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第2問 虚無の石櫃【出題編】

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「だったら、犯人は何のために伸縮式の梯子なんてものを用意したんだ? 長さ的に明らかに足りないのは分かりきっていたことだろうし、そんなものわざわざ持ち込む必要がないだろうに」

 犯人はいかなる意図があって、伸縮式の梯子を現場へと持ち込んだのか。まさか、まるで意味などなかったということはないだろう。運ぶのにそれなりの労力はかかったであろうし、簡単に持ち運べるものでもないだろうから。

「それが分かれば苦労しねぇよ。だが、どうにも引っかかるんだよなぁ」

 九十九はこれまでの情報を振り返る。床に散らばっている発泡スチロールのクズが、現場にあった何かを再現している。また、伸縮式の梯子は犯人が用意したものだった。藤木から【イエス】の返答がもらえたのは、この2つだけ。これらの情報を統合して考えたところで、答えなど出てはこない。

「それでは、次は――伊良部さんにしましょう。3分後に質問をいただけないようでしたら【質問権】は失効するものといたします」

 残る【質問権】は柚木と眠夢のものだけ。質問も残り2回しかできないことになる。質問の重みも、これまでとはまるで違ってくるだろう。

「で、今度はどんな質問をする? もうそんなに【質問権】の余裕もないけど」

 凛がそう言い、自然と九十九に注目が集まる。これまでの情報を統合して考えるに、優先的に明らかにしておかなければならないのは――。

「被害者の死に直接繋がった要因……それを明確にしておいたほうがいい。つまり【被害者は転落死だったのか?】という質問にしよう」

 再現された現場の状況からして、被害者が転落死である可能性は低い。しかしながら、この辺りは明確にしておく必要があった。それによっては推理の幅も大きく変わってくる。

「被害者の遺体は壁に寄りかかっていた状態。落ちていた携帯電話は――普通に使える状態だった。これらのことを考えるに、被害者が転落死したとは思えないがな」

 長谷川の言い分はもっともであるが、しかし確かめておいて損はなかった。むろん【質問権】は有意義に使わねばならないが、あまりにも踏み込みすぎると藤木に却下されてしまう恐れがある。それらのことも考慮すると、この辺りの質問で留めておくべきだ。

「あの、それじゃあ、私はその質問をするってことでいいですか?」

 長谷川が口を挟んでくれたおかげで、わざわざ柚木が確認をするかのように遠慮がちに手を挙げた。九十九は小さく頷く。

「あぁ、それで構わねぇよ」
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