成り上がり令嬢暴走日記！

186

　そんなリアーヌを見かねて声をかけたのはゼクスだった。

「ーー無理して食べなくていいからねー？　あ、これ下げて、さっさとデザート出してもらえるー⁇」

　困ったようにリアーヌに微笑みかけた後、テキパキとした動作でリアーヌの手からカトラリーを受け取り、リアーヌの前から皿を奪い去る。
　そしてテキパキと壁際に立つメイドに指示を出した。

「ーーいいん、ですか？」

（チェックは？　え、もしかしてもう手遅れ⁇　私不合格⁇）

　持ち去られて行く皿にホッとした表情を浮かべつつも、ゼクスを見つめ、不安にその瞳を揺らしながらながら、確認するようにリアーヌがたずねた。

「ーーリアーヌがなに考えてるか細かいところまでは分かんとないんだけどね？　でも絶対に勘違いしてるだろうなってことは分かるんだ……？　ーー……そこでお願いなんだけどさ？　ちょっとでいいから、授業の内容を思い出してほしい、かな……？」

　リアーヌを安心させるように優しい笑顔を浮かべてゼクスは言った。
　
　心の中で（だから、そんな必死の形相で食べ物を口に押し込み続けないでほしい……ーー海千山千のうちのじーさんの笑顔引き攣らせるとか、相当だぞ……？）と笑いを堪えながら。

　ちなみに、リアーヌに話しかけたゼクスのその声は、一応ひそめられてはいたが、部屋の中にいる人物ならばーー同じテーブルについている人間ならばなおさらーー聞き取れる程度の大きさはあったが、聞き取れた者全員が、聞こえなかった言葉として無反応を貫いていた。

「授業通り……？」

（ええと……食事会の目的はあくまでも交流です！　話し合いや情報の交換であることを忘れてはいけません！　そのためにはスムーズな会話運びが重要です！　そのために出された料理の見た目や味、材料などをよく観察し会話のきっかけにするとよろしいでしょう！　ーー……あれ？　私、出されたご飯食べ切らなきゃ⁉︎　とか頑張ってる場合じゃなくない⁉︎　えっと……もう食べちゃったんだから、あとは料理の感想しかないじゃん！）

　サッと顔色を悪くしたリアーヌだったがーー授業でやらかした時と同様に、ヘラリ……と笑顔を貼り付け、これまでのことを丸っと無視してゼクスの父親や祖父母に話しかけた。

「ーー大変美味しい料理ですね！　特に先程のお肉なんか、とっても柔らかくていい香りで……我が家のシェフに伝授してほしいくらいですわ」

（さぁ、輝け私の瞳！　実際お腹空いてる状態で食べたかったほど美味しかったよ‼︎　次なんていらないけど、次があるならまた出してほしいくらいっ！）

　必死の形相で食べ物を口に詰めみ続けていたリアーヌが、ようやく笑顔を浮かべた話始めたことをきっかけに、この場にいた大半の者たちが想定していた会話の流れが、ようやく予定調和という名の軌道に乗ったのであったーー