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炎の記憶

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「っ! はあ、はあ……」

強烈な記憶のあまり、クーはその場にへたり込んでしまう。余韻が残っているのか、頭に痛みも覚えていた。

「これが、スーくんが魔人になった理由……」

暮らしていた町が滅び、自分だけが生き延びる。仇である存在を倒すべく力を求め、人であることを失った。
人を助けられる力を持っていたのに。今は全てを破壊せんばかりに暴れまわる。やりきれない思いに、クーは苛まれた。

(早く元のスーくんに戻してあげないと……でも、どうやって……?)

スーリヤを前にすると、どうしても杖を振る手が止まってしまう。正気に戻すには、そうするしかないとわかっているのに。どうしても、彼を傷つけることに抵抗があった。
四の五の言ってられない状況なのはわかっている。仕方ないことだという事も理解している。それなのに、心はそう簡単に割り切れなかった。
気が付けば、目から涙が零れ出していた。泣いたって、何も解決しないのに。それもわかっているのに。自分が情けないと思うと、余計に涙が溢れてきた。

——お前、いつも泣いてんな

不意に耳に聞こえた声。クーはハッとして、顔を上げた。いつかも聴いた、彼の声だ。

「スーくん?」

だが彼の姿はどこにもない。目の前にあるのは、灯が消えたランタンのみだ。
そのランタンがカタカタと震えると、突如として中の火種が燃え出した。

「きゃあ!」

クーは驚いて、身を引いてしまう。炎を灯したランタンは、静かにその場に佇んだ。その両隣に、別のランタンがそれぞれ並ぶ。どちらも先にクーへスーリヤの記憶を見せたランタンで、中央のものと同じく、中で炎を灯していた。

「な、なに……?」

クーが戸惑っていると、ランタンに灯された炎が揺らめき、外へとゆっくり飛び出す。それぞれの炎がランタンから飛び出すと、クーの目の前で弧を描いた。
その軌跡が重なり合い、アーチ状に繋がると、その中央が白く輝きだした。その向こうには、ゆらゆらと陽炎のように、現実の景色を映し出した。

「こ、ここから出ろってこと?」

クーが恐る恐る向こうを見ると、目の前に下着姿のエリンが見えた。こちらに向けて刀を振るうが、右から飛び出た杖によって防がれた。
そしてその下から、弾丸のようなものが飛んできたかと思えば、途中で破裂し、蔓となって襲い掛かってきた。だが周囲に炎が立ち込めると、蔓はこちらに届く前に消失してしまった。
その向こうに小さく、マイの姿が見えた。

「もしかしてこれ、今のスーくん見てる景色?」

クーに理屈はまったくわからない。だがここはクーの心の中であると同時に、スーリヤと深いところで繋がっている場所でもあった。
そしてこのランタンは、スーリヤの力の一部だ。それがクーにかつての彼の記憶を見せた。それが意味することとは。

「……やるしかない、よね」

ぐっと拳に力が入る。腕で乱暴に目をこすって、涙を拭う。
もう泣かない。彼を助けるまでは。
心に誓い、決意した。覚悟は、出来た。
その気持ちに応えるように、一つのランタンから再び炎が上がった。炎はランタンからゆっくりと出てきて、クーの目の前までやってきた。
炎は優しく、あたたかな夕陽のような色をしていた。クーはそれを両手で包み込むと、胸の前に持っていった。
炎が、胸の中へと入っていく。胸の内にほのかな温かみを覚えると、クーは立ち上がり、炎のアーチに向けて一気に駆け出した。中を通りぬけて、現実へと帰還する。

——怖い思いをさせて、ごめんな

アーチを潜る時、クーの耳にそんな言葉が聞こえてきた。
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