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ー「天音」

ハッと目をさますと、心配そうにのぞき込む秋山の顔を見てすぐに状況を察し、またか……と苦い気持ちになった。

「どうした?具合悪い?すっげーうなされてた」

「ごめん……平気。いま何時?」

「7時」

「ごめんね、起こした?」

「いや。俺今日も朝練あって、もう起きてたから」

「そう……」

「なんか飲むか?」

「ううん、大丈夫。僕ももう起きる」

「今日はどっか行くの?」

「うん、また今日も地元に帰る」

「そっか。……なあ、ホントに平気?」

「そんなにうなされてた?」

「うん……」

「たまに変な夢見るんだ。たぶんまたうなされると思うけど、気にしないで。気になるかもしれないけど」

「悪夢か。俺もたまに見るけど、うなされてんのかな?」

「今のところ平気だよ」

「そう?ならいいけど」

目の端に涙が溜まっている。秋山は指摘してこないが、きっと眠りながら泣いているところを見ていたに違いない。だが何でもないように「地蔵の呪いだったりしてな。」と茶化すように言われたので、天音も笑いながら「あー、たぶんそれだ」と能天気に返した。
秋山が出て行くころに洗面を済ませ、私服に着替えた。

まだ起きる時間でもないが、頭はすっかり冴えてしまった。日曜のこんな時間に起きているのは久しぶりだ。ひどいときには昼近くまで寝ている日もあるというのに。

「あ……」

窓の外に、ウエスタンハットをかぶりサングラスをかけたハルヒコの姿が見えた。部屋着と外出着の区別がない彼は、起きたままの格好でスケボーに乗り、釣竿を持って河原の方へ去っていく。天音は安堵した。今日も尾いてこられてはたまったものじゃない。早く起きてしまったことを連絡すると、恋人から「俺も起きてるから来なよ」と返ってきたので、「鬼」の居ぬ間にさっさと寮を出ることにした。


行きがけに、よけいなことと思いつつも河原のグラウンドを通ってみた。すると案の定、こんな早朝から呼び出された哀れな池田と並んで、川で釣りをしているふたりの背中が遠くに見えた。以前は休日ともなると、このあたりの子供らと野球をして遊んでいると池田から聞いていたが、街の不審者情報にハルヒコによく似た人物が近所の子供を連れ回していると出回ったため、もう触れ合ってはいないのかもしれない。池田によると、いっしょに野球をした少年らをただ家の近くまで送り届けてやっただけらしいが、このご時世に見ず知らずの「大人」と子供は、どんな理由であれ関わりを持ってはならないのだ。

(あいつホントーに池田くんのことお気に入りなんだな。そして池田くんもよく付き合えるなあ)

そんなことを思いながら彼らの背後を通りすぎ、今日は尾行されずに無事に改札を通過した。

地元の最寄駅ではなく、そのふたつ手前の地下鉄の駅で降り立つ。外国人観光客や美術館・博物館などの客で、休日ともなると人で溢れかえる地域ではあるが、この駅で降りるものはほとんど地元住民である。「敬吾」が職場の学校からこれほど離れた場所に住まうのも、この密会を天音の友人らに見られることがないように、という配慮によるものだ。

それから、彼の出身地はもっと都心に近いところだが、このあたりの土地の古めかしいたたずまいを気に入っているのもあり、大学を出てからここに移り住んだのだ。しかし敬吾が住むのは、大通りの路地を入ってすぐのまだ新しいマンションであった。そこからどんどん奥地に入っていくと、昔ながらの家々がまだ残っている区画がいくつか点在し、天音の実家は地下鉄の駅ふたつ分先の、そういう家々の群れの中に建てられていた。彼のことも何度か招いており、両親とも顔なじみである。


改札を出ると、敬吾がわざわざ迎えに来てくれていた。天音は顔を綻ばせ小走りで駆け寄るが、人目があるので腕をからめたいのをこらえて、友人のように歩き出した。

「こないだからずっと眠そうな顔してる」

「うそ。……まあ、昨日ゴルフの後に部活に顔出しに行って、そのあと期末のこと考えたりしてたから、ちょっと疲れたのかもな」

「また忙しくなるね。それにしても、見るたびに焼けてく」

「この時期にゴルフ行くと一瞬だぞ。まあ水泳もだけど。天音もどっちかやる?」

「どっちもやらないってば」

「ふたりで真っ黒んなろう」

「やだ。……ちょっとならいいけど」

「今年も海行こうな」

「……うん」

背の高い彼を見上げ、ほほえんでうなずく。彼のマンションはここから公園を突っ切り、10分とかからないところだ。この距離が、帰りには一瞬に感じるほど短くなる。次の日からはニセモノのふたりにならなくてはならないが、それが楽しかったのも「初めのうち」だけだった。

今日の昼過ぎに、敬吾は服のデザイナーをしている友人から新作の展示会に招待されており、天音もそれに同行する予定だ。
それまでは敬吾が新しく買う車を選ぶつもりであるが、だいたいの目星はすでについているらしい。部屋に上がると窓が開けっ放しで、「いつも危ないって言ってるじゃん」と天音が注意すると、「朝っぱらから3階のベランダに登ってくる奴なんかいないよ」と敬吾はのんきに返した。窓を閉めてエアコンをつけると、カーテンを引く間もなく敬吾は天音の身体を抱きすくめ、首筋にキスをした。

