、そこはボロボロの残骸しかなかった。
不意に、残骸の一部が崩れた。その奥から伸びた黒い何かが見えた。
「あ……」
違う。あれは多分、柱だ。屋根に組み込まれた、細い柱だ。先にある、細く小さな五つの棒は、組み込む為に削られた突起だろう。そうに決まっている。
「ヴォオオオオ!」
聞き覚えのある雄たけびが、空から響く。見上げると、森で出くわした竜が、あざ笑うように旋回していた。
「うわあああああああああああああああ‼」
風の槍! 土の弾丸! 炎の矢! もてる限りのダークを駆使して、竜に向けて放っていく。
殺す。殺す! 殺す‼ 何度も何度も魔法を放つが、全ては竜にまで届かない。
もっと、もっと。もっともっともっともっともっともっと‼ あいつを殺す力を‼ 全てを壊すほどの、圧倒的な力を‼
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