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「ーーおいルチオ」
仏頂面で私たちの話を聞いていた師匠がいきなり、新人の中でも一番年の若いルチオに声をかけた。
「は、はい!」
「ーー例えば、お前がお嬢の手伝いをする。 そんときの報酬は何が良い? 金か?」
「え……ーーなんでも良いんですか?」
ーーこの話の流れで、私が差し出せるものでなんでもってなると……ーー
「ーー宝石とかはちょっと」
あれは、うちの生命線だから。
皆の生活を守る最後の砦だから。
「そこまでの要求なんてしないです⁉︎」
私の言葉に、慌てて返すルチオ。
「なんでもとか言うから……」
私は唇を尖らせそう続けたが、師匠の大きくてわざとらしい咳払いが聞こえてきたので、スッと口をつぐんだ。
師匠怒る怖い。 ダメ絶対。
「……ご飯が良いです。 ーーあとお菓子とかでも」
「え?」
……あれぇ? これはもしかして……忖度されている……?
「お嬢のご飯も美味しくて大好きですけど、たまに貰えるお菓子なんか、持って帰ると家族で取り合いになるくらい大人気で……ーーお嬢は手間がかかるって言ってたんで、ちょっと申し訳無いんですけど……ーーでも、お金と比べるんだったらご飯やお菓子のほうが、ずっといいです!」
目をキラキラと輝かせ、満面の笑みでそう言われて、私の胸がギュウンッと締め付けられる。
ーー初めての感覚だけど、はっきり分かる……
これが、母性……っ!
「……今度作り方教えようか?」
「えっ⁉︎ 良いんですか⁉︎」
そこまで好んでくれるならば……と、申し出た私に、ルチオはパアァァァッと顔を輝かせた。
ニッコリと笑って了承しようとすると、エド様が慌てたように私たちの会話に割り込んできた。
「待て待て待て!」
「エド様?」
「ーーイルメラ嬢、あの料理も菓子のレシピも、ベラルディ家の財産なのでは?」
「ーーあっ……⁉︎」
慌てたようなエド様の言葉で、私はようやくお貴族様の常識というものを思い出していた。
今回の差し入れのように、自分の家だけで考案された料理やお菓子のレシピは、当主以外がよそでペラペラ喋ってはいけないのだ。
特別な料理や調理法ならば、それすらも家同士の交渉の手札になり得るから為だ。
私が黙っていればバレないような気もするけど、最悪を考えたら教えない方がいい。
「ーーごめんルチオ。 勝手に教えたらダメなヤツだった。 私もう一回やらかしたらとてもヤバいし……下手したらルチオの家族もヤバくなっちゃう」
評判を気にするお貴族様は、そのプライドを守るためだけに、時としてとても残酷な手段をとる場合があるのだ……
「それは絶対ダメです!」
少し顔色を悪くしたルチオが、手をブンブンと振りながら慌てたように言った。
「ね? ーーなら……代わりに今度お菓子たくさん作ってきてあげる。 だからいっぱい持ってお帰り?」
「は……はいっ!」
私の提案にルチオは、またパアァァァッと輝くような笑顔を浮かべる。
そんな様子に、私の母性は再びギュムギュムと締め付けられたのだった。
「なーにー? ルチオだけとかヒイキー」
「ですよねぇ? 私たちだってお嬢のお菓子が大好物なんですよ⁇」
私の提案に、ここぞとばかりに新人治癒師たちから不満の声が上がる。
ーー始めの頃なんか、私が挨拶しただけでカッチカチに固まってた子たちが、私のお菓子が大好物とまで……っ!
これはアレに似ている……警戒心マックスだった猫が懐いてくれた時のあの達成感……!
