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第2問 虚無の石櫃【出題編】

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 思考が完全に【質問権】のほうへとシフトしてしまったせいで、事件現場を再現したという模型は、単なるモニュメントと化していた。番組を盛り上げるために、わざわざ3分ごとに【質問権】が失効するルールを取り入れたのに、そのせいで効率的に【質問権】を行使するほうに重きが置かれてしまい、本来の【ディティクティヴタイム】の役割を失ってしまうとは、なんたる本末転倒なのだろうか。

 誰かが【質問権】を行使したら、次の【質問権】が失効する前に質問内容を考え、共有し、また【質問権】を行使する。実に単調な映像を、視聴者は淡々と見せられていることになる。それこそ、完全に盛り上がりに欠けているのではないだろうか。

「梯子を誰が持ち込んだのか――か。分かった。その質問でいこう」

 モニュメントと化していた模型を見上げながら、長谷川が口を開いた。握りたくないものの、主導権を九十九が握ってしまっているのも事実だ。だから、何も考えずに言われたことだけをやっているより、長谷川のように疑問をぶつけてくれたほうがありがたい。誰か1人が場を支配してしまうという状況は危険極まりないのだから。

「あぁ、それで頼む」

 これで伸縮式の梯子を持ち込んだ人物は特定できることだろう。もし、これでも特定できなかったら、少しばかり奇妙なことになってしまう。それを一同の前で提示してやってもいいのだが、あえてやめておいた。疑心暗鬼の火種になるようなものは避けたほうがいい。

「はい、それでは時間でーす。長谷川さんどうぞー」

 長谷川の【質問権】が失効する時が訪れる。これまでのみんなと同じように、藤木のほうへと歩み寄ると、メガホンに向かって質問をする。ただでさえ場がシュールな感じになってしまっているが、この瞬間こそが最もシュールである。しかし、この瞬間こそが九十九達にとって重要な場面でもあるのだ。

 相槌を打ちながら長谷川の質問を聞くと、メガホンを反対側にして藤木は長谷川に耳打ちをする。ここで答えは【イエス】となるか、それとも【ノー】となるか。長谷川がこちらのほうを見ると、その場で言った。

「――【イエス】だそうだ」

 伸縮式の梯子。高原にある芸術作品のそばに、普段から転がっているような代物ではない。ゆえに、事件と関連性が強いものであるとは思っていたが、ようやく答えが出た。伸縮式の梯子を持ち込んだのは――牧村を殺害した犯人である。
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