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魔人戦線

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クーは杖を構え、紋章を強く意識する。紋章から冷気が放たれると、杖の先端へと集まり、球体の塊になる。冷気はクーの背後へも回り、翼を生み出した。
戦闘形態と捉えたのか、スーリヤは杖を振るうと、炎の塊を生み出し、クーに向かってそれを放った。

「させないよ~」

クーの前に立ったのはエリンだった。腰の刀を引き抜きざま、迫る炎弾を全て切り払う。

「ここなら岩は無いし、放つのは炎だけだよね~」

得意げに語るエリンは、そのままスーリヤとの距離を詰める。接近戦とみて、スーリヤは杖に炎を纏わせる。クーのように、炎の形状を変える。それは刃の形を取っていた。

「そ~れっ!」

エリンが振るう刀を、スーリヤは炎の刃で受け止める。先程炎弾を切り裂いたエリンの刃は、今度はそのまま受け止められることになった。

「う~ん。込められたダークが強すぎて、「幽断ち」でも切れないか~。エリンもまだまだ修行が足りないにゃ~」

でも、とエリンは膂力を込めて、スーリヤの体勢を押し崩した。

「今回エリンは、サポーターだからね~。こうやって足止めすれば十分」

二人の上空に、影がさしかかる。影の正体は、宙を飛ぶクーだった。

「スーくん!」

手にした杖を振り下ろす。ちょうどスーリヤの頭上。彼はクーの声に反応し、顔を上げた。
その時、二人の目がしっかりと合った。

「っ……!」

振り下ろした杖は、スーリヤを叩くことなく、地面へと振り下ろされる。地面は球状にえぐられ、わずかに砂煙が上がった。

「クーちゃん?」

攻撃を躊躇ったクーを気にしたエリンに、隙が生まれる。スーリヤは足を蹴り上げると、エリンはとっさに自身も足を上げ、膝でそれを受け止める。

「マイちゃん!」

「わかってる!」

マイは地面に手を置くと、そこから太い蔓が伸び、クーへと向かう。蔓はクーを捕らえると、そのままマイの元へと彼女を連れ戻した。

「クー、大丈夫⁉」

「う、うん……」

膝をついたままクーが返事をすると、改めてスーリヤを見る。エリンが振るう刀を躱すと、彼女の目の前に爆炎を放った。黒煙が広く立ち込め、二人の姿が見えなくなる。
やがて黒煙の上方から、炎の翼をはためかせたスーリヤが飛び出し、上空へと飛び出した。

「逃がさないよ」

マイが銃を構え、スーリヤの飛び上がった下方に向けて弾丸を放つ。地面に着弾した弾は、そのまま生長し、枝分れした黒い樹となってスーリヤに向かっていく。
スーリヤは杖を持たない左手から、炎を放射する。だが伸びる枝は一切燃えることなく、スーリヤの足を掴んだ。

「ナナカマドはね、七度火にくべても燃えのこるって言われるほど、火に強いんだよ」

無論、普通のナナカマドが火に耐えられるわけがない。だがこれはマイによって生み出された種によって生まれた特殊なものだ。にやりと口角を上げたマイは、続けて弾丸を放ち、さらに枝を伸ばし、スーリヤの体を絡めて掴んだ。

「クー! 今のうちに!」

「う、うん!」

クーが立ちあがり、冷気の翼でスーリヤのいる場所まで飛び上がる。樹に絡めとられたスーリヤは、杖を構えたクーを前にしても、ただ彼女を見つめるのみだった。

「やらなきゃ、やるんだ……」

杖を握る手に力を込めて、振りかぶる。
呼吸が荒くなる。相変わらずこちらを見つめるスーリヤに、クーは杖を振りかぶったまま動けなくなっていた。

「クー! 早く!」

下にいたマイが叫ぶ。
そうだ。やらなければ、スーリヤは助けられない。
わかっている。わかっているのに、クーは杖を振り下ろせずにいた。

(決めたのに……)

なんて情けないことだろう。マイの研究所で、あれだけ力強く宣言したのに。いざスーリヤを目の前にすると、手が全く動かなくなってしまった。

彼との思い出が。当時抱いた気持ちが。あらゆる過去が、クーの行動を縛り付けていた。

「クー……」

クーの持つ優しさ。そしてそれと共に、常に弱さがあった。そんな彼女が、幼馴染を相手に攻撃が出来るのか。マイは正直、無理だと思った。それでも、クーがやると言ったから、それを尊重しようと思った。
相変わらずスーリヤは動かない。それが不幸中の幸いか。マイはクーに下がるように進言しようとした時、地上の黒煙が晴れ、エリンが姿を現した。
いくつもの傷を負った彼女の前には、上空で捕らえているはずのスーリヤの姿もあった。

「クーちゃん! そいつからすぐに離れて!」

エリンの叫びに驚いたクーが下を見ると、そこにもスーリヤの姿があることに気が付く。驚いて自分の目の前にいるスーリヤに視線を戻すと、彼の体が赤く変色し始めていた。

「クー逃げて!」

異常に気付いたマイも叫ぶ。だが、間に合わなかった。
スーリヤの形をしていたそれは、真っ赤になった途端に炎となり、クーに襲いかかってきた。

「うわあああああ!」

クーの体が炎に包まれる。今までの人生で味わった事のない温度に、クーの意識はすぐに遠のく。
死を目前にし、それを回避する生物的本能なのか、彼女の意志に関係なく、紋章が赤く光った。
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