「なら皆が持って帰れるくらい沢山作ってくるよ。 ーー今ならリクエストも聞いちゃう!」
ご機嫌でクスクスと笑いながら、そう答えた。
「チョコ!」
「マシュマロ!」
すかさず答える二人だったが……
ーー的確にめんどくせぇ物ばかり……
チョコなんて、代用品を空炒りする所からなのに……ーー大体、どっちも一回か二回くらいしか作ってきてないのに、よく名前まで覚えてたな……?
でもお菓子作りは時間がかかるから、私も手伝っての一大プロジェクトになるわけで……いや、うちのメイドさんたちもお菓子好きだから嫌がらずに手伝ってくれるけど……その分量が増えるから、さらに時間がかかるわけで……
「ーー少々のお時間をいただきます」
立て続けには無理です! うちの使用人たちの仕事をこれ以上増やしてはなりませぬ!
私の答えに、新人治癒師たちはそっくりの仕草で不満げに唇を尖らせる。
そして、そんな新人たちをニヤニヤと眺めていた師匠やベテランの先輩方は、顔を突き合わせつつ満足そうに話し合う。
「三回になるなら、ワシらは3回分のおこぼれに預かれそうじゃねぇか」
「そうッスね? ーーお嬢の菓子持って帰ると、思春期でなかなか口聞いてくれねぇ娘が寄ってきてくれてなぁ……」
「ーー今日はお菓子ないけど、おかずでよければ余ったの持って帰る⁇」
以外に切実な理由が聞こえてきて、私は思わず口を挟んだ。
そしてお菓子を作ってこなかったことを後悔すると共に、次からは出来るだけお菓子も作ってもらおうと心に決めたのだった。
ーー大量にチョコを生産して小出しで使うのが、結局、時間短縮になる気がする……
チョコになるまでがめんどくさいんだけどねー。
「ーーいいや、いつもみたいに等分で」
そのベテラン治癒師は、周りからの視線に苦笑を浮かべると、肩をすくめてそう言った。
いい大人が、食べ物のことでそんなに不穏な空気を醸し出すものじゃないと思いますよ……?
ーーま、悪い気はしないけどー。
仏頂面で私たちの話を聞いていた師匠がいきなり、新人の中でも一番年の若いルチオに声をかけた。
「は、はい!」
「ーー例えば、お前がお嬢の手伝いをする。 そんときの報酬は何が良い? 金か?」
「え……ーーなんでも良いんですか?」
ーーこの話の流れで、私が差し出せるものでなんでもってなると……ーー
「ーー宝石とかはちょっと」
あれは、うちの生命線だから。
皆の生活を守る最後の砦だから。
「そこまでの要求なんてしないです⁉︎」
私の言葉に、慌てて返すルチオ。
「なんでもとか言うから……」
私は唇を尖らせそう続けたが、師匠の大きくてわざとらしい咳払いが聞こえてきたので、スッと口をつぐんだ。
師匠怒る怖い。 ダメ絶対。
「……ご飯が良いです。 ーーあとお菓子とかでも」
「え?」
……あれぇ? これはもしかして……忖度されている……?
「お嬢のご飯も美味しくて大好きですけど、たまに貰えるお菓子なんか、持って帰ると家族で取り合いになるくらい大人気で……ーーお嬢は手間がかかるって言ってたんで、ちょっと申し訳無いんですけど……ーーでも、お金と比べるんだったらご飯やお菓子のほうが、ずっといいです!」
目をキラキラと輝かせ、満面の笑みでそう言われて、私の胸がギュウンッと締め付けられる。
ーー初めての感覚だけど、はっきり分かる……
これが、母性……っ!
