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126 戦乱を逃れて
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『どうも、ニホンという国は戦争をしていたようなのです』
その場の全員がはっと息を呑んだ。
『何処と、と聞くとベイエイ、シナと…』
『知らんな…。聞いたことがない』
ピエールが唸るように言う。
誰も聞いたことがないような遠い国同士での戦争。大公国に影響はまずないはずだが、戦災を逃れてこの国に来ている者が実際にいるのだ。
『ハナが言うには、敵襲を受けて気が付いたらここにいた…との事ですが、状況から考えると誰かに逃がされたのではないかと』
アルベルトの考える疎開や戦災孤児と華はどうも結び付かない。
『それは…いずれ国が落ち着いたら誰かが迎えに来ると思った方がいいのか…?』
『あるいは』
ロットバルトの言葉にアルベルトが同意するのと同時に『ひゅっ』っと大きく息を吸い込む音がして、全員の視線がグレイルに向いたが、グレイルはこの世の終焉が来たような顔をして真っ青になっていた。
それを見やってアルベルトはひとつため息を吐いて言った。
『…ただ、ハナはもう国には戻れないと思っているようなのです。迎えも来ない、家族にももう会えないと』
『そう、本人が言っていたのか』
『はい』
アルベルトは華の藤棚さんを思い出す。
華が頑張って作ったと言う壁や屋根。
細い竹をいくつも並べて作った壁は綺麗でとても趣きがあるが、枝葉が付いたまま。
茅の屋根は、華が自分で厚みが足りない、もっと積みたいと言っていて、配達の面々が積み直したと聞いている。
それらは丈夫な確りと安定した造りの6本の柱に支えられていた。
アルベルト達に出会うまで、ろくな刃物も持っていなかった華にあの家の柱が立てられるとは思えない。
(そう言えば宝剣があったな…)
華の持つ守り刀の報告を思い出したアルベルトだったが、やはり華が家の柱を立てられるとは思えず、華をあの山中に逃し、家の柱を立てた人物がいると予想していた。
華の持ち物にしても、敵襲があって逃げて来た割には調いすぎている。
水と食料だけではなく、身だしなみの道具に筆記用具、裁縫道具…。きちんと準備された避難グッズだと思われるのだ。
軍人の家系の娘だからといって普通そこまでしてこんな遠い国の山中に逃すだろうか。
もしもその役目を負った者がいるのであれば、その後華を独り置き去りにする意味はなんだ?
戦争中の自国に戻ったか、それとも不測の事態なのか。
華には町にいるときの影供は元より、常時ではないが配達と称して山でも警護をさせている。
余人の影はないと分かっているので、陰ながら見守っているという線も無い。
迎えは恐らく来ないだろう。
グレイルが心配するような事にはならないはずだとアルベルトは思った。
華を逃がした者の行動原理が忠義であるのならば、恐らくその忠義によって自国へ戻ったのだろう。安全な場所の華についていることよりも主の元へ舞い戻ることを選んだのではないだろうか。
逆に雇われたり義理等でここまで連れて来たのだとしたら。依頼がそこまで、もしくは義理を果たしたと見なして華の元を離れたのではないだろうか。
どちらにせよ、華の言う通り、迎えは来ないだろう。
グレイルが怖れなければいけないのは、華が思い立って自国へと向かう事ではないだろうか。
何処にあるのかわからないような国だが、華は帰ろうと思ったら東の果てに向かって突然旅立つ位はしそうな娘だ。そうなれば止める権利はアルベルト達には無いが、このままだとグレイルは追いかけて行きそうな気がする。
(まったく、目が離せないな…)
『とりあえず、然り気無くというのは無理ですが、ニホンという国や戦争中のベイエイ、シナという国についても山脈の向こうに問い合わせてみます』
『円環を戴く盾の王国か…。確かに山脈より東の国であればそのニホンの事は知られているやも知れんな』
ピエールがアルベルトに同意する。
『それと草原の国と聖王国にも』
『なに!?草原の国は部族連合国とは言っても国としての体を成しておらんではないか!いったい何処に問い合わせるというんだ?』
常に移動し続ける部族単位の連合国家は、国交や貿易をしたくても窓口が迷子の事が多い。
驚いて言うピエールにアルベルトは事も無げに答えた。
『知り合いの部族長に宛てますよ。…私と同世代なのでまあ、生きていれば返事が来るでしょう』
聖王国には華の住む山の聖獣だか幻獣だかについても問い合わせるつもりだった。
