召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第一章

三十一話

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 五分から十分ほどの小休憩をこまめに挟みながら、森の奥地にある『異界の湖』まで足を進めていく。本来『異界の湖』という場所に行くために片道数日はかかる道を、一日という短さで進むことができるのは、ロセウスたちというチートな存在があるおかげだ。しかもベルは背中に乗っているだけ。多少疲れはするが、それでも『異界の湖』まで歩いていく人たちほどの疲れはない。だからベルは夕飯を少しでも美味しいものを作ろうと決意をした。

 当たり前のことではあるが、『異界の湖』に宿などはない。そのため、『異界の湖』を目指す者たちは必然的に野宿となる。しかしベルは野宿を楽観視していた。片道一日にしかかからないということも大きいが、その他の理由として、ベルに心強い召喚獣たちがいるからにほかならない。

 他の召喚術師や契約術師と違い、ベルには三匹も召喚獣がいる上に、それぞれが遠出に役立つ能力を持っていたからだ。

 もちろんこのことを他の契約術師に言えば怒りを買うことは間違いないので、ベルたちだけの秘密だ。ベルたちだけ、というのは、一度ロセウスたちに本音をポロリとこぼしてしまったことがあるからだ。その時は、そんなことを言うのはベルだけだと爆笑されてしまった。

 日が暮れてくると、足元も見えづらくなって危険になるので、木があまり密集していない、空間が開けた場所にテントを張ることになった。しかしテントとはいっても、一人用の小さなテントではない。昔にベルが特注したテントだ。家のように快適な設備は整っていないが、十畳ほどの広さに、身長の高いロセウスたちも真っすぐに立って歩けるような高さがある。しかも床面は、寝たり座ったりしても背中や尻が痛くならないよう、緩衝材がたっぷりと入っているマットをこちらも特注で作ってもらった。

 組み立てることや、持ち運びのことを考えると、誰も使いたがらない代物ではあるが、ベルにとってはそうでもない。持ち運びや組み立ては力のあるアーテルやアルブスが進んで行ってくれるし、テント内に虫や動物などが入らないよう、ロセウスが結界を張ってくれる。三人がいてくれるからこそ、使い勝手のいいテントと化していた。

 三人が協力してテントを張ったりしている間に、アーテルたちが買って来てくれた食材で簡単なスープを作ることにした。アーテルが水を生み出す能力を持っているので、鍋に水を張ってもらい、その水を沸かす火を結界の他にも火を操ることができるロセウスに点けてもらう。

 家の中では魔石をはめ込まれた器具を使用すれば、日本と同じように調理することが可能なのだが、外ではそうもいかない。まだ外に持ち出せるくらい小さな器具が開発されていないからだ。なのでこうした旅路では、そういった魔法が使えない者は、水源を探しに行ったり、火つけ石で火をおこしたりしなければならない。召喚獣たちのおかげでベルはそんな苦労を全くしなくていいので、本当に魔法は便利だと改めて思った。

 テントを組み立て終わるとほぼ時を同じくしてできた夕飯を四人で囲い、明日の日程について話す。

「『異界の湖』までここからあと数キロしかないからね。多少ゆっくり準備をして出ても、昼までには到着できるはずだよ」

 『異界の湖』は特殊な場所であることから、明確な地図が存在しない。作って流通させてはいけないという決まりがあるからだ。だから契約術師を目指す者は、先輩の契約術師に連れてきてもらうことが多い。ベルも初めて訪ねたときは、先代の輝人である召喚術師に連れてきてもらった。二度目以降は手書きの地図とロセウスたちを伴って足を運んだことがあるが、それでも今回ベルが予想していた場所とそれほど誤差なく現在の居場所があっていることに安心する。

「じゃあ皆にもゆっくり休んでもらいたいし、明日はゆっくり出発することにしようか」

 普通ならば、ここで火の番や見張り要員を決めていくのが当たり前なのだが、ここにはロセウスの結界が張ってある。よほどのことがない限り、ロセウスの結界が破れることはない。もし破れたとしても、魔法を執行したロセウスが気づくので問題はない。

 アーテルにお湯を出してもらい、各々体を清めたあと早々に体を休めることにした。

 ナツゥーレは、一年中気候が穏やかで過ごしやすいとはいっても、深い森の中は肌寒いものがある。テントで風を瀬遮っていても、それは同じだ。ベルがゆっくりとお湯で体を清めてから、テントの中へ入ると、そこにはもふもふな三匹がテントの中にいた。

「どう、したの? 獣化なんかして」

 思わずもふもふーと叫びながらダイブしたくなる気持ちを抑えて、どうにか違う言葉をかける。

「掛け布団よりも私たちの方が暖かいだろうと思ってね。荷物も増えることだし、今回の遠出はこの姿で夜を共に過ごそうと思ったんだよ」

 遠出をする際に、荷物を最小限にまとめるのは、基本中の基本だ。ただでさえ大きくて立派なテントを持ってきているベルたちは、荷物が嵩張ってしまう。掛け布団も四人分持ってくるとしたら、それなりに増えてしまうので、確かに獣化した方がベストなのだろう。それにベルにとっては、もふもふを思う存分味わえる絶好の機会なので、嫌だと思うはずもない。むしろ遠出するたびにもふもふを味わえるのなら、何度でも遠出したいくらいだ。

「まあこうやって皆で寝るのも遠出するときの醍醐味だよね」

 自分に言い訳をしているのか、ロセウスたちに同意しているのかよくわからない言葉を口にする。

「そう、ならよかった。おいで、ベル。ずっと入り口に立っていたら、体が冷えてしまうよ」

 ロセウスに前足で呼ばれ、満面の笑みでロセウスたちの中央へ体を入り込ませた。
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