「……今度作り方教えようか?」
「えっ⁉︎ 良いんですか⁉︎」
そこまで好んでくれるならば……と、申し出た私に、ルチオはパアァァァッと顔を輝かせた。
ニッコリと笑って了承しようとすると、エド様が慌てたように私たちの会話に割り込んできた。
「待て待て待て!」
「エド様?」
「ーーイルメラ嬢、あの料理も菓子のレシピも、ベラルディ家の財産なのでは?」
「ーーあっ……⁉︎」
慌てたようなエド様の言葉で、私はようやくお貴族様の常識というものを思い出していた。
今回の差し入れのように、自分の家だけで考案された料理やお菓子のレシピは、当主以外がよそでペラペラ喋ってはいけないのだ。
特別な料理や調理法ならば、それすらも家同士の交渉の手札になり得るから為だ。
私が黙っていればバレないような気もするけど、最悪を考えたら教えない方がいい。
「ーーごめんルチオ。 勝手に教えたらダメなヤツだった。 私もう一回やらかしたらとてもヤバいし……下手したらルチオの家族もヤバくなっちゃう」
評判を気にするお貴族様は、そのプライドを守るためだけに、時としてとても残酷な手段をとる場合があるのだ……
「それは絶対ダメです!」
少し顔色を悪くしたルチオが、手をブンブンと振りながら慌てたように言った。
「ね? ーーなら……代わりに今度お菓子たくさん作ってきてあげる。 だからいっぱい持ってお帰り?」
「は……はいっ!」
私の提案にルチオは、またパアァァァッと輝くような笑顔を浮かべる。
そんな様子に、私の母性は再びギュムギュムと締め付けられたのだった。
「なーにー? ルチオだけとかヒイキー」
「ですよねぇ? 私たちだってお嬢のお菓子が大好物なんですよ⁇」
私の提案に、ここぞとばかりに新人治癒師たちから不満の声が上がる。
ーー始めの頃なんか、私が挨拶しただけでカッチカチに固まってた子たちが、私のお菓子が大好物とまで……っ!
これはアレに似ている……警戒心マックスだった猫が懐いてくれた時のあの達成感……!
「なら皆が持って帰れるくらい沢山作ってくるよ。 ーー今ならリクエストも聞いちゃう!」
ご機嫌でクスクスと笑いながら、そう答えた。
「チョコ!」
「マシュマロ!」
すかさず答える二人だったが……
ーー的確にめんどくせぇ物ばかり……
チョコなんて、代用品を空炒りする所からなのに……ーー大体、どっちも一回か二回くらいしか作ってきてないのに、よく名前まで覚えてたな……?
でもお菓子作りは時間がかかるから、私も手伝っての一大プロジェクトになるわけで……いや、うちのメイドさんたちもお菓子好きだから嫌がらずに手伝ってくれるけど……その分量が増えるから、さらに時間がかかるわけで……
「ーー少々のお時間をいただきます」
立て続けには無理です! うちの使用人たちの仕事をこれ以上増やしてはなりませぬ!
私の答えに、新人治癒師たちはそっくりの仕草で不満げに唇を尖らせる。
そして、そんな新人たちをニヤニヤと眺めていた師匠やベテランの先輩方は、顔を突き合わせつつ満足そうに話し合う。
「三回になるなら、ワシらは3回分のおこぼれに預かれそうじゃねぇか」
「そうッスね? ーーお嬢の菓子持って帰ると、思春期でなかなか口聞いてくれねぇ娘が寄ってきてくれてなぁ……」
「ーー今日はお菓子ないけど、おかずでよければ余ったの持って帰る⁇」
以外に切実な理由が聞こえてきて、私は思わず口を挟んだ。
そしてお菓子を作ってこなかったことを後悔すると共に、次からは出来るだけお菓子も作ってもらおうと心に決めたのだった。
ーー大量にチョコを生産して小出しで使うのが、結局、時間短縮になる気がする……
チョコになるまでがめんどくさいんだけどねー。
「ーーいいや、いつもみたいに等分で」
そのベテラン治癒師は、周りからの視線に苦笑を浮かべると、肩をすくめてそう言った。
いい大人が、食べ物のことでそんなに不穏な空気を醸し出すものじゃないと思いますよ……?
ーーま、悪い気はしないけどー。
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