シリア聖王国の守護神獣はフェニックス…鳥の姿をしているのだ。
その場の全員がはっと息を呑んだ。
『何処と、と聞くとベイエイ、シナと…』
『知らんな…。聞いたことがない』
ピエールが唸るように言う。
誰も聞いたことがないような遠い国同士での戦争。大公国に影響はまずないはずだが、戦災を逃れてこの国に来ている者が実際にいるのだ。
『ハナが言うには、敵襲を受けて気が付いたらここにいた…との事ですが、状況から考えると誰かに逃がされたのではないかと』
アルベルトの考える疎開や戦災孤児と華はどうも結び付かない。
『それは…いずれ国が落ち着いたら誰かが迎えに来ると思った方がいいのか…?』
『あるいは』
ロットバルトの言葉にアルベルトが同意するのと同時に『ひゅっ』っと大きく息を吸い込む音がして、全員の視線がグレイルに向いたが、グレイルはこの世の終焉が来たような顔をして真っ青になっていた。
それを見やってアルベルトはひとつため息を吐いて言った。
『…ただ、ハナはもう国には戻れないと思っているようなのです。迎えも来ない、家族にももう会えないと』
『そう、本人が言っていたのか』
『はい』
アルベルトは華の藤棚さんを思い出す。
華が頑張って作ったと言う壁や屋根。
細い竹をいくつも並べて作った壁は綺麗でとても趣きがあるが、枝葉が付いたまま。
茅の屋根は、華が自分で厚みが足りない、もっと積みたいと言っていて、配達の面々が積み直したと聞いている。
それらは丈夫な確りと安定した造りの6本の柱に支えられていた。
アルベルト達に出会うまで、ろくな刃物も持っていなかった華にあの家の柱が立てられるとは思えない。
(そう言えば宝剣があったな…)
華の持つ守り刀の報告を思い出したアルベルトだったが、やはり華が家の柱を立てられるとは思えず、華をあの山中に逃し、家の柱を立てた人物がいると予想していた。
華の持ち物にしても、敵襲があって逃げて来た割には調いすぎている。
水と食料だけではなく、身だしなみの道具に筆記用具、裁縫道具…。きちんと準備された避難グッズだと思われるのだ。
軍人の家系の娘だからといって普通そこまでしてこんな遠い国の山中に逃すだろうか。
もしもその役目を負った者がいるのであれば、その後華を独り置き去りにする意味はなんだ?
戦争中の自国に戻ったか、それとも不測の事態なのか。
華には町にいるときの影供は元より、常時ではないが配達と称して山でも警護をさせている。
余人の影はないと分かっているので、陰ながら見守っているという線も無い。
迎えは恐らく来ないだろう。
グレイルが心配するような事にはならないはずだとアルベルトは思った。
華を逃がした者の行動原理が忠義であるのならば、恐らくその忠義によって自国へ戻ったのだろう。安全な場所の華についていることよりも主の元へ舞い戻ることを選んだのではないだろうか。
逆に雇われたり義理等でここまで連れて来たのだとしたら。依頼がそこまで、もしくは義理を果たしたと見なして華の元を離れたのではないだろうか。
どちらにせよ、華の言う通り、迎えは来ないだろう。
グレイルが怖れなければいけないのは、華が思い立って自国へと向かう事ではないだろうか。
何処にあるのかわからないような国だが、華は帰ろうと思ったら東の果てに向かって突然旅立つ位はしそうな娘だ。そうなれば止める権利はアルベルト達には無いが、このままだとグレイルは追いかけて行きそうな気がする。
(まったく、目が離せないな…)
『とりあえず、然り気無くというのは無理ですが、ニホンという国や戦争中のベイエイ、シナという国についても山脈の向こうに問い合わせてみます』
『円環を戴く盾の王国か…。確かに山脈より東の国であればそのニホンの事は知られているやも知れんな』
ピエールがアルベルトに同意する。
『それと草原の国と聖王国にも』
『なに!?草原の国は部族連合国とは言っても国としての体を成しておらんではないか!いったい何処に問い合わせるというんだ?』
常に移動し続ける部族単位の連合国家は、国交や貿易をしたくても窓口が迷子の事が多い。
驚いて言うピエールにアルベルトは事も無げに答えた。
『知り合いの部族長に宛てますよ。…私と同世代なのでまあ、生きていれば返事が来るでしょう』
聖王国には華の住む山の聖獣だか幻獣だかについても問い合わせるつもりだった。
シリア聖王国の守護神獣はフェニックス…鳥の姿をしているのだ。
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