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「いやはや、素敵なお嬢様じゃないか」「本当に。 ゼクスにはもったいないほどね?」

 ゼクスの祖父母が顔を見合わせながら、上機嫌に態度でリアーヌを褒めそやす。

「全くだな」
「ハハハ……ーー私もそう思います」

 ゼクスの父親がワイングラス片手にニヤリと笑い、ゼクスを揶揄うように言うと、ゼクスはそれを笑顔で受け流しながら同意の言葉を口にした。

 これは、ゼクスが叙爵まで受けて、リアーヌとの婚約を望んだーーというストーリーに乗っ取った、お決まりのようなからかいの言葉であり、これもリアーヌの機嫌を取るための言葉であった。

「そんなこと……」

 ありません。 とは言葉にせず、恥ずかしそうに微笑んで口元に手を添えた。

(目は伏せる! 上げていいのは相手の首あたりまで! だからって猫背になるのはダメ! 背筋は伸ばしつつ、身体は硬くしない! ーーそして口角は上げる‼︎)

「謙虚でもいらっしゃるとは……ーー成績も優秀な上、溢れんばかりの商才もお持ちだと伺っておりますよ」

 ゼクスの父ーーラッフィナート商会の元代表であるクライス・ラッフィナートが、ゼクスによく似た顔立ちにニッと野生的な笑顔を浮かべながらリアーヌに話しかける。

(ゼクスとはまた違ったセクシーさ……ーーセクシーが遺伝だった……? ーーん? 今、私なんて言われた⁇ 成績優秀で商才……? ーー誰の話⁇ いや本当に誰の話なんですか?)

「……人違いでは?」
「ーーえ?」
「えっ⁇」

 リアーヌとクライスは互いに視線交わし合い、戸惑ったような顔で首を傾げ合う。

(あっやばーー視線は下げるっ!)

 リアーヌはしっかりと合っていた視線を急いで下げた。
 そして再び首を傾げる。

 そんなリアーヌにゼクスが笑いを堪えながら話しかけた。

「リアーヌ嬢は商才がおありですよ? この前ボスハウト子爵にご相談された際、斬新な発想ですぐさま解決してみせたではありませんか」

 ゼクスはリアーヌに説明するような態度ではあったが、家族に再度説明するかのようにチラチラと視線を送りながら言った。

「あーあの時の……」

(ーー確かに案は出したけど、斬新でもないし……ーーどっちかっていうと、私の中では丸パクリなわけで……)

「えっと……私は思い付きを言っただけで……」

 心底そう思っているリアーヌは気まずそうに視線を揺らしながら答える。

(やめて! 私に商才なんてあるわけないでしょ⁉︎ しかも斬新⁉︎ ーー過度な期待は即刻捨て去っていただきたい!)

 そう考えていたリアーヌだったが、まさかあの案が全てパクリだっただなんてことを暴露するわけにもいかず、モニョモニョと口を動かすことしかできなかった。
 そんなリアーヌにゼクスが声をかける前に、祖母フリシア・ラッフィナートが明るい声を上げた。

「まぁまぁ、本当に控えめなお嬢様なのねぇ? けれど、ちゃんとゼクスの顔も立ててくださるなんて良く出来たお嬢様だわ?」

(ゼクスの顔なんて、いつ立てたんです……?)
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