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しおりを挟むー「なんだよ水くせえぞカイザー!もっと早く大々的に言えよお!」
部活の練習から戻った高鷹、耀介、大吾郎を交え、7人は裏庭で小さな即席の誕生日会を開いた。宅配ピザと寿司を注文し、スーパーで買ってきたペットボトルのジュースをクーラーボックスに入れ、ついでにプールとパラソルとレジャーシート、そしてビーチチェアの「リゾートセット」も設置してある。
「サラは知ってたんだね。だからあんなこと……」
「そう。僕じゃ上手く焼けないから」
「ハルヒコ、はじめから素直にそう言えばよかったじゃん。知ってればもっと凝ったやつも作ってあげたのに」
「恥ずかしかったんだろ」
「よかったねえハルヒコくん、ほとんど君のおごりだけど、楽しい誕生会にできたね」
「ごちそうさま渦川くん」
「貴様ら、ここぞとばかりに俺にタカリやがって。なぜ自分の誕生日にポケットマネーでお前らにピザと寿司を振る舞ってやらなきゃならんのだ」
「だって君の方が年上だから……あとみんなそんなにお小遣い持ってないし……」
「バカ高鷹もそれなりに金は持ってるだろ」
「何を言う、俺だって免許とバイク代でカツカツなんだぞ。あとその辺にはもう触れるな」
「まーまーいいじゃん。天音のホットケーキもあるし。材料費も渦川持ちだけど」
「大事なのは思い出だよな」
「そのとおり」
ハルヒコはひとりプールに浸かりながら、勝手なことばかり言う男たちを水鉄砲で狙撃する。「食ってるときはやめろ!」と高鷹がむせるが、空梅雨の快晴の真下で、めでたいムードに包まれた今日の裏庭はいちだんと賑やかであった。女子寮ならきっと毎日笑いが絶えないに違いないが、こちらは刑務所のようにどことなく退廃した味気ない男子寮だ。友
人と四六時中一緒とは言え、取り立てて愉快な出来事もなく、食事どきには刑務作業前の囚人のごとく、シケた顔を突き合わせて飯を貪るだけのむさ苦しく乾いた男同士の暮らし。そんな男たちの集団で、誕生日会をやろうなどと酔狂なことを言い出す者は当然これまでひとりも無く皆静かに年を重ねていったが、実際にやってみるとたまにはこんな集まりもいいものだと感じる。
それにこの7人は、寮内でも異色かもしれない。友達というより性格のバラバラな兄弟のようで、家族ではないが家族といるよりもラクな他人同士だ。くだらない言い合いはしょっちゅう起きるけれど、ケンカというほどの面倒ごとも起こらず、何かに引き寄せられるようにいつも自然と集まってしまう。ハルヒコが来てからは常にイライラさせられっぱなしで精神的に磨耗してはいるが、天音はやはりこの寮暮らしを選んで良かったと今になって実感していた。
サラ以外の仲間たちについて深く考えたことはないが、こういうくだらない付き合いこそ、学生生活においてもっとも必要な心から安らげる関係のように思える。そして青春というものを欲していたわけではないが、自分にもこういう時間が訪れたことを、純粋に嬉しく思っている。人生の中であきらめていたもののひとつが、ここに飛び込んだことによっておのずと手にできたのだ。きっと運が良かったのだろう。
ハルヒコにも、それは同じなのかもしれない。いつもの仏頂面に変わりないが、この付き合いの中で彼のわずかな表情の変化を読み取れるようになった天音には、彼が今までにない顔をして喜んでいるのがよく伝わってくる。この先もこの男との波乱は免れないだろうが、少なくとも今の気持ちと今日この日のことは、きっと永遠に忘れないだろうと思った。
ー「誕生日おめでとう!」
追加で焼いた大きなホットケーキに、19本の色とりどりのロウソクをぐるりと刺して着火する。ただでさえ陽射しの強い中で、ホットケーキの周りは灼熱地獄のような熱さとなる。それをハルヒコがひと息で吹き消すと、みんなで手を叩いて「おめでとう。」と口々に彼の誕生日を祝った。
「来年のハタチの誕生日はシャンパンタワーだな、カイザーの自腹で」と高鷹が言うと、「いいねえ、それまでに100万くらい貯めとけよ」と耀介が黒い笑みを浮かべてハルヒコの肩に腕を回した。
ハルヒコはしばらく考えたのち、「……俺はコーラタワーでいい」と真面目な顔で返した。
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