63 / 75
魔人戦線
6-1
しおりを挟む
夜が明け、スーリヤとの対決に向けて準備を整えた三人は、研究所を後にして、そのまま洞窟も抜ける。
「とりあえず、昨日カバジとあんたと別れたところまで戻ろっか」
洞窟は狭いうえに、戦闘の余波で生き埋めになりかねない。森の中はマイの独断場ではあるが、クーが直接相手しなければならない事を考えると、戦いに向いているとはいえなかった。
森の外ならば、遮るものは殆どない。だがそれは相互に隠れる場所がなく、常に狙われる危険が高くもある。マイとエリンは戦闘慣れしているが、クーはまだそれほどでもない。それでもクーは、危険は承知の上で、この戦いに臨むと意気込んだ。
「大丈夫。何があっても、あたしがクーを守るよ」
「エリンちゃんもね~。だからクーちゃん。安心してスーくんと向き合ってね~」
二人の言葉は頼もしく、それでいて二人だけに任せるばかりではいられないと思いながら、クーは頷いた。
洞窟を抜けて、三人は森を歩く。順調に進みながらも、マイは違和感を覚えた。
「……魔物の数がやけに少ない」
「そうだね~。潜んでいるって感じでもないし、ここらの魔物は全滅してるってことかな~?」
「一晩で? そんなバカなこと……魔人の仕業? でもその割には火のダークに変わった様子はない……」
歩きながら、マイはぶつぶつと呟く。その後も一切魔物に襲われることなく、三人はカバジと別れた森の入り口に戻ってきた。三人の前に、二頭の馬と彼らとつながった幌馬車があった。
「な、なんで馬車が……」
クーが驚いて、馬車に近づく。幌馬車の扉を叩くと、しばらくして中からカバジが姿を現した。
「おう、お嬢さん。随分かかったな」
「カ、カバジさん。どうしてまだここに」
「どうしてって、そりゃお嬢さんらをほっぽって帰るわけにはいかないだろ」
「え。じゃあハンナさんはどうしたんですか?」
「ハンナ? ああ。二人と一緒にいた兵士か。いや、戻ってきてねえけど」
「え……」
クーが戸惑っていると、後ろにいたエリンが、隣で考え込むマイの肩を叩いた。
「ねえ。クーちゃんが魔人を呼び出すって言ってたけど、まだ何もしてないよね?」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「いや~。なんていうか、もうすでに強い力がこっちに近づいてきてるみたいなんだよね~」
「はあ⁉」
マイが顔を上げて、周囲を見渡す。意識してみると、エリンの言う通り、強いダークがすぐそこまで来ている気配があった。それはまさに、昨日肌で感じた、強大な火のダークだった。
「クー! まずい! もうスーリヤがこっちに来てる!」
「え⁉」
クーが反応すると同時に、馬車に繋がれたノックスとランドは、落ち着かない様子で嘶きだした。
「おいおい。どうしたお前ら」
二頭をなだめるカバジの額にも汗が流れる。周囲が途端に熱気を帯び出したのだ。
「来たね」
エリンが腰の刀に手をやると、上空から熱波が降り注ぐ。そして四人と二頭の前に、巨大な火柱が落ちてきた。
「ス、スーくん……」
熱気を直に受け止めながら、クーは目の前の火柱から目を逸らさなかった。火柱が収まると、その中心にいたスーリヤが姿を現した。
「カバジ。この子たちと一緒に王都まで逃げて。ここにいたら、巻き込まれるよ」
「ああ? でも嬢ちゃんらを置いてくわけには……」
「いいから行って! 帰りは自分でなんとかするから!」
声を荒げたマイに、カバジは心底悔やむように歯噛みすると、二頭の馬に馬車を引かせた。
「絶対帰って来いよ」
「約束する。ほら、もう行ってよ」
それを最後に、カバジは馬車を走らせた。スーリヤは少しだけ彼の方を見るが、興味がないように、すぐに目を逸らした。
「とりあえず、昨日カバジとあんたと別れたところまで戻ろっか」
洞窟は狭いうえに、戦闘の余波で生き埋めになりかねない。森の中はマイの独断場ではあるが、クーが直接相手しなければならない事を考えると、戦いに向いているとはいえなかった。
森の外ならば、遮るものは殆どない。だがそれは相互に隠れる場所がなく、常に狙われる危険が高くもある。マイとエリンは戦闘慣れしているが、クーはまだそれほどでもない。それでもクーは、危険は承知の上で、この戦いに臨むと意気込んだ。
「大丈夫。何があっても、あたしがクーを守るよ」
「エリンちゃんもね~。だからクーちゃん。安心してスーくんと向き合ってね~」
二人の言葉は頼もしく、それでいて二人だけに任せるばかりではいられないと思いながら、クーは頷いた。
洞窟を抜けて、三人は森を歩く。順調に進みながらも、マイは違和感を覚えた。
「……魔物の数がやけに少ない」
「そうだね~。潜んでいるって感じでもないし、ここらの魔物は全滅してるってことかな~?」
「一晩で? そんなバカなこと……魔人の仕業? でもその割には火のダークに変わった様子はない……」
歩きながら、マイはぶつぶつと呟く。その後も一切魔物に襲われることなく、三人はカバジと別れた森の入り口に戻ってきた。三人の前に、二頭の馬と彼らとつながった幌馬車があった。
