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第2問 虚無の石櫃【出題編】

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 情報としては大いにプラスとなる情報だといえよう。しかしながら、実のところ答えが【ノー】だった場合にも、プラスの情報が転がり込むように九十九は【質問権】を操作していた。

 伸縮式の梯子は、元々施設にあったものではない。そして、それを持ち込んだのは被害者である牧村でもない。結果的に犯人が持ち込んだことが明らかになったわけだが、もしこれで犯人も梯子を持ち込んでいない――という答えになっていたらどうなっていたのか。そもそも、現場に残されていたものだから、事件の関係者が持ち込んだ可能性は最初から高かった。念のために施設に元々あったものだったのか確認をし、それが持ち込まれたものだと確定できたわけだ。つまり、普通に考えれば、これら3つの質問は、いずれかが【イエス】という答えになる可能性が非常に高かった。この状況で全ての答えが【ノー】だった場合、これらの質問をしたアカリ、凛、長谷川のいずれかが嘘をついているということになる。ゆえに、仮に情報が手に入らなくとも、犯人候補となる人間を絞り込むことができたはずなのだ。

「そうか――となると、どうして犯人は伸縮式の梯子なんて持ち込んだんだろうなぁ」

 長谷川の言葉に、誰に問うでもなく呟いてみる。もちろん、何かしらの意図があったからこそ、犯人は伸縮式の梯子を持ち込んだのだ。しかしながら、その意図を考えるのは、自分だけではなく、みんなであったほうがいい。できるだけイニシアチブを取らないようにするため考慮したつもりだ。

「どう考えたって長さが足りないわけだし、持ち込んだところで役立たずなんだよね。あ、もしかして犯人は【虚無の石櫃】がそこまで高い建造物だって知らなかったんじゃない?」

 凛がカメラのほうに視線を向けながら言う。たまによそ行きのトーンで喋る辺り、まだテレビを意識しているのだろうか。

「もしかすると【虚無の石櫃】がどんな芸術作品だったのかさえ知らなかったとか……」

 柚木が凛に続いて口を開くが、そこで九十九は首を横に振る。

「いや、少なくとも犯人は梯子が必要な高さのある建造物だということは知っていただろう。事前になんの情報も知らないのであれば、梯子を用意することなんてしねぇだろうし」

 犯人はおそらく【虚無の石櫃】の構造を知っていた。そうでなければ、なんらかの方法で被害者を【虚無の石櫃】の中に放り込むなんて真似はできない。その場の思いつきでやれる芸当ではないし、犯人は計画性を持って動いていたはずだ。そんな人間が【虚無の石櫃】がどんなものだったのか知らなかったとは思えない。
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