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しおりを挟む「ねえ、やっぱりやめようよ。さすがに良くないよ」
「ここまでのこのこついてきておいて、今さら何を言う」
「君が僕のスマホを取り上げたりしなければついて来てない」
「これが生命線なんだから仕方あるまい」
池田がため息をつき、トボトボとハルヒコの後をついていく。彼は昨夜天音たちの不在のあいだに部屋に忍び込み、天音がしょっちゅう履いているジーンズのポケットに、ペットの首輪に取り付ける小型の発信機を忍ばせたという。そして位置情報は池田のスマホと連動させられた。犯罪的なやり口に引いているが、尾行を止めきれなかった自分も同罪なのかと思うと嫌気がさした。
だが発信機から読み取れる行動範囲はせいぜい数百メートルだ。電車に1本乗り遅れたので、天音との差はもう10分以上の開きがある。なぜこの駅に降り立ったのかというと、先週天音が気まぐれに買ってきた土産の菓子が、この駅の商店街で売っているものだと調べがついたからだ。
ハルヒコは天音の行動より、行方を追うこと自体を楽しんでいた。まさしく行方不明のペットを探す業者のようで、探偵ごっこのつもりだった。誰と会っているのかも気になるが、どんな女で童貞を捨てようとしているのか、あるいは捨てたのかと確認したなら、もうそれでいいと思っていた。この大がかりで姑息な追跡も、日曜日の暇つぶしに過ぎないのだ。
「お?」
突如画面に変化が起き、ターゲットを示すマークが出現した。
「池田、ビンゴだ。奴はすぐ近くに潜んでる」
「見せて……なんだ、駅からこんな近いじゃないか。わざわざ商店街を抜ける必要なかったんだ」
「性能の低い発信機だな。やはり安物はダメだ」
「でも怖いね、こんなふうに居場所がわかっちゃうなんて」
「居場所がわからなけりゃペットを見つけられないだろう」
「そうじゃなくて、使い方ひとつでこんな怖いものになるんだ、ってこと」
「だが愉快なシロモノだな。いい遊び道具だ」
「君みたいな悪趣味な人にはね」
地図の通りに路地へと入っていくと、ふたりはターゲットの潜む建物まであっさりたどりついた。それは8階建てのごく普通のマンションで、立派なものではないがオートロックになっていた。
「やっぱり、星崎先輩の友達の家じゃない?」
「豪雨の中でも会いに行きたくなるほどの友達なんているか?」
「……いるのかもよ」
「友達とは思えん。だが性欲に支配されていれば嵐などメじゃない。ぜったいに女だ」
「でもそれを確かめるにしたって、ここから出てこなきゃわかんないだろ。ずーっとこの炎天下の中で待つつもり?それならもう、スマホはいいから僕は帰るよ。明日返してくれ」
「待て待て、ここまで来といてつれないこと言うな。それにしても、位置がわかっただけで何階にいるかまでは表示されないとはな」
「そこまでストーカーに優しくないってことだ」
「むう……」
腰に手を当てたままハルヒコはしばらくマンションを見上げた。そして言った。
「覗けるとしたらあの角部屋……せいぜい3階までだな」
「は?」
「ベランダの前に電柱がある」
「ちょっ……まさか登るつもり?」
「カンタンだ。見てろ」
「待って待って待って!見られたら捕まるぞ!」
「偶然お巡りが通りがかればな。お前は下で見てろ。通報してる奴がいたら教えてくれ」
「ハルヒコくん!」
彼は一跳びで電柱の足掛けのようなところにぶら下がり、そのままサルのようにスルスルと登っていってしまった。
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