「な、なんで馬車が……」
クーが驚いて、馬車に近づく。幌馬車の扉を叩くと、しばらくして中からカバジが姿を現した。
「おう、お嬢さん。随分かかったな」
「カ、カバジさん。どうしてまだここに」
「どうしてって、そりゃお嬢さんらをほっぽって帰るわけにはいかないだろ」
「え。じゃあハンナさんはどうしたんですか?」
「ハンナ? ああ。二人と一緒にいた兵士か。いや、戻ってきてねえけど」
「え……」
クーが戸惑っていると、後ろにいたエリンが、隣で考え込むマイの肩を叩いた。
「ねえ。クーちゃんが魔人を呼び出すって言ってたけど、まだ何もしてないよね?」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「いや~。なんていうか、もうすでに強い力がこっちに近づいてきてるみたいなんだよね~」
「はあ⁉」
マイが顔を上げて、周囲を見渡す。意識してみると、エリンの言う通り、強いダークがすぐそこまで来ている気配があった。それはまさに、昨日肌で感じた、強大な火のダークだった。
「クー! まずい! もうスーリヤがこっちに来てる!」
「え⁉」
クーが反応すると同時に、馬車に繋がれたノックスとランドは、落ち着かない様子で嘶きだした。
「おいおい。どうしたお前ら」
二頭をなだめるカバジの額にも汗が流れる。周囲が途端に熱気を帯び出したのだ。
「来たね」
エリンが腰の刀に手をやると、上空から熱波が降り注ぐ。そして四人と二頭の前に、巨大な火柱が落ちてきた。
「ス、スーくん……」
熱気を直に受け止めながら、クーは目の前の火柱から目を逸らさなかった。火柱が収まると、その中心にいたスーリヤが姿を現した。
「カバジ。この子たちと一緒に王都まで逃げて。ここにいたら、巻き込まれるよ」
「ああ? でも嬢ちゃんらを置いてくわけには……」
「いいから行って! 帰りは自分でなんとかするから!」
声を荒げたマイに、カバジは心底悔やむように歯噛みすると、二頭の馬に馬車を引かせた。
「絶対帰って来いよ」
「約束する。ほら、もう行ってよ」
それを最後に、カバジは馬車を走らせた。スーリヤは少しだけ彼の方を見るが、興味がないように、すぐに目を逸らした。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
レベルアップしない呪い持ち元神童、実は【全スキル契約済み】 ~実家を追放されるも呪いが無効な世界に召喚され、爆速レベルアップで無双する~
なっくる
ファンタジー
☆気に入っていただけましたら、ファンタジー小説大賞の投票よろしくお願いします!☆
代々宮廷魔術師を務める名家に庶子として生まれたリーノ、世界に存在する全ての”スキル”を契約し、一躍神童と持ち上げられたがレベルアップ出来ない呪いが
発覚し、速攻で実家を追放されてしまう。
「”スキル辞典”のリーノさん、自慢の魔術を使ってみろよ!」
転がり込んだ冒険者ギルドでも馬鹿にされる日々……めげないリーノは気のいい親友と真面目な冒険者生活を続けていたのだが。
ある日、召喚獣として別世界に召喚されてしまう。
召喚獣らしく目の前のモンスターを倒したところ、突然リーノはレベルアップし、今まで使えなかったスキルが使えるようになる。
可愛いモフモフ召喚士が言うには、”こちらの世界”ではリーノの呪いは無効になるという……あれ、コレってレベルアップし放題じゃ?
「凄いですっ! リーノさんはわたしたちの救世主ですっ!」
「頼りにしてるぜ、リーノ……ふたりで最強になろうぜ!」
こっちの世界でも向こうの世界でも、レベルアップしたリーノの最強スキルが大活躍!
最強の冒険者として成り上がっていく。
……嫉妬に狂った元実家は、リーノを始末しようととんでもない陰謀を巡らせるが……。
訪れた世界の危機をリーノの秘儀が救う?
「これは……神の御業、NEWAZAですねっ!」
「キミを押さえ込みたいんだけど、いいかな?」
「せ、せくはらですっ!」
これは、神童と呼ばれた青年が、呪いの枷から解き放たれ……無数のスキルを駆使して世界を救う物語。
※他サイトでも掲載しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが
米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。
その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。
更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。
果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!?
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる