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しおりを挟むー「うっ……うぅ……怖かったよう……怖かったよう……」
談話室で椅子に腰掛けるサラに、膝立ちで抱きつきながらめそめそと泣く耀介を、高鷹と珠希、大吾郎がぽかんと眺めている。サラはなだめるようにその背中を撫でているものの、彼もまた困惑して耀介越しに3人と顔を見合わせた。むろん談話室には他の寮生もたむろしていたが、皆彼らを視界に入れぬように不自然に顔を逸らし、やがてその雰囲気に耐えきれなくなったのか、ひとり、またひとりと部屋から去っていった。
「おい、あれ何なんだ?」
「わかんない」
「てゆーか何で泣いてるんだ?」
「や、やきゅーでしごかれ過ぎたんじゃない?」
「はあ?ノイローゼかあいつ」
「ほら、大会も近いし……もう1ヶ月ないんでしょ?」
「そんなんで今さらあんなメソメソ泣いてるようなメンタルじゃ、甲子園どころか地区予選すら100パー無理だろ」
「そんなこと言ったって……」
「それよりさ……耀介って……サラのこと……」
「おう、あいつらあんな仲良かったか?」
「たぶん甘えられる人がサラしかいなかったんじゃない?サラって何か、来るもの拒まずなとこあるし……」
「何だって甘えてやがるんだ!」
後ろを向いてヒソヒソと話し合う。先ほど汚れたユニフォーム姿で突如談話室に現れた耀介が、4人の姿を見るなりじわっと涙を浮かべ、なぜかサラに飛びついておいおいと泣き始めたのだ。
「よ、よーすけ……どうしたの?」
サラがようやく恐々と尋ねると、耀介は涙で濡らした顔で見上げ、「うず……渦川が……渦川と天音が……」と絞り出すような声で発した。だがそこでふと思いとどまった。恐らく誰も知らない彼らの「密会」を、衝動に任せて勝手に明かしていいわけがない。
「……いや、悪い。何でもねえ。ちょっと混乱して……」
「よーすけ……ハルヒコと天音が、なに?」
「……」
「何か見たの?」
「言えねえ……」
するとサラが少しだけ何かを考えてから、切り出した。
「……実はね、昼過ぎから、天音の様子がずっとおかしかったんだ」
「え?」
「お昼頃に、外で気絶したみたいでね」
「き、気絶?」
「うん。そのあと杉崎さんに診てもらったら異常ナシって言われたらしいんだけど、起きてから言ってることがあまりにも変だったから、明日みんなで大きい病院に連れてこうかって話してたところで……前の部屋に戻ってたのも、天音が言い出したことなんだ」
「そうだったのか。……でもなあ……」
親指で涙を拭うとようやくサラの身体から腕を離し、サラは安堵したように小さく息を吐いた。サイズ感やフォルムが気に入っている白地のTシャツの腹部には、耀介の涙のシミと、顔についていたらしい泥汚れが付着している。目には見えないが、練習後の砂の混じった汗や皮脂もまんべんなくつけられているだろう。(買ったばっかりなのに……)とげんなりするが、口には出さなかった。
「おいよーすけ、どうした?」
「何があったの?」
「……」
こちらを探るような3人の瞳。そして大吾郎はまた少し違った色合いの目をしているので、(まずいことしちまったな)と耀介は気まずい思いに駆られた。しかしむさ苦しい男しかいないこのジャングルのような寮の中で、唯一すがれるのがサラのように感じ、光に吸い寄せられる羽虫のように思わず飛び込んでしまったのだから仕方ない。別に何も特殊な感情は抱いていないのだ。それよりも、あの光景の衝撃があまりにも凄まじく、当然だがまだ整理はついていない。
「……何でもねえ」
「部活でつらいことでもあったのか?顧問にブン殴られたんなら警察かマスコミに言えよ」
「違う」
「よーすけ……」
「ふーー。……アイス食お」
「耀介、渦川くんと何かあったのか?」
大吾郎に問われ、ギクリとなる。
「いや……」
「そういえばよーすけ、天音とハルヒコくんの部屋、行った?」
「………」
「耀介?」
「なあみんな、天音って、渦川のこと好きじゃなかったよな?」
「へ?」
「え、ええ……どーだろ?」
「いや、かと言って嫌いでもないだろ。あいつも文句言いつつ、けっこー楽しそうなとこあるし」
「うん……前は本気で嫌がってたけど、今はね」
彼らの思わぬ返答に、「そ、そーだったか?俺にはそうは見えなかったけど」と耀介が困惑した。
「昨日の夜だって、池田くんたちもいるけどドライブに出かけてたじゃん。本気で嫌な相手となら絶対出かけてないでしょ」
「……じゃあ、ふたりって……仲は悪くないのか?」
「と思う」
珠希が言うと、他ふたりもコクコクとうなずいた。サラを振り返ると、彼も小さく1度だけうなずいた。
「はーー……そっか。そーゆー感じか」
「ねえ、何があったの?」
「……さすがにちょっと……」
「ここまで変な雰囲気にしたんだから言いなよ」
「そーだそーだ、もったいぶるな」
「……なあ、何があっても、天音のこと嫌いになったり、避けたりとかしないって約束するか?渦川は元から好きでもなんでもねえからどーでもいいけど」
「するする」
「……まさかついにカイザーを殺したとかじゃねえよな?だとしたら少しだけ今後の付き合いは考える」
「いや、生きてる」
「じゃー何?」
珠希がややウンザリした顔で問う。すると耀介が「集合」と片手をあげ、サラの周りに男たちを集めると、「俺らだけの秘密だぞ」と声をひそめた。
「……あ、天音がな……」
「うんうん」
「天音が……渦川の……」
「うんうん」
「渦川の……チンコを……」
「うん……ん?」
「ギンギンに勃ったチンコを……」
「……」
「しゃ、しゃぶっ……てた……」
「「「「?!」」」」
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