「待って……来るまでに汗かいたから、シャワー浴びたい」

「だめ」

「しょっぱいよ」

「それがいいんだよ」

「何それ……」

そのままソファーに押し倒され、重なり合いながら深いキスを交わした。

「何でお前って、こんなにいい匂いするんだろうな」

「ケイちゃんはちょっと汗くさい」

「悪かったなあ。……ああ、制服姿もいいけど、今はやっぱり私服のまんまがいいな」

「もう制服に見飽きたんだね」

「それもちょっとある。あとやっぱ、制服だとガキっぽいな」

敬吾がニヤリと笑い、天音のTシャツを胸の上までまくりあげ、乳首を吸おうとして頭をつかまれた。

「気持ち悪いからやだってば」

「そのうち良くなるって」

「でも……」

嫌がる天音の腕を取り、強引に舌を這わせる。天音は眉根を寄せ、その刺激に耐えた。何度愛撫されてもこの感覚は好きになれない。だが敬吾は「これ」が好きなのだ。吸いながら片手でジーンズのボタンフライを器用に外し、下着も脱がされ、天音はまくりあげられたTシャツ1枚になった。

「触って」

敬吾の手に導かれハーフパンツの中に手を滑り込ませると、下着ごしにすっかり硬くなった彼のペニスに触れる。すると彼は下着ごと脱いで、勃起しかけたペニスを天音の手に握らせた。彼は天音の目に見つめられながらしごかれるのが好きなのだ。天音は気恥ずかしいが、彼はすっかり夢中になっている。見つめ合ってペニスをしごいてやり、やがてまた舌を絡めあうころには、敬吾のペニスは完全に大きくなり、強く握ってもびくともしないほど硬くなっていた。

「1週間は、やっぱり長いな」

「あっ……」

彼の節くれだった長い指が、「中」をこじあけるように侵入してくる。

「1週間以上は、気が狂いそうになる」

耳に熱い息があたり、天音はギュッとまぶたをとじて身をすくめた。彼の指は、犯してほしくない場所まで難なく行き当たる。だがこのあとにはもっと深いところをえぐられるのだ。

「余裕」があれば敬吾は口での愛撫をねだるが、今日は性急だった。天音以外に客を招かないせいか、先週からリビングに堂々と置きっぱなしにしてある潤滑剤を仕込むと、同じくそのかたわらに放ってあったコンドームをかぶせてから、亀頭をあてがいつつキスをして、そのままゆっくりと腰を押し進めた。だが何度セックスをしても、天音の中は毎回「リセット」されたかのごとく狭まり、すっかり膨張しきった敬吾のペニスは簡単には入らず、いつも少し強く挿入する。「また俺が入るの嫌がってる」と敬吾がいうと、「そんなわけない」と少し余裕のない顔で天音が笑った。

そのまま少しずつ入っていくと、半分を過ぎたところでひと息に根元まで入り込んだ。天音は眉を寄せてその衝撃に声を漏らし、敬吾はしばらくその感覚を堪能するかのように、腰を動かさずおおいかぶさったままじっとして、肩に顔をうずめた。抱き合いながらじっとするが、やがて敬吾が動き出し、指よりもずっと深い場所に与えられる衝撃に、天音は身をよじった。だが狭いソファーの上で、力強い彼の手に両腕を引っ張られるようにとられて、なすがままで激しくなっていく彼の突き上げに耐える。

痩せた身体を見下ろしながら、敬吾の中で、天音の知らない男の征服欲が徐々に増幅していく。これが満たされることは決してない。なぜなら毎回同じ渇望が生まれるからだ。それでも満たそうとするかのように、いよいよ突き上げは音を立てるほど激しくなった。

「ケイちゃ……やだ、強い、やっ……」

揺さぶられながら苦しげな声をあげるが、苦しいだけでないことはわかっている。だが、苦しいのも本当だ。少しだけゆるめるが、速度を落とすだけで力強さは変わらない。変えられる余裕が、いまはなかった。

天音は、弟の友達だ。初めて実家にやって来たときからなぜだか頭を離れなかったから、きっと一目惚れをしたのだろう。友人である弟には、決して明かせない関係を望んだことは悪く思うが、手に入れたいという願望には抗えなかった。

脚を深く折り曲げさせ、固定したまま再び速度を上げ、我慢などせずにこのまま射精に向かうため腰を振りたくった。天音は壁の向こうにいる隣人を気にして声を押し殺していたが、本能で攻め立てられる衝撃にはやはりかなわない。悲しくもないのに勝手にあふれた涙がこめかみに伝っていく。そして敬吾は声をふさぐような深いキスをすると、上体を起こして全てをぶつけるように奥を抉り、ケダモノのように突きまくった。普段は眠っているあらゆる感情が最高潮に近づいていき、そこにたどり着く前に、ペニスは限界を迎える。

「あっ……イク……出すよ……はあ、ああっ……」

うめくような声を発し、いつもより早く敬吾が果てる。ペニスが生き物のようにビクビクと腹の中でうごめき、射精の勢いによってコンドームの先端部分に奥深くを優しくくすぐられる。その感覚がいやに強烈なせいか、意思とは無関係に、自分の内部も彼を包み込んだままぎゅうぎゅうと収縮を繰り返し、まだ足りないかというようにペニスを離そうとしない。さっきまで固く拒んでいたのが、ようやく素直になったかのようだ。
ようやくペニスの蠕動がおさまると、またキスをされ、ずるりと引き抜かれる。「すっげー出てる」と彼が笑い、天音がちらりと視線をやると、コンドームの先端には白濁液が充ちて重そうに垂れ下がっていた。
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