臆病勇者 ~私に世界は救えない~

悠理

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魔人襲来

4-5

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ハンナ・ウルズは、王都マーチでごく平凡な家庭の長女として生まれ育った。
彼女には二人の兄がいたが、彼らよりも勇ましく、賢く、その実力を買われて国立の兵学校へ通う事になった。
兵学校での彼女も、座学、実技共に優秀な成績を修めていた。さらに人目を引く容姿うだったこともあり、彼女は学内で注目の的だった。
優秀な成績のまま卒業を果たし、シエロセル王国兵として兵団に入団。そこで彼女は初めての挫折を味わった。
学校の同期で、彼女よりも成績の悪かった人間が活躍する中、彼女は目立った成果を上げることが出来なかった。それは一度や二度だけにならず、思うようにいかない状況に対し、彼女は次第に苛立ちを覚えた。
なぜ、こうもうまくいかないのか。家でも学校でも、誰よりも優秀だったはずなのに。
彼女の出した結論は、先輩兵士らが自分を過小評価しているというものだった。
王国兵士のほとんどが男性で、女性兵士というのはごくわずかだ。そして彼女よりも成果を上げていった同期は、皆男性だった。
男社会の組織故、自分には碌な仕事が回ってこない。結果、自分の本来の力が発揮されずくずぶっているのだ。

(私だって、ちゃんとした役目さえ与えられれば……)

それこそ、光の勇者のように。魔王討伐という役目ならば、あの臆病な少女よりも確実にうまくこなせる自負が、ハンナにはあった。
自分はまごうことなく、優秀な存在であると。



「くそっ!」

ハンナが蹴飛ばした椅子が、壁に激突し、床へと落ちる。それでも彼女の怒りは収まらず、その場で地団駄を踏んだ。

「兵士さ~ん。少しは落ち着きなって~」

エリンは水の入ったグラスを、ハンナに差し出す。テーブルの上にあった水差しから注いだものだ。

「うるさい!」
 
エリンの好意を無下にするように、ハンナは手を振り払い、弾き飛ばす。エリンは「もう~」と肩を竦めながら、コップを拾い上げる。零れた水は、木の床があっという間に吸収し、跡も残さなかった。エリンが感動したような声と、小さな拍手をし、そんな彼女に対し、ハンナは怒りを覚えていた。
口調も態度もふざけたエリンだが、その実力は本物だった。ハンナから見て、彼女のそれは、自分の嫌いな天才の類だった。
なんの努力もせず、天から与えられた才能だけで他を圧倒する。そんな理不尽が、許されていいのか。許されるならば、努力に意味などあるのだろうか。

「ところで~、兵士さんは~、どうして兵士になったのかにゃ?」

「何?」

質問の意味がわからず、ハンナはエリンを睨みつける。

「いや~。確かにマイちゃんの言う通り、兵士さんが動けない女の子を見捨てるのはちょっとな~って思うんだ~。でも、兵士さんが人の為じゃなくて~、たとえばお金の為とか、自尊心の為とかだったら~、そういうこともするのかな~って思って~」

「確かに給金は悪くないが、そんな低俗な理由で王国兵を志すものか」

「じゃあ自尊心の方かな~? 兵士さん、そういうの高そうだもんね~」

「貴様。あまりふざけた事を抜かすなら、叩ききるぞ」

憎悪を込めた眼を向けると、エリンはおどけた調子で「怖~」と両手を上げた。その態度も癪に障り、ハンナは本気で剣を抜こうかと、柄に手が伸びそうになった。
エリンはハンナが弾いたグラスをテーブルに戻し、もう一つの空のグラスに水を注ぎ入れる。少しだけ口に含み、ふうと一息つく。

「別に自尊心が高いのは構わないと思うよ~。ただ、それが何のためなのかは、はっきりさせといた方がいいよ~」

「流れ者風情が、どの位置から物を言う!」

「身分は関係ないって~。エリンが言いたいのは、しっかりと自分を持っとかないと危ないよ~って話」

エリンがグラスを傾けて、さらに水を飲む。

「兵士さんさ~。結局どうして兵士になったのかは答えられてないよね~。それってさ~、兵士さんが何を以って兵士になったのか、自分でもわかってないんじゃないかって、エリンは思ったんだよね~」

「知ったような口を……」

「知らないよ~。だって兵士さん、自分の話を一切してくれないんだも~ん」

グラスの水を飲み干して、エリンが静かに息を吐く。おかわりを入れると、もう一つのグラスにも水を注いだ。

「だからさ~。お互いをわかりあう為にお話しよ? エリンの身の上話も、聞かせてあげるからさ~」

水の入ったグラスを横へずらすと、エリンは隣の席をポンポンと叩き、ハンナに対して、そこに座るように促した。
ハンナは相変わらず鋭い目つきで、エリンを睨み続けている。その場を動かない様子の彼女に、エリンは諦めたようにため息を吐いた。

「じゃあ一方的に、エリンのお話、聞かせてあげる。これはここより遥か遠くの地で生まれた、一人の可愛い可愛い、女の子の物語~」

「必要ない」

ハンナがぴしゃりと跳ねのけるが、エリンは意にも介さず話を続けた。

「世界一にも匹敵する可愛さを持つエリンちゃんは、フェブリっていう小さな村に生まれたんだ~」

自分の生まれから始まり、父の名、母の名と続くと、話は二人の馴れ初めに入った。聞きたくもない話に、ハンナは苛立ちのまま、彼女に近づいてその口を塞ごうと動いた。

「……それで~パパは昔からママと色んなことで競い合ってたんだけど~、ある日、ママは魔人になっちゃったんだ~」

「……なんだと?」

突然の告白に、ハンナの足がピタリと止まった。エリンの口角はわずかに上がり、いたずらな笑みを浮かべていた。
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